9/23
第9話 警報
脱出は夜明け前に実行した。
碧真は血象剤を粘膜から吸収した。舌の裏に塗布するのが最も早いと判断した。数秒後、血中で何かが展開する感覚があった。熱くはなく、むしろひどく精密な何かが流れ込んでくるような感覚だった。
フィリアが覚えていたものが、碧真の中で展開されていく。廊下の形状。扉の前に立つ距離感。カードリーダーの表面材質。磁気コードの構造。
碧真は右手を広げた。
静かに、ナイフのときと同じ感覚が戻ってきた。今度は手の平から、薄く平たい形が生まれた。カードキー。ほぼ完全な形で。
碧真はそれを手に取った。わずかに体が重くなる感覚があった。生成の負荷だ。
フィリアが隣に立っていた。二人で廊下を進む。深夜の施設は人が少なく、定期巡回の間隔を把握していた。
裏口の扉の前に立った。カードリーダーにキーをかざす。
緑のランプ。解錠の音。
扉が開いた。
その瞬間、施設内に大音量のアラームが鳴り響いた。
碧真とフィリアは同時に足を止めた。
「火災報知機です」フィリアが静かに言った。
碧真は一拍置いて、考えた。自分たちのカード操作でシステムが感知した、にしては種類が違う。これは別のトリガーだ。
(燈哉……?)
換気口の向こうから、くぐもった足音がした。




