第7話 裏口の記憶
フィリアが転送型であることは、数日後に施設側から公式に説明された。
「研究対象」として碧真と同じように収容されており、その能力については詳細な研究が進んでいるという話だった。
担当研究員の説明は淡々としていて、まるでフィリア自身が架空の存在であるかのような口調だった。碧真は黙って聞いていたが、胃の奥が静かに冷えるような感覚があった。
夜、碧真は自分の部屋で考えた。
脱出について。
高精度型IRSの能力で何を生成できるか。扉の鍵は電子錠だ。単純な物理的破壊では意味がない。ゲートには複数の警備員がいる。監視カメラは死角が少ない。
問題は、外の構造を知らないことだ。目隠しで連れてこられたため、施設の外観も立地も碧真には完全に情報がない。正面ルートは使えない。
では、別のルートがあるか。
碧真はフィリアのことを考えた。
転送型は五感で記憶した対象を格納できる。フィリアはここに長くいる。施設のどこかを「知っている」可能性がある。
翌日、中庭でフィリアに話しかけた。
「一つ聞きたいことがあります」
「何ですか」
「裏口を知っていますか」
フィリアの動きが止まった。もやしが入った小さなパックを手に持ったまま、少しだけ碧真を見た。
「……なぜ」
「脱出ルートを考えています。正面は無理です。ただ、施設の別ルートの構造情報が自分にはない。あなたは長くここにいる。もし何らかの経路を五感で記憶しているなら、それを教えてもらえれば、鍵でも構造体でも生成できる」
フィリアはしばらく答えなかった。
碧真は急かさなかった。
「……一度だけ」フィリアが静かに言った。「研究員に腕を引かれて通ったことがあります。通用口から出て、旧棟への連絡通路を使って」
「その時の記憶は?」
「全部あります」フィリアは少し間を置いた。「扉の形状。鍵穴の種類。カードリーダーの型番。廊下の幅。段差の位置。非常灯の間隔」
碧真は聞きながら、頭の中に図を描いていた。
「カードキーを生成できれば通れますか」
「カードの磁気コードも記憶しています。……その日、研究員の上着ポケットから落ちて、私が拾いました。一瞬でしたが、触れました」
碧真は目を細めた。
「触覚で分子構造まで覚えている、ということですか」
「それがIRSです」フィリアは淡々と言った。
「便利かどうかは......知りません」




