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IRSー内象再現性血症候群ー  作者: やはうぇ
第1章 邂逅と覚醒
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第6話 フィリア

 少女と初めてまともに言葉を交わしたのは、中庭だった。


 碧真が壁際のベンチに座って構造材料のことを考えていると、少女が無言で数メートル離れたベンチに腰を下ろした。特に碧真を意識しているふうでもなく、ただそこに座った。

 しばらく沈黙があった。


「食堂でよく見てますね」

 少女が言った。声は小さく、感情の抑揚が薄かった。こちらを見てはいない。

「観察してました」碧真は正直に答えた。「もやしのことが気になって」

 少女は少し間を置いた。

「……カロリーが低いので。食べ過ぎると体が重くなる」

「それは転送型の特性ですか」

 今度の沈黙は、少し長かった。

 少女がゆっくりとこちらに顔を向けた。色素の薄い目だった。何かを測るように、碧真を見た。


「……何で知ってるんですか」


「IRS関連の文献を読んでいたことがあります。転送型は体内に特殊臓器を持っていて、五感で記憶した対象を血液中にデータとして格納できる。体重管理は生成負荷を抑えるための自衛だと思いました。それともう一つ、施設内で唯一、食事内容を自分で決めているように見えたので」


 少女はまた、碧真を見た。


「……賢いんですね」

「そうでもないです」

「そうでもある、と思います」


 少女は視線を外して、また中庭の虚空を見た。


「フィリアと呼んでください。本当の名前は……あまり使っていないので」


「御影碧真です」碧真は言った。「碧真でいいです」

 フィリアはわずかに頷いた。


 それだけだった。しかしそれで十分だった。

 碧真はこの施設で初めて、対話になりそうな相手を見つけた気がした。


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