第6話 フィリア
少女と初めてまともに言葉を交わしたのは、中庭だった。
碧真が壁際のベンチに座って構造材料のことを考えていると、少女が無言で数メートル離れたベンチに腰を下ろした。特に碧真を意識しているふうでもなく、ただそこに座った。
しばらく沈黙があった。
「食堂でよく見てますね」
少女が言った。声は小さく、感情の抑揚が薄かった。こちらを見てはいない。
「観察してました」碧真は正直に答えた。「もやしのことが気になって」
少女は少し間を置いた。
「……カロリーが低いので。食べ過ぎると体が重くなる」
「それは転送型の特性ですか」
今度の沈黙は、少し長かった。
少女がゆっくりとこちらに顔を向けた。色素の薄い目だった。何かを測るように、碧真を見た。
「……何で知ってるんですか」
「IRS関連の文献を読んでいたことがあります。転送型は体内に特殊臓器を持っていて、五感で記憶した対象を血液中にデータとして格納できる。体重管理は生成負荷を抑えるための自衛だと思いました。それともう一つ、施設内で唯一、食事内容を自分で決めているように見えたので」
少女はまた、碧真を見た。
「……賢いんですね」
「そうでもないです」
「そうでもある、と思います」
少女は視線を外して、また中庭の虚空を見た。
「フィリアと呼んでください。本当の名前は……あまり使っていないので」
「御影碧真です」碧真は言った。「碧真でいいです」
フィリアはわずかに頷いた。
それだけだった。しかしそれで十分だった。
碧真はこの施設で初めて、対話になりそうな相手を見つけた気がした。




