第5話 もやし少女
食堂は広くもなく狭くもない。テーブルが六つ。昼の時間帯には三、四人が散り散りに座っている。
碧真がトレーを持って席を探したとき、窓際の一角に目が止まった。
少女が一人、座っていた。
年齢はおそらく碧真と同じか少し下。白に近いほど色素の薄い肌。骨格の浮いた細い首。目は伏せられていて、表情はほぼない。膝を抱えるように座っていて、ひどく小さく見えた。
テーブルの上にあったのは、もやしの炒め物だった。それだけだった。
他の被収容者のトレーには、ご飯と汁物と何種類かの副菜がある。それが食堂の標準の配給だった。しかし少女のトレーにはもやしの皿しかない。
碧真は少し離れた席に座りながら、それが気になった。
次の日も、もやしだった。その次の日も。
碧真は職員に聞いてみた。
「あの子の食事が毎回もやしだけなのはなぜですか」
職員は少し表情を動かしたが、すぐに平静に戻った。
「本人がそれでいいと言っている」
「本当に?」
「それ以上の質問には答えられない」
碧真は食事を終えて、少女のテーブルの近くを通りながら、さりげなく視線を向けた。
少女はもやしをゆっくりと口に運びながら、窓の外を見ていた。窓には金属格子がはまっていて、外は中庭のコンクリートしか見えない。その風景をただ、見ていた。
(本人がいいと言っている、か)
碧真はその言い方が引っかかった。
言わされているのか、本当にそれでいいと思っているのか。あるいは、それしか選択肢を与えられていないのか。
施設の中で人がどう扱われるかは、碧真にも薄々わかってきていた。職員の態度は「管理」の色が強い。被収容者は「保護」されているのではなく「収容」されている。違いは小さいようで大きかった。
もやしを選ぶことが唯一の「自分で決められること」だとしたら、それはそれで理解できる。食事の内容くらい自分で決めたい、と思うことは普通だ。ただし、それ以外のすべてを取り上げられた上でのことならば、話は少し違ってくる。
(……この子が、転送型IRSだろうか)
碧真は席を立ちながら、静かにそう思った。




