第4話 IRS管理研究所
面談を終えて通されたのは、個室と呼ぶには殺風景すぎる部屋だった。
ベッドが一つ。小さな机。窓はない。壁には何もない。
碧真はベッドに腰かけて、右手の甲を見た。薄く絆創膏が貼られている。処置は施設側の医師がした。「傷は浅い」と言っていた。確かに浅いが、それよりも問題なのは、なぜナイフが生えたのかということだ。
(IRS高精度型、か)
IRS――内象再現性血症候群。五感で記憶した対象を、体組織・血液・神経系を媒体として現実に再構築する能力。
碧真はそれを知っていた。一般にはほとんど情報が流れていないが、学術論文の周辺を漁っていけばある程度の情報には辿り着ける。
第十七染色体の変異。突然変異型の遺伝的特異体質。能力者の数は国内で推定三百名以下。
まさか自分がそれだとは思っていなかったが、今となっては合点がいく。幼い頃から、見たものを細部まで完全に覚えていた。物の質感、重さ、構造を指先で感じ取ると、それが体の中で精密な設計図になる感覚が、ずっとあった。
あのナイフは、碧真が以前、刃物の構造に関する論文と実物を組み合わせて「理想形」として記憶していた形だった。
(生物学的には面白いんだが、今は全然面白くない状況だな)
碧真は天井を見た。蛍光灯。カメラ。換気口。
扉の外に人の気配がある。常時監視されているのだろう。
翌日から、施設内での一定の行動自由が認められた。食堂、図書室、中庭と呼ばれる小さな屋外スペース。ただし常に職員の目がある。他の「被収容者」も何人かいるようだったが、互いに会話はほとんどなかった。皆、どこか削れたような顔をしていた。
碧真が彼女に気づいたのは、二日目の食堂でのことだった。




