第22話 孤児たちのこと
地下室で、志狼が話し始めた。
ランタンを三人の真ん中に置いて、床に資料を広げながら、志狼は静かに、しかし隠すことなく話した。
「研究所が設立された当初の名目は、IRS保持者の保護と能力安定化だった。政府の建前はそうだった。事実、最初の数年は本当にそうだった」
志狼はファイルを一冊開いた。訓練プログラムの記録だった。子供たちの名前と年齢が並んでいる。そのいくつかに赤い印がついていた。
「フィリアを含む最初の被験者たちは、孤児院から連れてこられた子供たちだった。政府が孤児院を買い取る形で、親のいない子供をIRS化実験に使った」
碧真は資料を見ながら、口を開かなかった。
志狼の声を聞きながら、志狼自身は別の場所を見ていた。目は資料に落ちているが、視線はその先、十二年前の白い廊下に向いているように碧真には見えた。
白い部屋。白い天井。白い服を着た子供たち。名前ではなく、番号で呼ばれていた子供たち。
「IRS化というのは、人工的にIRSを発現させる実験です」フィリアが静かに言った。「私はもともとIRS保持者でしたが、他の子供たちは違いました。化学的・遺伝的操作でIRSを人工的に発現させようとした。多くの子供が死にました」
「何人が」碧真は言った。
「実験に参加した十七名のうち」志狼は目を伏せた。「生存したのは五名だ。残りの十二名は、細胞崩壊または脳へのダメージによる人格破壊で亡くなった」
ランタンの炎が揺れた。
碧真はしばらく黙っていた。十二名、という数字が頭の中で静かに重くなっていった。年齢の欄を見ると、一番幼い子は八歳だった。
「俺は当時、訓練プログラムの担当だった」志狼は続けた。
「実験には反対していた。しかし反対しながらも、生き残った子供たちのケアをするという名目で施設にいた。いることで止められることがある、と思っていた。今思えば、それは言い訳だったかもしれない」
「でも最終的に逃げた」碧真は言った。
「逃げた、というより、」志狼は苦く笑った。「F.A.R.P.計画の実験で、ある子が壊れた。それを見て、俺はもう止まれなかった」
志狼の目が、フィリアのいる方向に向いた。一瞬だけ。しかし碧真はそれを見逃さなかった。




