第21話 地下への入り口
翌朝、志狼は碧真とフィリアを家の前に停めてあった古い軽トラックへと案内した。
「ここからかなり離れる」志狼は言った。
「旧研究所に直接つながる搬入口へ行く」
三人は荷台に簡単な装備を積み込み、車に乗り込んだ。エンジンが低く唸り、山道へと入る。
最初は林道だったが、やがて分岐をいくつも抜け、舗装路へ出る。そこからさらに細い県道へ入り、人気のない山間部を抜けていく。
景色が変わる。さっきまでいた山とは明らかに地形が違っていた。
フィリアが窓の外を見ながら、小さく言った。
「……かなり移動しています」
「旧研究所は位置を隠すために、複数の搬入ルートを持っていた」志狼は前を見たまま答えた。
「ここはその一つだ。本体からは数キロ離れている」
三十分ほど走ったところで、志狼は車を止めた。
周囲には古びたコンクリートの建物跡が点在していた。かつて資材置き場か何かに使われていたらしいが、今は完全に放棄されている。
「ここだ」
三人は車を降り、崩れかけた建物の一つへと向かった。中は空洞で、床には瓦礫と砂埃が積もっている。
志狼は建物の奥まで進み、壁際の床を指さした。
そこには、不自然に継ぎ目のある大型の金属板が埋め込まれていた。
「……これが入口ですか」碧真は言った。
「ああ。偽装された搬入口だ」志狼は答えた。「上はただの廃施設に見せかけているが、下は旧研究所の搬入通路に直結している」
志狼は床の一部の瓦礫をどけ、隠されていた操作パネルを露出させた。電源は落ちているが、内部配線はまだ生きている。
「完全な自動制御じゃない。手動で開けられる構造になっている」
工具を取り出し、カバーを外す。内部のロック機構に手を入れ、短い操作を繰り返す。
やがて、鈍い音が響いた。
金属板がわずかに浮き上がる。
三人でそれを持ち上げると、下にはコンクリートで固められた搬入用通路が口を開けていた。
冷たい空気が、下から流れ出てくる。
「行くぞ」
志狼がランタンに火を入れ、先に降りる。
三人は順に内部へと入った。
通路は広く、天井も高い。大型機材の搬入を前提とした設計だ。
壁際にはレールの跡が残っており、かつては台車が通っていたことが分かる。
「旧IRS研究所の裏ルートだ」志狼は言った。「正規の出入口より距離はあるが、その分、監視は薄い」
三人はその直線の道を進んでいく。
碧真は壁際のラックに目を向けた。埃をかぶったコンテナとファイルがいくつも残されている。
一冊を手に取る。
表紙には「エイドロサイト制御理論・第三次改訂」と書かれていた。
「これは」
「俺の研究データだ」志狼は言った。「当時、ここを使って外に持ち出したり、一時的に隠したりしていた。回収しきれなかった分が残っている」
フィリアが周囲をゆっくりと見回した。
「……懐かしいです」フィリアは言った。「このにおい。古い紙とコンクリートのにおい。搬入区画に似ています」
「お前は記録情報が全部残っているのか」志狼が聞いた。
「はい」フィリアは答えた。
「ただし、ある時期より前のものは断片的です。それより後は、ほぼ完全に」
「ある時期、というのは」
フィリアは少し間を置いた。
「制御剤のデータを受け取った後です。しばらく昏睡していたので、その前後の記録に欠損があります」
志狼の表情が曇った。それを見た碧真は、この件については後で詳しく聞く必要があると判断して、今は黙っていた。
「まず構造を把握する」志狼は言った。
「ここから先は研究所の搬入通路を通る。フィリアの記録情報と俺の図面を合わせれば、全体像は見えるはずだ」
「わかりました」碧真は言った。
三人はランタンの光の中、静かに奥へと進んでいった。




