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IRSー内象再現性血症候群ー  作者: やはうぇ
第2章 別離と逃走
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第20話 燈哉、やっぱりお前

 話が終わったのは昼を過ぎたころだった。

 碧真は椅子の背もたれに寄りかかって、天井を見た。頭に詰め込まれた情報が、ゆっくりと沈んでいく。

 フィリアは変わらず静かにしていたが、話の間中、一度も視線を逸らさなかった。この子は話を聞くとき、本当によく聞く、と碧真は思った。

「燈哉は」碧真は言った。「俺を助けるために来たと言っていました。でも、あの施設の中に俺がいることを、どうやって知ったんでしょうか」

 志狼がわずかに視線を落とした。

「……それは」

 言いかけて、言葉を切る。

 碧真はすぐには続けなかった。数秒だけ間を置く。

「偶然、というには出来すぎています」

 静かに言葉を継ぐ。

「侵入経路も、タイミングも。内部の構造までは知らなかったとしても、少なくとも“場所”は特定していたはずです」

 フィリアが小さく首を傾げる。

「外から、わかるものなんですか」

「普通は無理です」

 碧真は即答した。

「少なくとも、一般人が一人で辿り着ける経路じゃない」

 少し考える。

「……誰かから聞いたか、あるいは情報に触れる機会があったか」

 そこで一度言葉を切った。

 志狼の様子を、わずかに見る。

「反政府IRS派、R.I.S.E.という組織があると聞いたことがあります」

「施設に関する情報を持っている可能性がある、と」

 フィリアが小さく息を呑む。

「そういう人たちが、いるんですか」

「噂レベルです」

 碧真は首を振った。

「実在しているかどうかも含めて、確証はない」

 その上で、少しだけ視線を落とす。

「ただ……燈哉があの場に来られた理由としては、筋が通る」

 志狼はすぐには答えなかった。

 沈黙が落ちる。

 今度の沈黙は、「隠している」というより、どう扱うべきかを測っているような重さだった。

「……詳しい話は、今夜改めてする」

 志狼はゆっくりと言った。

「燈哉のことは、俺にも責任がある。それだけは言っておく」

 碧真は志狼の目を見た。

 何かを抱えている目だった。隠しているというより、まだ言葉を整えきれていない人間の目だった。

 碧真はそれ以上、踏み込まなかった。

 結論を急ぐ場面ではない、と判断した。

 代わりに目を閉じる。

 燈哉、と心の中で呼ぶ。

 お前、何か掴んでたのか。

 それとも——ただ、俺を助けるためだけに動いたのか。

 答えはまだ出ない。

 だが、どちらにしても。

 無茶はしていたはずだ、と思う。

「……碧真さん」

 フィリアが静かに言った。

「大丈夫です」

 碧真は目を開けた。

「仮説はいくつか立てられました。あとは検証です」

 外で風が吹いた。木の葉が揺れる音がした。

 碧真は立ち上がった。

 燈哉の分まで動く、というより——

 燈哉が残した“意図”を拾う必要がある。

 そのために、自分の頭を使う。

 それなら、まだやれる。


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