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第19話 天城博士②
志狼は一瞬だけ黙る。
「逃げた」
それだけ言った。
「だが、その前に……理論を残してしまった」
湯飲みを握る手に、少しだけ力が入る。
「どうやって記録情報を初期化するか、どうやって書き込むか。その基礎理論は俺が作った」
フィリアが小さく言う。
「……止めるための研究が、使われたんですね」
志狼は否定しなかった。
「そうだ」
短く答える。
再び沈黙が落ちる。
フィリアがゆっくりと顔を上げた。
「じゃあ……IRSの能力を止める方法は、あるんですか」
志狼は少しだけ目を細める。
「ある」
「完全じゃないがな」
碧真が視線を向ける。
「それが、制御剤ですか」
志狼は頷いた。
「エイドロサイトの活動を固定化する。記録情報の書き換えも、自己拡張もできなくする」
フィリアは少し驚いたように言う。
「……能力が、使えなくなるんですか」
「そうなる」
フィリアは黙り込んだ。
しばらくして、小さく呟く。
「……難しいです」
志狼はわずかに口元を緩めた。
「いい。今はそれでいい」
「全部理解する必要はない」
その言葉に、フィリアは少しだけ安心したように頷いた。
台所に、静かな沈黙が落ちた。




