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IRSー内象再現性血症候群ー  作者: やはうぇ
第1章 邂逅と覚醒
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第2話 くだらない帰り道

 それは昨日の夕方の話だ。


 日が傾いて空が橙色になるころ、御影碧真と天城燈哉は並んで歩いていた。学校からの帰り道で、特に急ぐ理由もなく、ただだらだらと、くだらない話をしながら。


「なあ碧真、タコってさ、吸盤の一個一個にも神経あんの?」

「ある。腕一本に最大で二百個前後の吸盤があって、それぞれが独立した触覚器官として機能してる。脳からの指令がなくても吸盤単体で反応できる」


「うわ~……じゃあ食うとき全部生きてんじゃん、まだ」

「切り身にしてもしばらく動くのはそのせい。切断された後も局所神経が生きてる」

「それ言わないでほしかったな……」燈哉はぞわっと肩を揺らした。

「昨日刺身食ったばっかだわ......何の話してるんだろうな俺ら」


 碧真は口元を微かに緩めた。燈哉の反応は、いつも素直で読みやすい。


 天城燈哉は、いわゆる「陽キャ」というやつだった。背は碧真より少し低く、髪は少し茶色がかっている。笑顔が多くて、声が大きくて、廊下を歩くたびにあちこちから声をかけられる。碧真とは正反対のタイプに見えるが、なぜか中学の頃からずっと一番近くにいる。


「そういえば、先週集めてた魚の脳みそ、どうなった?」

「アジとサバとマイワシを並べて比較してる。小脳の小葉構造に面白い差異があって」

「楽しそうに言うね……」

「楽しいから」

「まあいいけど」燈哉はポケットに手を突っ込んで、空を見上げた。


「お前はほんと自分の世界があるよな。俺みたいに毎日なんも考えずに生きてる人間とは違う」

「燈哉は考えてないわけじゃない。ただ別の方向に注意が向いてる」

「どんな方向に?」

「人間関係」

 燈哉は少し笑って、「まあな」と言った。


 その瞬間だった。


 背後で、何かが動く気配がした。

 碧真の脳が、一瞬で切り替わった。音の発生位置、速度、質量。足音ではない。

 もっと重い何かが......速い。

「燈哉、伏せろ」

 言い終わる前に動いていた。


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