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第15話 廃村
山城郡に入ったのは、夜明けを過ぎてしばらく経ったころだった。
道路標識が草に半分埋もれていた。舗装が途切れて、砂利道になる。民家の廃屋が数棟、山裾に散らばっている。人の気配はない。声もない。鳥の声だけがある。
「廃村」という言葉どおりの場所だった。
碧真は紙の住所と周囲の地形を照合しながら進んだ。村の奥、細い道の突き当たりに、一軒だけ明らかに使われている家があった。屋根が補修されていた。軒下に農具が並んでいた。畑が小さく開かれていた。
バイクを降りた。
エンジン音に気づいたのか、玄関の引き戸が開いた。
出てきたのは老いた男だった。六十代くらいだろうか。白髪混じりの髪、日焼けした肌、土の染みたエプロン。背はまだ真っ直ぐで、目が鋭い。
男は碧真とフィリアを交互に見た。何も言わなかった。
「天城農場を探していました」碧真は言った。「天城志狼という人を」
男の目が、微かに動いた。
「……お前が碧真か」
碧真は息を止めた。
「知っているんですか」
「燈哉から聞いとった」男は静かに言った。「お前のことを。よく来た」
男が引き戸を大きく開けた。
「まず上がれ。飯にする」




