第13話 走る
暗い道を走りながら、碧真は燈哉が渡した紙のことを考えていた。
今は取り出せない。ポケットの奥に折り畳んだまま入っている。ただ、その重さだけが確かだった。
背後のフィリアは声を出さなかった。細い体で風を受けながら、ただじっとしていた。
市街地から外れていくにつれて、道が細くなった。街灯が消え、山の輪郭だけが空に黒く浮かんでいた。碧真は速度を落として、脇道に折れた。
「目的地は知っていますか」フィリアがかすかな声で言った。
「まだ確認していません」
「今確認しますか」
「もう少し距離を置いてからにします。追跡があれば、止まるのは危険だ」
フィリアは返事をしなかった。しかし碧真の背中から手が離れなかった。それが何となく、碧真には意味があるように感じられた。怖い、というよりも、ただここに居場所があるという確認のような、そういう触れ方だった。
三十分ほど走ったところで、脇の農道に入った。人家は見えない。エンジンを切る。静寂が戻る。虫の音と、遠い水音だけがある。
碧真はポケットから紙を出した。
折り目を開くと、燈哉の字で短く書いてあった。
――山城郡、廃村、天城農場。
それだけだった。
「……天城」碧真は呟いた。
「知っている場所ですか」フィリアが聞いた。
「苗字が、燈哉と同じです」
フィリアは少し黙った。「関係者ですか」
「わかりません」碧真は紙を折り直してポケットに戻した。「でも燈哉が指定した場所だ。行く理由にはなります」
エンジンをかけ直した。道を地形から読みながら山の方向へ進んだ。




