第11話 夜の外気
施設の外に出た瞬間、冷たい空気が肺に入ってきた。
夜だった。空は曇っていて、星は見えない。外灯が遠く、敷地の輪郭だけをぼんやりと照らしている。
碧真は立ち止まらずに走りながら、周囲の地形を視覚で読んだ。フェンスの向こうに植え込み。その先に道路。舗装の幅からして、あまり交通量のない道だ。
「……たぶん、右側が低いです」
隣を走りながら、フィリアが小さく言った。
「わかるんですか」
「連れてこられたとき、車が右に傾いた記憶があります。坂だったと思います」
碧真は短く頷いた。
確証ではないが、情報としては十分だった。
フェンスの一角に、金属疲労の進んだ箇所があった。碧真が三日前に確認していた場所だ。力を込めて押し広げると、人が通れるだけの隙間ができた。フィリアが先に抜け、碧真が続いた。
施設の警報はまだ鳴っている。しかし音が徐々に遠くなっていく。
走る。植え込みを抜ける。舗装された道に出る。
碧真は一瞬だけ周囲を見た。
右側の地面がわずかに下がっている。
「右だ」
二人はそちらへ曲がった。
確かに、ゆるやかな下り坂だった。
足元の傾斜が川の方向を示していた。湿った空気の匂いが混じっている。
「川沿いに出れば、バイクがあるかもしれない」
フィリアが少し碧真を見た。
「バイク?」
「土手に鍵なしで停めてあるのを、施設に連行されるときに見ていました」碧真は答えた。「川沿いの土手です。ここから一キロもないはず」
二人は川の気配を頼りに、暗い道を走っていった。




