第1話 暗闇の護送車
目隠しというものが、これほどまでに不快だとは、御影碧真は初めて知った。
布製のそれは後頭部で固く結ばれ、視界を完全に奪っている。車体の振動が背骨を通るたび、碧真は今どのあたりを走っているのかを推測しようとした。右へ曲がった。左へ曲がった。そう数えているうちに、すぐに方角の見当など失われた。
左右には、それぞれ一人ずつ男が座っている。
革手袋の感触が、碧真の両腕を挟み込んでいた。声はない。あるのは体温だけだった。
車内の空気は乾ききっており、かすかに消毒液のにおいがする。
(研究所、か)
碧真は唇を引き結び、聴覚と嗅覚だけを研ぎ澄ませた。路面の質が変わる。アスファルトから、もっと均質な何かへ。速度が落ちる。金属質なゲートの開閉音。複数の足音。短い無線交信。
目的地に着いたのだと、碧真は悟った。
腕を引かれて立ち上がる。段差が二つ。扉。廊下。また扉。
そして目隠しが外れた瞬間、蛍光灯の白さが網膜を刺した。
「っ……」
思わず目を細める。だが碧真はすぐに視線を動かし、周囲の構造を読み取った。廊下の幅はおよそ二メートル。天井は高い。壁はコンクリート打ちっぱなしで、等間隔にカメラが設置されている。奥には電子錠の扉。非常口の表示灯。換気口の位置。
碧真の脳は、静かに、しかし恐ろしく速く情報を処理していた。
「余計なことを考えるな」
左側の男が低く言った。碧真は何も答えない。
案内されたのは、白い部屋だった。面談室、と呼ぶべきだろう。テーブルが一つ、向かい合わせに椅子が二脚。
男たちが出ていき、しばらくして別の人物が入ってきた。白衣の女だ。三十代半ばほどだろうか。眼鏡の奥の目が、事務的に碧真を値踏みする。
「御影碧真くん。高校二年生。GPA換算で国内上位〇・一パーセント。生物学・化学・材料工学の独学が確認済み。趣味は……」
女は手元のタブレットに視線を落とした。
「……魚の脳を集めること?」
「食べた魚のです」碧真は静かに言った。「標本にしています。脳の神経構造が種によってかなり違うので」
女は一拍置いてから、再び事務的な表情に戻った。
「昨夜の件についてお聞きしたい。あなたに発現したIRS能力について」
碧真は窓のない白い壁を見ながら、昨日のことを思い出した。




