パン屋一家は
パン屋一家は喫茶店を見つめている。
食い入るように。穴が開きそうなほど。
…後ろから迫る人影にも気付かずに、、
喫茶パメラは今日も繁盛。
店内は賑わって、外はそんなに見えていないだろう。
それをいいことに、見開いた目を向ける夫婦、、と寝ている赤ん坊。
彼らは休業中のパン屋の若夫婦。
喫茶パメラのパンは彼らが卸していた。
彼らは長男を産み、育てるのが大変すぎたのでしばらく店を閉めていた。
パメラは、彼らと縁があるので、他の店からはパンを仕入れなかった。
喫茶パメラにサンドウィッチだけ復活しないのはそのためである。
さて、そんな彼らは久しぶりに喫茶パメラを訪れた。
ご近所から聞いていた繁盛。美少年だという新人ウエイター。
気になってしかたなかった。
が、パンを卸せていないのに見に行くのは気が引けた。
というかそんな余裕はなかった。
てんやわんや育児をし、常に寝不足だった。
男三兄弟を独り立ちさせた近所の奥様が家政婦に来てくれ、
ようやく落ち着きを取り戻したのが、すぐ最近。
来週から店を再開することになり、その報告をしにきたのだ
が、、
「話しかける前に働いてる自然な姿を見たい。」
と妻が言ったので、抱き抱えられた赤子諸共、3人家族で店内を凝視。
この狭い区は、結構な人が顔見知り同士である。
人気パン屋の若夫婦ともなれば知り合いは多い。
だから、不審者が喫茶店を覗いていると思う人はいないが、
子連れで何分も佇めば目立つのは当然。
覗きに夢中で、
怪訝な目を向けられているのに気づいていない。
だから、後ろからそろりと歩み寄る保安官の気配にも気付かない。
「スカーレット、立派になって、、」
「本当に。ウエイターの彼もなかなかいい動きじゃないか。見に来てよかっっ」
「コソコソなーにしてんだ?2代目、若旦那!」
にじり寄ってきていた保安官、ザリは、夫の肩を小気味良く叩いた。
「うわあぁ!」「なにっ!?」 「ふ、ふえぇぇん」
長いこと眺めるうちに時は流れ、店内は空いてきていた。
極め付けに爆音で驚く夫婦、、と、その声に驚いて泣き出す赤ん坊。
さすがに店内にも聞こえたようだ。
大声に気づいたパメラが飛び出して叫んだ。
「パメラ!?何でここに!?」
さて、今、この場の状況を把握できているのはザリだけ。
その他は大混乱である。
特に、ウエイターの少年、セナはパン屋一家と初対面。
しかも店主のパメラが、赤ん坊を抱いた人妻をパメラと呼んでいる。
収拾がつきそうにない。
ザリは彼ら全員を店内に押し込み、紅茶とジュースを頼んだ。
混乱したままキッチンに戻り、飲み物を持ってセナが出てきた。
ここでようやく始まる状況擦り合わせ。
まず前提となるのだが、パメラというのはこの喫茶店主の愛称である。
現在のパメラ、本名スカーレットは3代目。
パン屋の妻は二代目パメラだった。
現パメラはその当時店員だったため、彼女をパメラと呼ぶ。
パン屋との結婚を期に、店と名前を譲られたのだ。
パン屋夫妻の事情も説明され、話に花を咲かせていたらそろそろ夕飯時。
店が混み始めそうな気配を感じ、パン屋夫妻は帰って行った。
ザリはちょっかいをかけつつ食事をしてから帰った。
忙しいディナータイムが過ぎ、本日の喫茶パメラは営業終了。
店主とウエイターは店内の片付け。
「あったかい家族でしたね」
「ふふっ、そうね。
パンの入荷を再開するから、よく会うようになるわ。仲良くするのよ?」
「はい。」
ふたりの会話は多くない。
1年も一緒に働き、生活の多くを共有すればそんなものだろう。
「、、、パメラさんは結婚していなくならないでね。」
「え?」
「あっ」
パメラは、セナを家族のように思っている。恋愛的に好かれているのには気づいていない。
セナも、露骨なアプローチはしてこなかった。
1年間、新生活に慣れるのに必死だったし、何より関係を壊したくなかった。ーこのままの生活が続くなら、いっそ恋が叶わなくてもいいとおもっていた。
今日話を聞いた2代目も、どうやら1代目も誰かと結ばれて出て行ったようだ。
パメラにその気はなさそうだが、不安になってしまった。
言うつもりはなかったのに、口をついて出てしまった。
「出て行かないわよ。あんたを1人にしたりはしないから。
大体、その気もないわ。私はこの店と結婚するって言ってるじゃない。」
優しい笑顔で言う。
誰に対しても等しく向ける、いつもの笑顔で。
違う。想いが叶わなくてもいいなんて嘘だ。
「パメラさん、俺、寂しいから言ったんじゃないよ。」
「ん?なぁに?」
話は終わったと思ってテーブルを拭く手を止めた。
「俺は、パメラさんが誰かのものになるのが嫌なの。」
不意打ちで言われ、目を合わせたまま固まるパメラ。
「俺と一緒にいてよ。」
「ふふっ、もちろん。私はあんたとここにいるわよ?」
「、、、うん。さっきのは忘れて。」
少し気まずい空気のまま片付けを終え、自室のベットに伏す。
何事もなかったように繕えただろうか。
鈍感なパメラでも、さすがにわかった。
セナは本気の目だった。
あれは告白だ。
どう返していいかわからなくて、動揺を隠してしまった。
誤魔化して、拒否しなかった理由はなんだ?
このまま知らない振りでいいのか?
自分はセナを、どう思っている?受け入れたいのか?
明日からセナと普通に接せるだろうか。
秋風が吹き始めたこの街。
喫茶パメラで、カーテンが揺れている。




