保安官は
保安官は、あんぐりと口を開けていた。
しばしの激務から解放され、久しぶりに訪れた喫茶パメラ。
──あまりにも、繁盛しすぎている。
ここ一年、抗争が悪化した隣の自治区からの避難民が激増。
つまり、区役所、ハローワーク、警察、卸売業者などなど、
自治区運営に何役も買う保安局の仕事も増えるわけだ。
忙しくて来れないうちに、行列ができる店になっているではないか。
ところで、保安官ザリは根はいい奴である。
多少面倒くさがりなので、結構サボる。
しかし必要業務はこなすし、サボり先でコネを作ってくる。
(そのコネでパメラはセナを雇うことになった。)
誰も文句を言えないし、結構信用もある。
この時代において、かなりの好青年と言えるだろう。
愛嬌と有益さで許されていたサボりが、許されない忙しさ。
少年セナをパメラに任せてすぐ始まった激務。
農園を拡張して仕事を確保し、住居の不足と戦い、働いて食事を摂って寝る日々。
隣の自治区の抗争がようやくおさまって、ようやくとれた3連休。
前半2日、散髪し、狭い寮で友人と酒を呑み、寝たいだけ寝た。
明日からの仕事から目を逸らしつつ、久々にのんびり買い物に出た3日目。
「3代目はちゃんと子守りできてるかなー」
と揶揄いに来たはずが、、
近所の八百屋曰く混みすぎて入れないらしい15時代、
動揺しながら一旦必要な買い物をして過ごし、空いてきた16時に店を訪れた。
髪と背が伸び、驚くような美少年になったセナが出迎えた。
清潔そうな白いシャツとエプロンに身を包み、ウエイターをこなしている。
久しぶりの再会にお互い多少緊張しつつ、窓辺の4人席に案内される。
古いところを直して、綺麗になった内装、4品も増えたメニュー。
一年前は、昼時、夕飯時に仕事終わりの男衆が来る程度の店だったはず。
以外は閑古鳥が鳴いていたはずの夕方の喫茶パメラ。
今は主婦らしい女性客が二り、スイーツを楽しんでいる。
動揺がおさまらず、とりあえず紅茶を注文してキョロキョロすることしかできない。
落ち着かない彼の正面に、紅茶を持ったパメラが得意気な顔で現れた。
一つに括った髪は伸び、快活さが増し、以前より美人になっている。
店主曰く、セナが来て仕事に余裕ができ、メニューも増やしたところ、
「美人女店主と美少年ウエイターがいる」「メニューも豊富で美味しい」
と話題になり、女性客も増えてずいぶん好調だと言う。
「おかげさまで大繁盛よ。あんたがあの日言った通りすぎて多少怖いわ。」
「こんなにうまくいくとはな。俺も一役買ってんだ。鼻が高いねぇ」
おどけた態度に苦笑されつつ、パメラと近況を話していると、
はにかみながらやってきたセナが、机にプリンを置いた。
「ザリさん、これは俺からのサービスね」
少年はザリにとにかく感謝していた。
毎日美味しい食事が食べられ、毎日楽しく働けている。
これは口に出さなかったが、なによりパメラと一緒に働けるのが毎日夢のよう。
ここに連れてきてくれたザリにずっと感謝を伝えたかったのだ。
「あと、多分忙しかったの俺のせいもあってさ」
この店に、同じ家にいた奴隷少年たちが何人か訪れた。
曰く、セナがどうやら逃げ切れた様子なので真似してきたと言うのだ。
「いんや、お前のせいじゃない。子供を売り買いする大人が悪いんだ。気にすんなよ。
まぁそれはそれとして、このプリンはいただこうかね」
穏やかな夕方、話し込む3人。
40代くらいの女性2人組の客が食事を終えたようで、セナは会計に向かう。
「今日も美味しかったわ。
パメラちゃんは美人でセナくんはイケメンだし。」
「ほんとそう。私も毎週来るの楽しみにしてるのよ。
ねぇ、うちの娘の婿に来ない?こんないい子なかなかいないわ。」
苦笑するセナをザリがニヤニヤしながら眺める中、パメラが返す
「お姉様方、うちのセナはまだ13だよ?それにいなくなったら困るの。
今世はあたしと一緒にいてもらうわ。娘さんにはまた来世でって伝えといて。」
女性客は冗談なのでさして残念そうでもなく切り返す。
「あら残念。じゃあパメラちゃんは?うちの息子なんかどう?」
ザリのニヤつきのターゲットがパメラに移る。
「それも残念。あたしはこの店と結婚したから、人間の夫は結構ね。」
目敏い保安官は気がついた。
パメラは冗談めかしているが、かなり本心で言っているのを。
「今世は一緒にいる」で頬を緩め、「人間の夫は結構」で少し残念そうにしたセナにも。
「そろそろ、俺もお暇するぜ。いい酒のつまみも知れたしな。」
「なんの話?あら、なんでそんなに嬉しそうなのよ。」
セナはパメラを落とせるか。というか、パメラは気付けるのだろうか。
焦ったい恋路をたまに覗きにこようと決めて、
保安官はニヤけながら店をさっていった。




