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喫茶パメラ  作者: 星々 世々


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2/3

店主は

「今なんて言った?」


赤髪の店主、パメラは困惑していた。

行き倒れた少年を保安官に預けてから数日。


「コイツをここで雇ってくれって言ったんだ。頼むよ、3代目!」



朝の10時。モーニングには遅く、ランチには早い。

街唯一の喫茶店とは言え、客の少ない時間。


やってきた顔馴染みの保安官は愛想笑いで言ってのけた。

見知らぬ美少年を連れて。



何度目かの世界大戦後、数十年。政府は瓦解し、立て直すこともできず。

他国も自分たちだけでてんやわんやで、支援も足りず。

各地域自治、資源は自給自足、という生活スタイルが一般化。


スラムに存在する孤児院にいた少年は、この程度は知っていた。

そして、隣の自治区がとても進んでいることも。だからここに逃げてきた。



真っ先に保安局と公共農園、基本インフラが整備され、商売も盛んである。

(インフラといっても資源がなく発電できないため水と薪程度だが。)


幸運にも、治安がかなりマシなこの自治区は、少年に優しかった。




少年の世話についた保安官、ザリは少年を連れて店に入り、先のセリフを言い放った。

店主は2人を一旦4人席につかせ、注文された紅茶とナポリタンを運んだ。

混乱していてもちゃんと業務はこなす。優良な店主である。



彼女は空いた席にドカッと座り、ザリに説明を求める。


「で、なんで急にその子を雇えって?そんでその子は誰?」


「まあそんな焦るなって。コイツの名前はセナ。5日前に隣の自治区から逃げてきた。

読み書きもできるし、手先も器用。喫茶店には悪くない人材だぜ?な、セナ。」


遠慮がちにナポリタンを食べている少年は、困惑していた。

実のところ少年も今の状況をよくわかっていない。


「なんであたしが雇う前提なの。大体、その子もよくわかってなさそうじゃない。

うちの店に、軽々とひと1人養えるほどの余裕はないの。まずはちゃんと説明して。」



パメラに詰められ、ザリは観念した。

ちゃんとした説明は面倒くさい。

店主が混乱しているうちに押し付けてトンズラこきたかったのだ。

悪賢い保安官である。



紅茶を啜りつつ渋々ザリがした説明を、ざっくりまとめるとこうだ。


保安局で預かった迷い人は大抵、農園に紹介されて職を得るが、

現在農園は人手が足りている。どころか余っている。

しかも少年はヒョロヒョロで体力もなく、力仕事には向かない。

常識はある程度あり、教えてみたところ計算、料理はできそうだ。

保安局と馴染みで、人手が足りなそうな飲食店はここしかない。



「な?頼むよ。裏の下宿も一軒空いたんだろう?保安局でも補助を出すからさ。

代替わりしてから1人で回して、パスタとお茶しか出せてない。人手、足りないんだろ?」


──ぐうの音も出なかった。下宿の収入も減ったし、昼時は正直店を回しきれていない。


「で、コイツのこの顔だ。女衆の話題になること間違いなしだぜ?

この店はおやつどきの客も増えて、人手も増える。俺も農園もコイツも助かる。」


──否定しようがない。

ニヤニヤしながらコースターを弄っているザリがムカつくが、反論しようもない。


パメラは息をついた。


「わかった。あんたたちには世話になってるし、実際人手もたりてないし。

この子はうちで雇いましょう。

でも、今後追加でひとを連れてくるのはなしだからね?」


「わかってるさ。しっかしお前この店に縁があるな、セナ。

ここで行き倒れてここで生きていく。いい話じゃねぇか。」


ザリはわしゃわしゃとセナを撫でた。

セナは人生で初めての気持ちになっていた。

衣食住を得られたうえ、一目惚れした人と2人で働けるなんて、幸運にもほどがある。


生活への安堵、ザリへの感謝、その他色々な感情が混ざり合って、もう泣きそうだった。




「ここで行き倒れたって、、え?この子はあの日の子なの?」


店主、パメラは目をぱちくりさせて言った。


「ああそうだ。風呂に入れて髪を切ったらこうなった。」


ザリは、なぜか得意げにそう返した。




パメラは笑った。少年が恋をしたイタズラっぽい笑顔で。



「あんた、あたしと一緒ね。あたしもここで2代目に助けてもらったの。」


少年は、2代目とはなんのことかわからなかったが、想い人が笑ってくれて嬉しかった。



「じゃあ、コイツを任せるぜ、3代目パメラ。セナ、あいさつしな。」


「セナです。よろしくお願いします。」


少年、セナは緊張してこれしか言えなかった。でも、頑張って目を合わせて言い切った。


店主は微笑んで言った。



「セナ。あたしのことはパメラと呼んで。

ここの店主はパメラと名乗る伝統なの。本名はスカーレット。

歳は18。これからはあんたの雇い主。よろしくね。」



ガラスから差し込む光に照らされて、喫茶パメラに、新しい風が吹いた。

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