少年は
少年は馬鹿ではなかった。
だから、わかっていた。
自分のすべきことは何か。
そしてそれが、確実にこれでないことも。
だが、
少年は賢くあれなかった。
だから、喫茶店を覗くのに徹している。
少年はまともな教育を受けていない。
ただそんなことは、この街ではざらである。
そもそも、そういう類たぐいの話ではない。
生き残るための本能、知恵が働くこと
この街ではそれが「賢い」のである。
「運よく追手から逃げ切れたが、安心とは言えない。」
──そんなことはわかっていた。
「腹が減っているが、埋める手段がない。」
──それもわかっていた。彼には手持ちの金も、盗む勇気もない。
「では、助けてくれる人や職を探すべきでは?」
──ああその通りだとも。今すぐにでもそうするべきだ。
しかし、全てわかっていた上で、動けない。
・悪しき孤児院の長に、口減しで奴隷商に売られた。
・変態爺に売られそうになり、急所を蹴って逃走。
・一晩中逃げ続け、治安がマシな隣の区にやっとの思いでたどり着く。
これらが昨日の朝から今までに、少年の身に起きたことである。
おかげで腹はぺこぺこ。足はふらついて、精神にもきている。
いい匂いのする喫茶店に辿り着くののも、体力の限界で動けないのも至極当然。
…しかし、それを全て上回るような、動けない主な理由。
喫茶店の赤髪の娘に、一目惚れしたのである。
歳は18くらいだろうか。
店名の、「パメラ」と呼ばれているようだから、店主なのか?
一つに括った赤い髪と、イタズラっぽい笑顔がなんて可愛いんだ!
店に入ろうか、でもお金がない!!
店前のメニュー板の前に佇み始めてはや1時間、
ガラスを覗き込みながら、彼はこのようなことを考えつづけている。
そんなことをしている場合ではないぞ、少年。
12歳の少年にとっては大問題、特大の衝撃!!!
…とはいえ、君はもう気絶寸前だ。
体力の限界まで数十秒しかない。しかも心は彼女に奪われて正気ではない。
ふらついてふらついて、ドアの前へ。
突然、ドアが開く。
「いらっしゃい、喫茶パメラへ!君、顔色悪いけど大丈夫?」
あぁ、声まで素敵だ
彼の意識はそこで途絶えた。




