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日常短編集(エッセイ)

君と越えたかった夏

作者: 月陽(つきひ)
掲載日:2025/10/18

君と越えたかった夏。

越えられなかった夏。

 幼かった頃、わたしはよく歩く子だったらしい。

 記憶は朧気にしかないが、両親が良く語る昔話と今現在も歩くことが好きなわたしがいる。

 あれはいつだっただろうか。

 君との出会いは、わたしがまだ学生の頃である。

 その頃の君は、とてもやんちゃで手に負えないほどだった。

 友達のような存在だなあと思って日々を過ごしていた。

 わたしや家族がおやつ等を食べていると物欲しげに見つめてくる利口な君。

 大好きなおばあちゃんが出かけちゃうと大人しく留守番してましたと澄ました顔で佇んで出迎える君。

 でも、おじいちゃんの部屋の布団はぐちゃぐちゃにされていた。

 八つ当たりしているんだねって、家族は笑いながら話していたよ。

 君の名付け親はわたしでした。

 本当はね、お父さんがつけたいって言った名前もあったんだけど、わたしがなかなか折れなくて気づいたら決まってました。君は、家族の中でいつしかかけがえのない存在になっていたね。

 小さな体も大きくなって、おばあちゃんになって。

 日に日に縁側で外を見る時間が増えた君は、何を思って外を見つめていたのだろう?

 帰宅すると、真っ先に君にいろんなことをお話しする。

 君はいつも黙って聞いてくれる。

 呼びかけると、時折無視することもあったけど。

 わたしたち家族をまとめてくれたのは、間違いなく君の存在だ。


 あの日、君が亡くなった日のことを今でも鮮明に覚えている。

 その日は、君に話しかけずに仕事に出かけてしまった。

 君は、最期まで泣き言を言わなかったし、弱っているところも見せなかった。

 

 君が我が家にやってきたのは、夏だった。

 ちょうど花火大会とか開催している季節だったように思う。

 小さくてやんちゃで放っとけない存在が、いつしかおとなしくて優しくてわたしと同じでおばあちゃんのことが本当に大好きな子に。

 食欲旺盛で、お利口で、優しくて、できることならもっとずっと一緒に傍に居たかった。

 君の好きな食べ物を御馳走したかったし、一緒にお散歩だってしたかった。

 呑気なわたしは、仕事に出かけた後に後悔する。

 春、桜咲く季節。突然その時はやってきた。

 母からのメッセージは、シンプルだけど重いものだった。

 小夏が、さっき亡くなりました。

 悲しいです

 帰ったら、すぐに顔を見せようと思っていた。

 小夏は、家族一同で相談して小さい時から飼い始めた犬だった。

 小夏は癌だった。

 悪性腫瘍が前に見つかっていた。

 病院に通い、投薬治療を続けていたが、最期は家で過ごさせてあげたい。

 家族の意思で、ずっと苦しい思いを続けながらも必死に生きていた。

 小夏の最期は、母親曰くおばあちゃんの腕の中で安らかに眠るようにして息を引き取ったのだという。

 帰宅したわたしも小夏の顔を見たが、若干微笑んでいるように見えた。

 きっと大好きなおばあちゃんの腕に包まれて安堵したのだろう。


 おばあちゃんはその後、体調を崩してしまい大変そうだった。

 わたしは、度々おばあちゃんの家に行って他愛のない話をして気を紛らわしてあげるのが精いっぱいだった。おばあちゃんは最近、すこしずつ元気を取り戻してきてこういった。

「ばあばが、もし亡くなったら小夏を真っ先に探すからね」

 わたしは、泣きそうになるのをぐっと堪えながら、

「きっと小夏のことだから、探さなくても待っているから見つかるよ」

 明るく答えてみせるのでした。


 小夏。

 ちいさな夏という意味からはじめは名前を考えたけど、君の存在はわたし達家族にとっては大きすぎました。おとなしくて、吠えない小夏を探すのは苦労しました。自分より小さな犬にも興味津々といった様子で向かっていくのに、いざ威嚇されるとすぐにばあばの後ろに隠れてたね。わたしはきっと、君のことを永遠と忘れないことでしょう。本当にありがとう。


 

昨日UPした短編は、友人の言葉があって実現したものです。

なかなか素直になれずに家族や知人に迷惑をかけてしまいますが、感謝しています!

小夏が小さな背中で背負っていたものは想像するには重すぎて、正直言って、わたしには到底背負えないものだと思います。それでも、一家をまとめてくれた小夏です。感謝してもしきれないです。

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