僕の知らない沙羅
着替える様に言われて、城に入って、僕は、ハッとする。
だって。
いつの間にか、僕の頭の中には、城の構造や、そこに住んでいる人達の顔や関係が手のとる様にわかったから。
僕が、入っていたのは、正確には、城ではない。
隣の納屋。
まぁ、使用人の住む家だった。
重くて、こんな細い腕を押すのは、困難だろうなって、扉を押して、中に入った。
汲んである桶の水で、身体の汚れを拭いて着替える
いつもの事だ。
僕の現在の記憶と彼方での生活が、混載する。
僕は、沙羅のマンションに転がり込んでいた。
魅力のない女。
彼女の財力に釣られて、転がり込んでいた僕は、
彼女の事は何も知らなかった。
この痩せすぎた身体の事も。
だから。
身体を拭こうとして、ハッとした。
「あぁ?」
そうだ。
僕は、今、沙羅の身体の中にいるのだ。
「ちょっと、待て?」
「どうかしたの?」
しまった。
後ろから、おばさんが付いてきていて。
「さっさと、行っといて」
「えぇ?」
隠さなくても、いいのに、僕は、慌てて身を隠した。
「何やってんだい。早く、身支度を整えて、お嬢様のデザートをお持ちするんだろう」
「お嬢様?」
いつも、午後の時間に、デザートを運ぶのは、僕の仕事になっていた。
「二人で、大事な話をしているんだから、様子を見て運ぶんだよ」
さっき、アレンを呼んでいたのは、このお嬢様だった。
綺麗なだけのお人形の様なシャルイニア。
隣に飾っておくには、十分すぎる美貌。
僕が、この姿でなかったら、きっと、落としに行った。
「何をぐずぐずしているんだい」
おばさんに、怒鳴られてようやく、僕は、着替える事ができた。
初めて見る沙羅の体は、
僕の知らない生々しい傷が、広がっていた。




