消えた彼女
深い蒼と白い泡。
息ができない辛さ。
もがく僕。
確か、僕は、触覚のような物を出した怪物に呑まれて・・・。
記憶が混乱する。
現在、僕の胸には、海水がいっぱい入って来て・・。
あぁ・・・そうだ。
僕等は、海に転落したんだ。
確か、隣には、沙羅が。
そう、僕は、いつの間にか、元の体に戻って・・・。
もがく、僕の手。
目の前にいっぱいに広がって。
僕は、再び意識を失った。
ぼんやりと目を覚ましたのは、
真っ白い空間だった。
「え?」
僕は、慌てて、自分の体を確認した。
何度も、辺りを見まわし。
眩しい光の中、
僕が居たのは、病院だった。
異世界ではなく。
元の世界に戻っていた。
「あの・・・」
僕は、開いたドアの向こうに見えるナースステーションに向かって叫んだ。
思うように声が出ない。
喉が詰まって、ガラガラだった。
それでも、声を振り絞ると。
ようやく、看護師の一人が僕に気が付いて、顔色を変えて、飛び込んできた。
「意識が戻ったのね?」
話そうとしたけど、思うようには褪せないのは、呼吸器のせいだった。
駆け寄った看護師が、呼吸器を外し、
僕は、呼吸苦から、解放された。
「ずーっと、眠っていたから、1週間も、眠っていたのよ」
僕は、鏡を探していた。
自分の姿がどうなっているのか。
車に乗っていた沙羅が、どうなっているのか
考えがぐちゃぐちゃだった。
「どうしたの?」
僕が、両手で顔を押さえるのを見て、看護師が不思議がっていた。
「あの・・・知りたいんです」
「何を?」
「彼女がどうなったか、知りませんか?」
「彼女?」
看護師は、もう一人の看護師に声を掛けた後、首を振った。
「単独事故って聞いたわよ。あなた一人しか、乗っていない」
「そんな事ない。確かに・・・彼女が」
「そんな事ないわよ」
夜の帷が降り、ガラスに室内の様子が映った。
ベッドに居るのは、以前の僕。
沙羅の姿ではなく。
どうしようもない。
僕。
呆然とした顔で、ガラスの中にいる。
戻ったんだ・・・。
異世界から。
あの化け物の体の中に入ったと思っていた・・・。
戻ってきた。
だけど。
沙羅は、どこへ?
「本当に僕だけだったんですか?」
「誰か、乗っていたの?」
沙羅が消えてしまった?
僕は、ぼんやりと外を見ていた。




