そこに蠢く者を知ってはならない
どこの家にも、秘密がある。
元いた世界の僕の家は、側から見たら、羨ましい芸術一家だっんだろうな。
有名な陶芸家の父。
造る器は、馬鹿みたいに売れた。
その反面、家の中は、ボロボロで。
僕は、荒れに荒れた。
もし、普通の家庭に生まれていたら、
普通の会社員をやっていて、どこにでもいる平凡な彼女と結婚して、
子供を儲けたんだろうな。
そこで、紗羅の顔が浮かんだけど、
慌てて打ち消した。
沙羅は、どんな家庭の子だったんだろう。
裕福な家庭とは、知っていたけど、
彼女の抱える苦悩なんて知らなかった。
僕に嫌われないように、
行動するのが、彼女だった。
よく知らなかったんだよな。
沙羅の影が、塔のてっぺんの壁に映る。
彼女の事を知らない。
知らないからこそ、
彼女を変えてやろうと思った。
なんの特徴もない彼女は、いくらでも変える事ができる。
幸いな事に、この城の庭には、たくさんのハーブがあった。
親父に似て、手先の器用な僕は、聞き齧った知識で、いろんな物を作った。
ハーブ茶。
化粧水や乳液。
シャンプーやリンス。
面白いほど、庭には、たくさんあり、僕は、沙羅の艶やかに変えようとしていた。
元いた世界でも、僕が、その気になれば、沙羅は変わる事ができたのかも。
僕は、彼女を見ようとしなかったのか・・・。
塔のてっぺんにある部屋には、大きな錠前が下がっていた。
誰も、入るなと言うのか。
隙間からは、蝋燭の灯りが見える。
中に蝋燭があり、誰かの気配があるという事は、出入りがあると言う事だ。
誰かを閉じ込めている。
誰が?
「誰かいるの?」
中から、聞こえてきたのは、細い女性の声だった。
「ここには、来ない方がいいわ。危ないわよ」
「助けに来ました。長い間、ここに閉じ込められていると聞いて」
「助けに?」
中で、何かが、動いた。
ゾロリと音がして、それと一緒に生臭い臭が周りに漂った。
「本当に・・・?」
ミシッと音がした。
錠前の付いているドアに寄りかかる音。
「お前・・・」
隙間から、声の主だろうか。
顔が覗いた。
「お前・・・よくきたな」
声は、優しい女の声ではなかった。
「食べちゃうぞ」
一つ目玉の大きな顔が、長い髪に包まれて、そこにあった。




