第二十四話 遅れてやって来る自己紹介
兵器開発が一段落して今は自分の訓練に精を出している。
いくら身体能力を高くしても反射神経がいい人などには直ぐに反撃される。
そのため今まで習ってきた古武術を反復練習している。
子供のころからやってきたことなのでそんなに苦痛には感じず、むしろ楽しく感じる。
やっぱり自分は武術家なんだな、と思いながら朝稽古が終わる。
ちなみに今まで、ランニング(屋敷五十周:約三十Km)、筋トレ(体中に水銀が入った箱をくっつけた:合計二百Kg)、突きや蹴り等(基本的な動作を三千回)である。
うん?
既に人間の身体能力を突破したって?
何を言ってるのやら。
こんなの親父の修業に比べたら・・・。
お、思い出しただけで寒気がする。
忘れよう。
話を戻すが今は昼を少し過ぎた時間帯。
いつもなら昼寝するか散歩するか訓練するか研究するかなんだが。
珍しいことが起こった。
それは俺が昼飯を食ってこれから何をしようかな?と考えていた時だった。
「失礼します。竜也様、お客様がいらしてます。」
と扉越しにセレスが言った。
「客?珍しいな。」
というかこんな豪邸に近づく奴はいない。
「はい、何でも大事なご要件であるとか。」
いかがなさいますか?と聞いてくる。
最初はギルドの人かと思ったが今のランクでは人を寄こされるほど高くは無い。
次に浮かんだのは質屋の人だ。最近行っていないからなー。
でも、そんなに親しい間柄じゃないから違うし。
うだうだ考えても仕方が無い。
「客間に通してやってくれ。」
「畏まりました。」
客は意外な人物だった。
「この間の美青年君だよね?」
「美青年では無い。ルカス・ビオーだ!」
そう、この前レイスを取り返そうとした美青年君。
もとい、ルカス君。
というか君の名前始めて聞いたんだけど。
「そうか。おっと、自己紹介がまだだったな。俺は本条竜也。竜也って呼んでくれ。」
こっちも名乗って無かったな。
「リューヤ・・・か。変わった名だな。」
「よく言われる。それで、今日はどんな用だ?」
自分をぶちのめそうとした人物によくこんな態度取れると思うかもしれないが、別に俺にとっては珍しいことではない。
闘いは闘い。
話は話と、区切りをつけている。
「師範からの招待状だ。」
懐から高級紙で作られた封筒を取り出す。
受け取り内容を見る。
要約すると、娘を保護してくれてありがとう。
門下生が無礼を働いて申し訳なかった。
正式な謝罪と感謝をしたいので是非屋敷に来てくれ、とのこと。
今までのことから察するにこの師範という人はレイスの父親と見て間違いない。
しかし、腑に落ちないことがある。
それはこいつらがどういう立場にいるかということだ。
貴族に近いがそれなら師範と呼ばない。
豪商でもないだろう。
何かの武術を教えている人というのがしっくりくるが、それならこの高級紙を使ってくるのが不可解だ。
捕捉しておくが、この世界では一般的な紙は羊皮紙を使っている。
高級紙は一枚あるだけで金貨が必要になる。
とても手が出せる金額では無い。
それに文面の文字から見ても明らかに使い方が普通とは違う。
はっきり言って怪しいが、レイスの父親なら悪いことは無いと思う。
「呼ばれたからには行かなきゃな。」
「当然です。」
おい、そこでなぜ君が突っ込みを入れる!?
「それでは行きましょう。」
勝手に話を進めるな!
で。
街のはずれにある屋敷に来た。
「ここがそうなのか?」
まあ、貴族の屋敷とまではいかないがそれでも普通の家よりはでかい。
二階建てで庭には井戸がある。
離れは道場のように見える。
「師範が中でお待ちです・・・。」
扉を開け中に促す。
中は質実剛健。
調度品や華やかな雰囲気はほとんどなく変わりに槍や剣、盾が掛けられている。
竜也からの目から見てもそれが単なる飾りではなく実戦に耐えうる物が置かれている。
だが、最低限絨毯や高級なランプが置かれている。
「少々お待ちください。」
その部屋は応接室と言われても違和感が無い部屋だ。
フカフカのソファー。
ピカピカに磨いてある花瓶、花も綺麗な物を使っている。
シャンデリアも垂らされている。
それらを眺めながら家主が来るのを待つ。
コンコン
ガチャ
「お待たせしました。リューヤ殿。」
ルカスと一緒に入ってきた人物。
それがこの屋敷の家主なのだろう。
その感想を一言で表わすとすれば、『大きい』だ。
素の身長も高いがそれよりも威圧感が先に来る。
冒険者が装備を外した格好をしており堀の深い顔をしている。
野性的な感じもあるが洗練された武人の気配もする。
無駄な贅肉がなく鍛え上げられた体。
おそらく格闘家。
それもかなりの使い手。
竜也は一目見ただけでおおよそ見当を付けられる。
ルカスが部屋を出ていき、お互いの自己紹介が始まる。
「始めまして、ホンジョー・リューヤ殿。私はサクフェス流師範ファン・サクフェスです。」
「本条竜也と言います。以後お見知りおきを。」
お互い向き合うようにソファーに座る。
体格に似合う低い声だ。
しかし、知性や話術も達者なようだ。
ここは気お引き締めなければならないと思い気持ちを新たにする。
「先日は娘を保護してくれたばかりか、内の者がとんだ失礼をしてしまいました。」
頭を下げて謝罪してくる。
「お気になさらないで下さい。少しばかり不幸な行き違いがあっただけですから。」
頭を上げてくださいと告げる。
放っておくといつまで下げそうだった。
「しかし、良い門下生でした。身のこなしや連携は中々。」
「ハハハ。日がな一日鍛錬に打ち込んでいますからな。リューヤ殿も何か武術を?」
「ええ。代々伝わる古武術を少々。」
一瞬ファンさんの目が怪しく光ったのを俺は見逃さなかった。
強い者と闘いたいというのは武術をしている人間から見れば当たり前のこと。
かく言う俺もその内の一人である。
「そうですか、納得がいきました。複数の門下生を倒したのですからさぞ有名なのでしょう。」
「いえ、おそらく誰も知らないでしょう。」
知ってたら驚きだ。
「時にファン師範・・・。」
「なんですかな?」
「そろそろ私を呼んだ本当の目的をお聞かせ下さい。」
フ、と一瞬笑った。
どうやら隠す気はないようだ。
「一つ依頼をしたいと思いましてな。」
俺がギルドに属していることはもう知っているらしい。
抜け目のない人だ。
「内容はどんなものでしょう?」
とりあえず聞かなければ何も始まらない。
いよいよヒロインに関係する話です。
ここでやっと。
やっとヒロインの正体が判明します。
次回レイスを取り巻く謎の関係とは!?
乞うご期待。
テレビの予告みたいになってしまいました