第二十一話 話して楽になることもある
新年明けましておめでとうございます。
今年初の投稿です。
今俺は村の人たちと街に向けて移動している。
馬車、三台を使いゆっくりと。
あれから全くと言っていいほどしゃべっていない。
最初の方は皆それなりに明るく振舞っていたんだが長く続かなかった。
「そろそろ見えてくるはずだ。」
視界に見なれた街が見えてきた。
門から街に入りそこで別れる。
「助かりました。これが依頼料です。」
手渡された革袋には破格とまではいかないがそれなりの額が入っていた。
「いや、村の警護なら不達成だし護衛の料金にしては多すぎないか?」
「治療費も入っています。それに山賊の討伐の分も入れてあります。」
「しかし、こんなには受け取れない。これからは結構必要になるだろう?」
あえて何とまでは言わない。
「村から持ってきた分がまだありますから大丈夫です。それにこれは私たちからの感謝の気持ちです。」
「そうか。では受け取ろう。」
「はい、それでは。」
「ああ。」
馬車で街中に入って行く。
何も言わずにただ黙って見送る竜也。
やがて見えなくなり、歩き出す。
当てもなく。
フラフラと。
しばらく何も考えずに歩いていたが気が付くとそこはギルドの前だった。
報告はしておこうと中に入った。
「あれ?リューヤ、何でここに?」
受付をしていたリリスがこちらに気が付いて声をかけてきた。
竜也は今まであったことを話す。
「そうだったんだ。がんばって生きていてほしいね、その人たち・・・。」
「そうだね・・・。」
「ああそうだった。一応依頼は不達成ってことになるけど・・・。」
「構わないよ。罰金とかは?」
「本来なら貰うんだけど事情が事情だし今回は特別にいらないわ。」
「・・・いいのか?」
「うん。今回は警護に付く前だから。」
「・・・そうか。」
俺はそう答えてギルドを出た。何でもいいから罰してほしかったって言うのは逃げてるのかな?
外に出ると真っ直ぐ家に帰った。
式神を戻し中に入る。
「あら、ご主人様じゃない。どうかしたの?」
ケル(ケルベロスの略称)が玄関ホールを掃除していた。
「村に付く前に襲われてな。不達成になった。」
説明すればするほど気分が重くなる。
「だから今日はもう寝る。夕食はいらないって伝えといてくれ。」
「え?でも・・・。」
自分の部屋に向かう俺の後ろでケルが何か言っていたような気がする。
自分の部屋に着くとすぐベットに倒れこみ寝入った。
竜也は自問自答のスパイラルに精神的に参っていた。
結局その日は夕食も取らずずっと眠っていた。
翌日になり誰にも伝えることなく屋敷を出た。
ただ何となくフラフラと街を歩いている。
最初は人もまばらだった通りは時間が経つにつれて人が増えてきた。
当てもなくさ迷ったが前に来た広場に着いてベンチに腰掛けた。
空を見上げる。
晴天とも曇りともいえない微妙な天気。
「こんなところで何をしているんですか?」
視線を下に向けるとそこには・・・
「レイス・・・?」
「うれしいです。覚えていてくれたんですね。」
この前見たときと同じ格好で目の前にいた。
「今日は大丈夫なのか?」
「はい、しっかりと許可は頂いていますから。隣良いですか?」
ああ、と言ってレイスが隣に座る。
暫く無言であったがレイスが口を開いた。
「あの、大丈夫ですか?何だか元気が無いようですが・・・。」
「・・・。何でもない大丈夫。」
「本当に?」
そう言われて口を閉じてしまう竜也。
「もしよろしかったら話して下さい。」
「・・・。」
本来なら絶対に話さなかっただろうが参っていた竜也は淡々と話した。
依頼で行った村が賊に襲われていたこと。
その盗賊を皆殺しにしたこと。
助けを求めた盗賊もいたこと。
そして、その時始めて人を殺したことを。
全てを話終えた竜也は彼女がどう思っているか気になった。
人を殺したことに恐怖するのか。
村を救えなかったことに落胆をするのか。
はたまたこんなに落胆している自分を見て飽きれられているのか。
彼女の表情を見る。
その表情はまじめそのものだった。
「それで、あなたはどうしたいんですか?」
「どうって・・・。」
「村を救えなかったことに対する贖罪が欲しいのですか?それとも人を殺してしまったことを許して欲しいのですか?」
「両方ともだな。」
「私は両方ともあなたが罪の意識を感じる必要ないと思います。」
「だけど・・・!」
「あなたは確かに強いです。しかし、いくら強いといってもそれは個々にすぎません。全てを守るなど不可能です。」
冷静に返すレイスはどこか大人びた表情をしていた。
「人殺しは確かに罪です。しかし、あなたは村人を救うために戦ったんです。それにこう言っては悪いですがあなたが殺したのは全て盗賊、放っておいても害をなすだけの存在。いずれは討伐をされていたでしょう。」
続けて彼女はこう言う。
「悪人だからと割り切れないのは分かります。ですが、そのおかげで生き残った人たちがいることを忘れないでください。」
「生き残った人たち・・・。」
そう言った竜也の頭の中に彼らの顔が浮かんだ。
皆疲れていたが安堵していた顔。
その顔を一つ一つ思い出すたに罪の意識が軽くなった。
だが、
「でも、俺はまた殺してしまうかもしれない。今度は罪人じゃないかもしれない。」
「では、あなたは見て見ぬふりをしますか?」
「それは・・・。」
「私は助けます。」
彼女の目は決意のこもった瞳であった。
「もし、そこで見捨ててしまったら私は後で後悔します。」
「だから、私は助けます。」
後悔したくない。
それが、彼女が行動する理由。
「・・・そうだよな。」
俺の中で答えが見つかったような気がした。
「何もしないで後悔する方が辛いもんな。」
それがどんな形かは分からない。
「はい!」
今まで最低だった気分がかなり払しょくされた。
まだ、完璧に立ち直ったわけではないが。
いつもの調子に戻ってきた。
「ありがとう、レイス。」
俺は心の底から礼を言う。
「いえ、どういたしまして。」
光の関係か、少し赤くなっているようにも見える。
お互い笑い合う。
優しく。
「あ!」
突然声を上げるレイス。
「どうした?」
「そろそろ戻らなければならない時間なんです。」
「そうか。」
立ちあがって来た道に向くレイス。
「今度遊びに来てくれ。歓迎するよ。」
「はい。」
にっこり微笑んで帰って行く。
その後ろ姿を見送った後竜也は立ちあがり。
「俺も帰るか・・・。」
帰路に着く。