あらすじ
──〈ジュンランド・ラン〉、もう列車は走らない。
タトゥイーンの夜、午前二時。モス・エスパからアンカーヘッドへ向かうはずだった最終の貨物列車。その線路は今、砂の下で眠っている。錆びた枕木の横にしゃがみ込み、僕は“来ない到着”を待っていた。
頬をかすめる風がひんやりして、汗の跡をすっと乾かす。二つの太陽が落ち切った砂漠は、昼の火照りを嘘みたいに手放して、音まで冷え込んでいる。遠くでジャワのサンドクローラーがエンジンをうならせ、それが止むと、また世界が深い耳栓をしたみたいに静かになる。思わず息をこらすと、自分の鼓動だけがやけに大きい。
タトゥイーンに生まれた者なら誰だって知っている。夜の線路が物語るのは、「ここを走るものはもういない」という事実だ。残っているのは砂、星、それから歩くしかない僕たちの足音だけ。
父は昔こう言った。
「世界は砂の熱さでも闇の冷たさでもできていない。止まった線路にも、耳を澄ませば旅の音が響いている」
あの父を連れ去った帝国の徴発船は、最後までうるさいほどのエンジンを鳴らして消えた。いま僕の周りに残ったのは、突き放すような無音──だけど、それが悪くない気もする。静けさは怖い。でも真っさらでもある。何かを始めるなら、こういう音のない夜がちょうどいい。
切符はない。持ち金は七十五クレジット。フォースの才能もライトセーバーも僕には関係ない。それでも銀河の果てまで行ってみたい。ただの意地だ。行けるところまで歩く。潜り込める船があれば潜り込む。それだけ。
胸ポケットで、父の赤いクリスタルが冷えている。指先で触ると、氷みたいに硬い。旅の温度計を握っているみたいで、思わず笑ってしまった。
星が地平すれすれまで降りてきて、錆びた線路を白く照らしている。
──列車は来ない。だけど旅は、もう動き出している。
僕は砂に埋もれたレールをまたぎ、暗闇の向こうへ最初の一歩を踏み出した。