0章 暗流泥濘
多少グロテスクな表現を含みます。ご了承くださいませ。また、改めて言わずとも皆さまはお分かりと思いますが、本作はフィクションです。現実の地名、人物、団体、出来事、宗教などとは無関係です。
竜王国は大陸の北方、「大河川」より北域を治める覇国である。かつて神話の時代にて、この地で法を敷き、大陸全土を治めていたのは大天使である竜神であった。其の治世は永遠に続くかのように思われた。しかし竜神がこの地に降り立ってから幾数千年後、竜神の魂が不変で永遠のものではあったが、この世に降臨するための器である其の肉体は世界の法に縛られ、そして腐敗していった。やがて世界は一転して陰った。それを好機と言わんとばかりに世界に穢れと魔物が蔓延していく。そしてそれは人間の文明に多大な影響を与えた。地と技術、文化を置き去りに人々は北へ北へと安寧の地を求めて魔の手から逃れ続けた。そしてここが大陸の果てであり、逃げ場はもうないと知った人々は竜髄山脈に、後に「黒門」と呼ばれる要塞を築き、魔族の将軍たちを防ぎ、それより北が人類の版図であるとした。これが後の竜王国の始まりである。
竜神が息絶える前、其は三人の人間を召集した。
「我の血を与える。」
三人の人間に竜の神血を注ぎ込んだ。そうして血を分け、新たに兄弟となった三人は竜神から其の権能を授かる。金髪の男はこの世界を治める権能を、白髪の女は穢れと魔物を祓う権能を、そして黒髪の男、あるいは女にはその竜体を鍛錬して一振りの剣を授けられる。三人は「黒門」を発つと、南方へ進撃し、魔族の将軍たちと戦い、大河川を越え、魔女と邂逅し、そして大陸のはるか南方にて魔族の王を討ち取った。三人は救世の勇者一行として、迎えられ、そしてやがて詩となるはずだった。
魔族を破り、北へ戻り、人類の救世に成功した黒髪の勇者は、突如として神剣を抱えて消えてしまう。困惑する残された二人であったが、二人は手を取り合いそれぞれのやり方で残された人類を導いていく。金髪の男の子孫は法と力で人類を導いた。彼らはやがて、黄金の一族と呼ばれ、竜王国の王族となりこの地を統治することとなる。白髪の女の子孫は教義と祓魔で人類を導いた。彼らはやがて、白巫女の一族と呼ばれ、各地を旅すると共に、後に世界宗教となる白教を広めるとともに魔族の残党や魔物、穢れを祓い続けることとなる。
勇者による魔王の討伐後、急激に増える人類と、それを養うにはあまりに心もとない人類の版図を憂いた第三代竜王国国王は国境の要塞「黒門」を出て、未だ魔物と魔王軍の残党が蔓延る南方を開拓する決意した。そうして30年に渡る第一次南方遠征が始まった。しかし問題があった。王族を死地に送るほどの度量はこの王には無かった。が、兵を率いるのは王族でなければ困る。
「どうしたものか。」
苦悩した王は一つの妙案を思いつく。王は将軍の一人を呼ぶと兵を率いて南方の地を平定して統治する任を与えた。将軍は王家の者ではなかったが、王家の分家の者ではある。王は将軍に王女を与え、新たに王家の一員に迎えた。こうして新たに開拓された土地は王族が開拓したこととなった。これにより新たに開拓された遠方の土地で竜王国の権威が薄れるのを防ぎ、後に独立するのを防いだ。しかし遠征自体は困難を極めた。歩兵はすぐに魔物に追いつかれる。基地を作ってもすぐに襲撃されてしまう。生き残った魔族の将軍たちもなかなかに手ごわい。
「困った。」
そこで将軍は兵を皆、馬に乗せることにした。途方もない金と時間がかかったが、やがて遠征隊はその機動力で、魔物たちを振り切り、ついにおとぎ話でしか聞いたことの無かった大河川にまでたどり着く。これが第一次南方遠征の終着点となる。距離としては大したことはないが、この時に築かれたノウハウは続く第二、第三南方遠征の礎となっていく。
遠征軍はこの地を旅の終わりの地として、エンドポートと呼び都市を築いた。ちなみにエンドポートは大河川から見てかなり内陸、大河川の支流であるカープール川沿いに建てられる。なぜ、大河川沿いには建てられなかったかというと、河沿いには手に負えないほど大きく、狂暴な魔物が無数に居たからである。幾度とそこに住まいを建てては壊滅を繰り返し、後退し続け現在の位置で落ち着いたのである。
新天地を開拓してから幾百数十年後、大河川以南にも土地が存在することを発見したエンドポートの住人たちは、さらに以南の土地を求めて旅を続ける。これが第二次南方遠征である。ちなみにこの時、遠征を率いたのは聖ヴァイヤフェルン公である。第一次南方遠征を率いた将軍の子孫であり、後に南方で覇を唱える帝国の始祖である。ヴァイヤフェルン家は元々商人の家であり、新天の土地で領主に功多しと、娘をいただく。その娘が孕み、生んだ子供が、聖ヴァイヤフェルン公である。つまり元を辿れば、竜王国も帝国も同じ家系なのである。もっとも、現在の皇族はその南方遠征の歴史から、多くの異人と混ざり、黄金の一族の血はその権能を使えなくなるほどに薄れてはいる。
さらにおよそ150年後、教皇戦争という大きな内乱が竜王国で起きる。端的に言えば、黄金一族と白巫女の一族が権力の所在を巡って戦争を起こしたのである。戦争自体は黄金一族、つまり王族が勝利し、大多数の白巫女の一族は諸外国へ亡命し、残った一部の白巫女の一族は人権を失い、弾圧と迫害を受けることとなる。しかし勝利した黄金一族も勝利よりも大きな物を失ってしまう。南方遠征隊は白教を使って開拓を進めていたのである。一方で、遠征隊を率いているのは王族ではないし、王国は遠方で影響力が少ない。つまり遠征隊の多くは白巫女勢力を支持することとなる。教皇戦争以降、南方遠征隊は竜王国王家と敵対し、ついには竜王国からの独立と帝国の建国を宣言する。激怒した竜王国国王はすぐさま討伐軍を差し向ける。しかしこの動きを読んでいた帝国は友邦、大龍王国と同盟を組みこれを迎え撃ち、撃滅する。そして逆に手薄となった竜王国の版図に攻め入り、大河川以南の土地を掌握してしまった。以降、戦線が膠着した両国は西方の小国に影響を与え自国の傀儡にしようと奔走するようになる。
それからさらに数十年後、王都に大規模な厄災が襲う。王都は廃墟と化し、王とその幕僚の多くが突然亡くなったのである。そして急遽即位したのは若干20歳の無名の王である。帝国はこれを好機と思い、各列強国を誘い反竜王国で同盟を結び、それを四国同盟と称して、竜王国に西と南から攻め入った。が、思いのほか竜王国の守りは固かった。特に西部戦線は激戦を極めた。急遽即位した若干20歳の王のもとに、臣下がよくまとまり獅子奮迅の働きをした。一時は王都の眼前にまで押し込まれ、竜王国西域が焦土と化したが、歴代最強の騎士と呼ばれるイェルネルト卿とその弟子騎士アイリの作戦のもと同盟の軍を次々と破ることとなる。そしてついにこれを壊滅させ、逆に列強国の一つであったケーブ王国の首都を陥落させる。四国同盟は音を立てて瓦解したのである。一方の南方戦線は静かであった。大河川と言われるだけの川幅が、両者に睨み合いを強要させていたのである。まず有効な人数を対岸に渡すのが難しかった。渡ろうとしてはこれを防ぎ、ちょっと渡河に成功してもすぐに叩かれる。同盟が瓦解してもなお、大河川を挟んで小競り合いが続いていた。そして両国の睨み合いは続き、緊張状態は続いていた。そしてその状態は気づけば10年近くも続いていた。
序章
1
「コヒュウ…。ヒュ!……。コヒュウ…。」
泥の中に斃れた、少女の形をしたその肉塊は未だに生きようとその喉から血と空気を吐き出していた。ポタポタと曇天の空から降りしきる雨粒が瞳に落ちる。その瞳は遠く誰かに何かを伝えていたのかもしれない。降りしきる雨の中、赤と泥色に染まった白いドレスは雨に透け、痛みに悶えるその四肢を、身体をよく映し出す。その手足がもがくたび、泥と血でグチャグチャにドレスの白を汚していく。
「ァ……。ガッ!!…………。ヒュッヒュ!!」
血が喉に詰まり、気管に詰まり、肺を窒息する。失われていく血と酸素が、思考を奪い、視界を奪い、そして間もなく彼女の命を奪う。苦痛と酸欠に反射的に身悶える。風魔術で喉に無理やり血を退かすか?いやバカな。それでは喉そのものを吹き飛ばしかねない。死んでは元も子も…。
くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい
一刻も早く楽になりたいと身体が訴える。ああ、むしろ吹き飛ばした方が幸せだったかもしれない。と言っても手足の感覚はとうに無い。魔術を行使する機会を失ってしまった。いや元から無かったのかもしれない。今は胸をわずかに、それから不規則に震わす程度である。気管を塞ぎ、肺にまで血が入り込んではいくら足掻いても呼吸のしようがない。酸欠に喘ぐ脳は、やがてその思考を白んでいく。いや手足が動かないのは既に脳が壊死し始めているからなのか?文字通り手も足も声も出ない。
「ッ!!!」
一度大きく身体を震わしたと思ったら、それを境に動かなくなってしまった。泥と雨水の中にゆっくりと沈み込んでいく。
「……………………………。」
降り積もる雨音の中、ゆっくりと一人絶命した。
2
半日前
「はあ…。はあ……。」
あがった呼吸を整える。
「起きなさいヴィオラ。」
飛ばされた私の剣を魔術で呼び戻し、それを杖にして再び立ち上がる。右手で剣を構え、左手に魔力をこめる。およそ10歩分先にいるのは私の師匠こと、愛しのお姉ちゃんことイリシアお姉ちゃんである。お姉ちゃんが私の準備ができたことを確認すると彼女も構える。と言っても特に武器などを持っているわけではない。
「スゥーー…。」
額から流れ落ちる汗を火照った頬で感じながら、深くゆっくりと息を吸い込む。酸素が血流に乗り身体に巡るのを感じる。
半身分ほど踏み込むと左手から最大火力の火炎を放つ。周囲一帯を焦がし尽くさんとするそれは、お姉ちゃんを飲み込もうと迫る。が、それよりも一瞬早くお姉ちゃんは魔術で水の防壁を展開するとこれを防ぐ。
「火魔術…?珍しいな」
お姉ちゃんはそう言うと水の防壁をさらに厚く、さらに大きくしていく。そして逆に水の防壁は火炎を飲み込み、完全に鎮火させられる。
お姉ちゃんが水魔術を操るのを解除するその一瞬、両者の姿は大量の落下する水と水蒸気に隠される。当然、熱された水の中を進む訳にはいかないが、水魔術の周囲を一歩二歩分は進むことが出来る。今回こちらの職分は魔術剣士、対して相手は純粋な魔術師。ならば距離さえ詰められれば十二分に勝ち目はある。
そうしてもう一歩踏み出した時、まだ消えていない水魔術を貫いて先ほどまで立っていた場所に白黒い光線が放たれる。
「ッ!!やば!!」
地面に倒れ込む。水を貫いた光線はこちらに曲がり、頭の上を光線が横切る。
「あぶねぇ」
と安堵した瞬間お姉ちゃんと目が合ってしまった。近づく前に先程の水魔術が完全に地面に落ち、視界が晴れてしまったのである。お姉ちゃんが魔術を行使しようとしている。即座に風魔術で自分の体を吹き飛ばし、後方に跳んでお姉ちゃんの魔術を避ける。無理な回避で内臓が抉れるような激痛が走る。が、次の瞬間には視界の端で先ほどまで自分が居た場所に白黒い光線が放たれているのを確認する。やはり無理な回避をして正解だったようだ。
「フー……。フー……。」
強烈な腹痛に耐えつつ何とか着地する。晴れた視界でお姉ちゃんに相対し、剣を構え直す。
「魔術による攻撃も、それを利用した奇襲も結局距離も詰めれずに失敗。今日は調子が悪いんじゃない?ヴィオラ?」
お姉ちゃんが煽って来るが気にしてはいけない。戦闘において相手の言葉に惑わされるのは命取りになる。そうお姉ちゃん自身にこの前教わったからである。おそらくわざとそういう風に言っているのである。
「まだまだ勝負はこれからでしょ?お姉ちゃん?」
と吠えつつ、周りを冷静に観察する。まだ剣の間合いに入るまでは距離がある。お腹のダメージも決して無視できない。暑くてジメってるからか、湿気と熱気が身体を纏って気持ち悪い。お姉ちゃんは既に次の光線を放とうとしている。概ね計画通りである。
再び魔術を発動させる。しかし今度は逆に、私は私の持ち得る魔力の最大出力で辺り一帯の気温を下げる。突然に急冷されたこの場の空気は、先ほどの魔術のぶつかり合いで限界まで水蒸気を含んでいる。すると冷えた空気は濃霧を生み出す。白い霧は私とお姉ちゃんの視界を奪う。二人をそれぞれの位置を認識できなくなる。がこれは先ほどと違って、剣士にとって有利な直線で距離を詰めれる視界切りである。さらにそれに加えて私の足元はそれほど濡れてないが、お姉ちゃんの足元は違う。先ほどの水魔術はそのまま地面に落ち、お姉ちゃんの足元はぐしょぐしょに濡れている。即座に凍り付き、足が地面に凍り憑いて動けないはずだ。しかし自分は違う。多少は凍ったがその程度は、地面を踏み込んで薄氷を割り、距離を詰める。白黒い光線が再び横切る。今度こそ場所を掴みもう一回撃とうとしている。が、もう遅い。濃霧の中、ようやくお姉ちゃんの顔を捕らえる。
「もらった!!」
とっさにお姉ちゃんは腕で防御しようとする。しかしこちらは剣である。腕では防御できるはずもなく…。
キィイイイイイイン!!!!
まるで腕が金属、いやそれよりも固い何かに当たったかのように跳ね返される。
「え?ずる!」
が、動揺してはいけない。跳ね返された勢いを利用し次の一撃に繋げる。いつの間にか足元の拘束を解いたお姉ちゃんは半歩下がり距離を取ろうとする。私もそれを逃すまいとさらに一歩踏み込み、剣を腕に叩きつける。お姉ちゃんの腕の肉が抉れ、黒いドロドロしたものになり飛び散る。
普通の相手ならこの時点でこの模擬戦は私の勝ちで終わりだが、お姉ちゃんの場合は違う。いや、むしろここからが本領であるとも言える。
気が付けば、肉を抉ったお姉ちゃんの左腕全体が先程飛び散った「黒くてドロドロしたもの」になっていた。黒くうねうねとまるで触手のように変化したその腕は細く、長く、硬く、自由に操って迫って来る。そして元の質量を越えて伸び続ける。剣で叩き斬ろうとも微動だにせず、いなそうとすると隙をつかれ、鍔迫り合いで抑え込もうとも、それはまるで触手のように剣と腕に巻き付く。
「うっ……!」
気が付けば剣ごと腕に巻き付かれ、逃げることも出来なくなっていた。そしてそれは未だに伸び続けている。うねうねと伸びてくる。腕を登り、肩を抜け、首に巻き付き、そして剣よりも尖ったその先端が私の喉元にまで伸びてきて…。
「ここまでね。」
お姉ちゃんが一言そういうと、あれほど硬かった触手が再びドロドロになり地面に落ちていく。抑えつけられていた腕を解放されて、そのまま脱力して仰向けに地面に倒れ込む。
「はあーあ負けた負けた。」
「結構上達したんじゃない?」
見るとお姉ちゃんの腕は既に元通り修復している。自分もお腹に回復魔術を掛ける。いやこれは魔術じゃなくて聖術って言うんだっけ?まあいいや…。イテテテ…。
「でしょでしょ~。あ!でもさ!よくよく考えたら今回は対魔術師の模擬戦って想定だよね。魔術師…というかお姉ちゃん以外誰もあんな戦い方できないよ。ズルくない??」
「まあヴィオラが現状足りていないのは魔術よりも剣術だからね。多少の近距離戦も入れなきゃ。」
「多少ってなんだっけ?まあいっか。」
お腹の回復も終わり、お姉ちゃんが手を差しだしてくれる。その手を取り、起き上がる。ここはエンドポート郊外の丘で起き上がるとエンドポートの街並みと大河川が視界に飛び込んでくる。川の向こう側は見えないが、向こう側にも土地が広がっているらしい。
「剣術かぁ~。はあ…。お父さんかアイリ姐さんがいれば教えてもらえるのにな~。」
お父さんこと、ルカ・イェルネルトは歴代最強の騎士と呼ばれ、国内外問わず影響力のあるこの国の重鎮だ。対「帝国」の防衛の要衝であるこの都市の管理を任されているのもそのためである。が、三日前突然お父さんが王都に呼び出されて今は不在なのである。帰ってきたらまた教えてもらおうかな。そして、アイリ姐さんはお父さんがとったただ一人の弟子だ。もちろん色んな人に稽古をつけることはあるらしいが…。彼女はだいぶ昔に亡くなったお母さんの知り合いだったらしい。そして今は王国騎士になり、第二王子の側付き騎士として北洋への遠征に従軍しているらしい。あちらは北方の異民族が聖域の精霊たちと結託して乱を起こしていてこれまた大変そうだ。
「んんんん~」
背伸びをする。いや~汗かいたし早くお風呂に入りたいや。
「まあいいや。疲れたし、今日はここまでにして帰ろ?」
バっとお姉ちゃんの手を掴む。
「え?ちょっちょ!!」
お姉ちゃんの手を引き、丘を駆け降りていく。
3
「はぁ~…ごくらく~ごくらく~」
我が家は父のおかげでこの都市の一等地にでっかいお屋敷を持ってる。一般的には湯浴みはお湯で濡らしたタオルで身体を拭くのが普通であり、公共浴場も貴族か儲かってる商人でもなければ毎日通えるものではない。私邸にお風呂があること自体珍しい。しかしうちには10人は入れるほどのでっかいお風呂がある。それを一人でいつでも入れるのである。まさに特権である。
「さすがお父しゃま~。はぁ~。お湯が疲れた体に染みる~。」
風呂にアヒルの代わりに黒いスライムを浮かべてみる。
「って誰がスライムじゃ!」
なんとびっくり、このスライムは言葉を話すことが出来る事ができるらしい。
「………。」
「あははは。ごめんごめん。」
そう、このスライムは先程の模擬戦でお姉ちゃんが見せた「黒くてドロドロしたもの」である。お姉ちゃんは泥と鉄化の能力と言っているけど正直よくわからない。そういえばお姉ちゃんは、それぞれ分離して独立して動かすことが出来るらしい。だから本体が別のところでお父さまの代わりに書類仕事をしていても、こうして話すことが出来るんだ。もとに戻るから決してバラバラ殺人って訳ではない。ん?でもバラバラにはなるのか。なら案外違くも無いのかもしれない。死んではないが。
「ところで、そういえばお姉ちゃん?」
「んん?」
「この前、お父様が国王陛下に呼ばれて王都に行ったじゃん?あれってなんでなん?」
「さあ?気づいたら居なかったから分かんないや。さすがの馬で七日も先のことは分かんないし。せいぜい二、三日分くらいが限界かな。」
「あはは…そうなんだ…」
(逆に馬で二、三日分の距離なら分かるんだ…。こわ…。)
「あ、それでね。お父さまが帰って来る前に、この前からすすめてたアレの調査をしたいんだけどいい?」
「んん~。ああ、『市民の皆は何で困ってるのか大調査大作戦』ね。」
「なんか恥ずかしい名前つけるのやめてくれる?身体の奥の方がなんかムズムズする…。あれまとめてお父さまに検討して貰おうと思ってるんだから。」
「むしろ可愛げがあっていいんじゃない?まあ、自分の仕事も終わりそうだしいいよ。そしたらお風呂から上がったら行こうか。」
「やったー!!善は急げだよ!今すぐ行こう!!」
こうしてはいられないとすぐに立ち上がり、
くらっ!
「あっ!ちょ!!」
すぐに倒れてしまう。
「へにゃへにゃ~立ち眩みぃ~」
「だから言わんこっちゃないんだから…。」
4
ドアを開けると入店を知らせるベルと共に店主の活きのいい声が聞こえてくる。
「いらっしゃい!!」
「よっ!おやじまた来たz…痛っ!」
お姉ちゃんに頭をチョップされてしまった。
「言葉遣いがはしたない。」
「ははは。領主様のご息女様たちだろ?こんなしがない繁盛してないパン屋に対してそんなん気にしなくていいっての。」
「いえ。彼女はまもなく王宮に出入りする歳ので、そろそろ気を付けねばなりませんから。」
「はは、そうかい。もうヴィオラちゃんもそんな年か。最初にこの店に来た時のちび助の時から比べるとだいぶ大きくなったな」
ポンっと胸を叩く。
「ええ、ですが私はまだ成長期!まだまだビッグになりますよ。」
「フッ…その既にビッグなお胸をこれ以上ビッグにしてどうするんていうんだい、ヴィオラ?」
「知らないのお姉ちゃん?おっぱいには夢と希望が詰まってるんだよ。だから大きければ大きいほど……じゃなくて器とか?人間性とか?そういう話だよ。すーぐそうなるんだから…」
「それでお嬢さんたちは今日は何しに来たんだい?」
気が付いたらしょうもないしてた。いけないいけない。
「今日もパンを買いに来ました。いつもの量をお願いします……ってあれ?」
パンが並んでいるケースの値札に視線を降ろすとびっくりする。
「値段上がりしてる……。」
おやじは申し訳なさそうにしている。
「ははは、最近は全然小麦を仕入れられなくてな。しょうがねえんだ。だけど嬢ちゃんたちには特別に元の値段でいいぜ。」
「いいんですか!?」
「ああ。というかこれ以上、嬢ちゃんの財布からこれ以上取るのも気が引けるってやつだからな。(毎日こんなに大量のパンいったいどこに寄付してるのやら…)」
「えへへ~ありがとうございます~。」
「そういえば小麦が入ってこないってどういうことですか?」
お姉ちゃんはさっきの話が気になったらしい。あ、おっぱいの方ではないぞ。
「おや、イリシアの嬢ちゃんならなんか知ってると思ったがそんなことないのかい?」
「ええ。」
「西方って土地が豊かで小麦の質が良いから、うちは大陸行路でやってきた西方の商人から買ってるんだが今回のキャラバンがこれまた、なかなか来なくてな。」
「ええ。それは知ってます。西方は先日も各諸侯を召集しての会盟があったとはいえまだまだ治安が悪いですから。キャラバンが遅くなることもありましょう。距離もありますし。」
「ああ。もちろんうちだって全部それに頼ってるって訳ではないさ。多少の不足分を北方の王都の商人や、南方の帝国や大龍王国の商人たちから買うこともあるんだが、それらが皆ここ最近来ないんだ。最近だーれもきやしねぇ。もちろん貯蓄はあるけどいつ来るか分からないとなぁ…。なんともだぜ。」
「なるほど…。」
お姉ちゃんが何か考え込んでしまった。
「おいおい。どうしたんだよお嬢ちゃん。そんな難しい顔して。まあたまにはこんなこともあるさ。」
何かに気づいたのか突然、お姉ちゃんが顔を上げる。
「ちょっと急用ができました。失礼します。行くよ、ヴィオラ。」
突然お姉ちゃんが私の腕を引っ張る。
「え?ちょ?なに?お姉ちゃん。」
「お、おい!パンは?」
うしろからおやじの困惑した声が聞こえる。許せ!おやじ!しかしお姉ちゃんが突然こんなに慌ててるのは何でなのだろう?こんなお姉ちゃんは初めて見た。
5
ただの勘違い、ただの杞憂。もしそうならばそれでいい。しかし頭の中で最近抱いていたいくつかの小さな疑問のピースが繋がり、そしてパズルが揃ってしまった。
存在そのものが諸外国に対する抑止力になるお父様がなぜ王都へと呼び出されたのか。なぜそれは自分たちに伝える余裕すらなかったのか。その内容はなんだったのか。なぜ北方の異民族が聖域の精霊たちに接触できたのか。またそれを王子が自ら中央軍を率いて平定に出征しなければならないほどになったのか。そしてそれらに重なるように西方だけでなく南方、北方からの商人が同時に来ないという偶然。あるいはこれは誰かが仕組んだ必然なのかもしれない。思えば、西方で執り行われたという会盟も気になる。元より西方は自治派か帝国派か王国派で思想的分断が起きてる地域。諸侯を集めての会盟など「平和な代理戦争」とさえ言える。その会盟で何が起きたのかはまだ分からない。しかし今回はそれに合わせてたしか我が国は特使を送っていた。不穏だ…。これだけの情報が揃えば嫌な想像をしない方がおかしい。
「ねぇ!ってば!」
ヴィオラに大きな声をあげられてはじめて我に返った。
「腕!…痛いんだけど。」
「あ、ごめん」
夢中になってヴィオラの腕を強く握りすぎていた。彼女の腕を放すと、ヴィオラは腕を組んでプンっとなってしまった。どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。目的地である都市庁舎、あるいは内城まで目の前である。もし杞憂でなければ、急がなければいけない。
「まったく…ま、まあ?あんなに焦ってるお姉ちゃんを見るのは初めてだったし面白かったからいいけど。」
良かったあんまり怒ってなかったらしい。今度何か奢ってあげよう。と、ヴィオラに手を握られる。
「それで?どうしたの?何をそんなに焦っていたの?」
一呼吸おいて、ヴィオラに向き合う。
「ヴィオラ。私の想像が間違ってなければもしかしたらこの都市に…」
キュイイイイイイイイイン
言い終える前に突然、耳をつんざくような、耳障りで不快な音が鳴り響く。同時に視界が赤身がかる。空を見上げると何本もの流星が流れている。流星はその赤さをより増し、より空を赤く染め上げる。そして流星は都市の様々な場所に爆発と破壊を伴いながら墜落していく。そうしてようやく気が付いた。これは流星などではなく砲撃であるということに。
一瞬にして平和なだった街は炎と瓦礫に包まれ、戦場と化した。ヴィオラは未だ状況を消化しきれずに困惑している。やはり間違いがない、帝国が攻めてきたのである。そしてこの都市が砲撃されるほど敵が迫ってるなら、もうこの都市は陥落する。なぜならこの都市に兵が居ても、防衛機能はほとんど全て河川沿いにあり、唯一の対抗手段であるお父様は今この場にいない。そして何よりも、この侵攻には内通者がいるのだろう。それも無事に内通し、見事に盤面を動かし、誰にもバレずに詰路を掛け、そして帝国軍を誘因に成功したのである。その賊は見事な腕前であると言わざるをえない。
「お姉…ちゃん……?」
どうやらヴィオラも困惑しつつもなんとなく状況を察したらしい。
「ヴィオラ。私は今から将軍たちと兵を率いてこの都市を守って来る。それがお父様の子…いや、この地の領主の子としての務めだからね。」
「うん…」
ヴィオラはひどく困惑している。が、取り乱すほどではない。
「だから私からヴィオラにお願いがあるの。黒門に通じる秘密の道は知ってるね。」
「うん」
小さく彼女は首肯する。
「あそこの道は限られた者しか知らない秘密の道。私たちとお父様、そして王族の方々しか知らない道。だからその道を通って黒門にこの急報を知らせてほしいんだ。お父様の娘であるヴィオラなら、そこの人もヴィオラの言ったことを信じると思うの。黒門は不意打ちでもされない限り絶対に落ちることの無い難攻不落の要塞だから、一刻も早く彼らに知らせて迎撃する準備をしてもらわなきゃいけないんだ。」
「でもそれってまるでお姉ちゃんたちは…。」
と言いかけて口をつぐんでしまった。きっと「死にに行くようなものだ」とでも言いたいのだろう。まったくその通りである。
「大丈夫だよ。私はこの国でお父様の次に強いんだよ。だから大丈夫。私は死なないよ。」
ヴィオラは暗い瞳をしたまま
「……うん、わかった。」
と、ゆっくり首肯した。勝つでも、敵を追い返すでもなく、ただ自分が死なないとしか保証できなかったこと察されたのかもしれない。ヴィオラが黙って立ち上がるとそのまま北に向かって走っていった。その背中を不安のまなざしで見送ることしか出来ず、私は振り返り、都市庁舎の中に入っていく。
6
「死ににいくというのか!!」
「この愚か者め!!これは…」
都市庁舎に入ると幕僚たちの怒号が耳に入って来る。
「だから、何度も言ってるように今すぐ撤退するべきです。全軍を黒門まで後退して迎え撃つべきです。あそこなら王都の中央軍と合流して迎撃できる。」
「その中央軍はいつ来るんだ?はるか北方で戦争してるんだぞ!それで?黒門に引きこもってゆっくりと包囲されて、反撃できずに餓死したいのか?それに相手は帝国だぞ!どうやって撤退するんだ!」
「しかしそれでもここでいたずらに兵を消耗するよりはましです。我々は寡兵。地の利を失ってるのですよ。それにイェルネルト卿が居ないのなら、援軍を待つべきです。」
「それに今、我々が撤退したら、前線の隊を見殺しにすることになる。」
「今さら救出なんて無謀だ!!」
「はあ…まったく聞くに堪えんな。」
突然後ろから声を掛けられる。190㎝はある大男で、白くモサモサした髭を蓄えたこの方はフンダーン老。40年以上兵を率いてきた老練の将であり、父が居ない今この場の最高指揮官であるお方だ。
「まったくです。」
「時にイリシア嬢。貴殿は頭脳明晰、それに腕前は中央の十二騎士の上位勢にも引けを取らぬ実力だとイェルネルト卿はいつも自慢しておりましてな。そんなイリシア嬢はこの盤面をどう見るのかな?」
「そうですね、まず間違いなく内通者がいるでしょうね。」
「ほう」
フンダーン老は髭を撫でながら興味を示す。
「この都市の防衛の要は大河川沿いに張り巡らされた監視網と私の父という最強の駒による機動防御です。なのに敵は何かしらの手段でその両方を解決して、こうして渡河に成功してます。情報的にも手段的にも内通者が居なければ成り立ちません。」
「なるほど…そんなことが可能なのは相当な地位にいる人物なのだろうな。」
「大臣の誰かか、どこかの騎士団か商会かは知りませんが相当腕の立つ人物ですね。父を王都に呼び出したのだから当人は今は王都に居るのでしょう。実際に手引きしたのは彼の下っ端なのでしょうね。悔しいですが、今すぐその内通者を特定することも、まして何かすることも出来ないでしょうね。」
「ふむ…それでは、目下の敵に対してはどうだ?」」
「兵は神速を尊ぶと言います。特に今のように一刻一刻と状況が悪化する現状は、たとえ最善手でなくても何かしらの手を打つべきです。」
「なるほど、確かに一理ある。それで?イリシア嬢はどういった決断をするべきだと?」
「正直、この状況では決戦も撤退も無理があります。敵方の戦力はかなり少なく見積もっても10万以上、対して我々はせいぜい4万が関の山。もちろん兵数だけがすべてではありませんが、大河川の沿岸を既に敵方に掌握されて、我々よりも多くの兵力に上陸を許してしまった現在では指を咥えて見てるしかありません。ただ単に決戦するだけなら我々が帝国軍の物量で轢きつぶされるでしょう。」
「なら撤退案はどうだ?」
「いえ、帝国は南方遠征の名残で大陸最強と名高い騎馬隊で名を馳せてます。間違いなく大規模な騎馬隊も編成してるでしょう。それも、数万単位のを用意しているでしょう。対して我々の兵科のほとんどが歩兵です。黒門までの道は途中まで平原が続いてます。歩兵の足では、まず間違いなく苛烈な追撃にあい、撤退は潰走になるでしょう。大量の死傷者を抱えて黒門に雪崩れ込んだらどうなるでしょうか?すぐに包囲される黒門、急に増えた将兵、届かぬ補給、減り続ける物資、蔓延する病と絶望。されど居るのは病人か怪我人、あるいは死体ばっかり。反撃も満足にできずに、千年城と謡われる難攻不落の要塞がいとも簡単に落城する様子がありありと見えます。」
老は難しい顔をしている。
「つまり我々はここで何も為せずにだだ犬死にする運命だといういうのか?」
「いえ、そこで私に作戦があります。」
と、老に言うと二人で部屋の中心へ移動して、幕僚たちが囲んでいる地図の前に立つ。地図に棒で指さし、作戦の説明を始める。
「目標は敵の出鼻を挫き、敵の追撃能力を挫き、そして無事に撤退する事です。寡兵なら寡兵の戦い方を。相手の兵科を利用し、地の利を活かし、敵の予想を越えてやるのです。」
7
エンドポート西に広がる平原の丘の上にて陣を敷いた右翼。左翼は一万の兵を率いて都市の東側に陣取っている。東側は若干の隘路となっているので防御するだけならば有利である。そこを固めて本隊である右翼の側背を守っている。一方の右翼を率いるフンダーン老は静かに馬上にて待機していた。相手よりも高所に陣取った老は戦場の全貌がよく見えている。文字通り地平の彼方にまで敵兵で埋め尽くされている。
「フフ、イリシア嬢も老骨に無茶をさせる。」
遠くで角笛の音が鳴るのが聞こえる。そしてようやく帝国軍が動き出した。見渡す限りの騎馬である。この騎馬隊で帝国は大陸南方に覇を唱え続けていた。そして音が震え、地が震え、そして心臓が震える。ああ、いつだってこの瞬間は興奮せざにはいられない。
キィイイイイイインン
剣を抜き、掲げ、そして高らかに鼓舞する。
「皆の者!!構え!!!!」
ああ…王国の命運をかけた決死の作戦とか滾ってしまうではないか…。
「来るぞ!!!帝国の騎馬突撃が!!!!」
思わずニヤリと笑みがこぼれてしまう。予想通り、想像通りの一手。
「撃てぇえええええええええ!!!!」
同時に戦列から突出した場所に位置し、バリケードで完全防御した弓兵と術士が高所から突撃してくる敵の重装騎兵を落としていく。しかし当然ながら、大陸最強の騎馬突撃はその程度の出血では止まらない。弓兵と術士の圧力をその速度と迫力で躱しつつ、自陣奥深くに喰らい込んでいく。敵陣は横に薄く簡単に騎馬突撃で食い破れる…そう思った時、突然地面が消えた。
「落とし穴!?」
「ガハっ!」
そう帝国騎兵が気が付いた時には既に穴の底であった。あっちこっちで同胞の悲鳴やうめき声が聞こえてくる。そう騎馬突撃の弱点は突然には止まれないことである。落とし穴の中の槍で既に馬は死んでいる。そして先程躱した突出した弓兵どもと正面の本陣に三方を囲まれ、後ろからは友軍の突撃が来て轢きつぶされる。逃れようと穴から這い上がっても、すぐに矢と魔術に射抜かれる。そして次の友軍の突撃ももう止まれず、同じ運命を辿るのだろう。
「二射目構ええええええええええ!!!!」
はるか彼方で騎馬の上で身なりのいい老兵が叫んでるのが見えた。
「あいつが指揮官か…。」
穴から這い出る。幸い這い出た時は運よく敵の矢は当たらなかった。剣を構え、血でぬめった丘を駆けあがる。眼前の敵将を落とせれば勝ちである。竜王国軍はたちまち瓦解するだろう。
「進めぇえええ!!!怯むな!!!」
友骸を踏み、叫びそして敵の戦列を目指す。今こそ帝国騎馬隊の力を見せる時である。
「撃ってぇええええええええ!!!!」
「ハハハ…くそが。」
天を覆う矢を見て、怨恨と絶望を籠めて、最後にこぼす。
「ハアッハッハッ!!!!痛快痛快!!さすがはイリシア嬢だ!!」
まさに痛快。大陸最強の騎馬突撃を受けて、完全勝利。幾人かの帝国騎兵たちは馬を失い、武器を失い、肢体を失って、ようやく本陣にたどり着いたがそんな相手は相手にならない。まさかこの陣形がここまでの大勝を納めるとは思わなかった。しかし、これは時限のある勝利である。こちらにとっては大勝であっても相手にとってはただの小競り合いに過ぎないだろう。我々は圧倒的に兵力数で劣っているからだ。さらに敵方は帝国騎兵の第二第三波、そして後方にはさらに歩兵による物量がある。こちらが疲弊する一方であることも考えればいつまで凌げるかもわからない。そして何よりこの陣形の弱点は動けないこと。帝国軍も丘を取り囲み、半包囲の形を取ろうとするだろう。もし側面や背後を突かれたら簡単に瓦解しかねない。なるべく広く陣を引いたが、それでも陣の西側には平原が広がり回られる可能性がある。だからこそ、こちらの予備戦力として騎兵は後方に常に温存しなければならない。そして戦況を完全に覆すためにはもう一手必要である。それはイリシア殿のもう一つの作戦が成功するのを待つしかない。
もう一度剣を抜き、陣を西へ東へ馬を走らせ号令を掛け続ける。
「敵の第二波が来るぞ!!迎撃用意!!!!」
8
後方で地面が震えるのが聞こえる。どうやらフンダーン老達による陽動作戦が始まったらしい。自分も急がなければ。
「へっへっへっ…おいおいこりゃあどういうこった?どうしてこんなガキがこんなとこにいるんだ?」
「エロい恰好しやがってよ。しかも身なりが良いぞこいつ。どこの貴族の娘か知らんが、まったくイライラするぜ。」
はあ…まったくめんどくさいのに絡まれた。装備から見て竜王国兵らしいが……。なるほど脱走兵か。まさか敵軍よりも先に自軍に見つかるとは…。いや?脱走兵は敵軍扱いだったかな?まあいい。ちょうどいいし利用させてもらおう。
「あ、あの?兵隊さんですよね?(作り声)お父さんが瓦礫の下敷きになってしまって…(作り声)お父さんは北門から逃げろって…(涙演技)で、でも私……。ぐすんぐすん。(ナミダフキー)」
(ぷっ!!こいつ北門から出ようとして南に向かってるじゃねえかwこいつでっけえおっぱいに栄養取られすぎて実は相当のバカなんじゃねーのか?)
「きゃ!?(演技)」
突然男の一人に腕を掴まれる。
「ここはさぁ、あぶねえからよぉ。おじさんたちが守ってやるからさ…あっちの小屋の中でおじさんたちが満足するまで犯させろや。そしたら助けるのを考えてやらんでもねえからよぉ。」
「へっ?や、やめて!いやぁ!放して!(迫真の演技)」
「へっへっへっそりゃあいいぜ、兄貴もそう思うだろ?…兄貴?………兄貴?」
男の一人が振り返ると、知らぬ間に首の無い死体が転がっていた。兄貴と呼ばれていたその男だけは自分の顔を見た瞬間、私がだれなのかを気づいたらしかったので真っ先に殺した。しかし、我が国の歩兵は三人一組で互いを守り助け合うことで効率を上げる制度を取り入れているのに、味方が殺されても気が付かないとは由々しき事態だ。練度が足りていないんじゃないか?
「ひゃああああああ!!兄貴!?え?は??」
「なあ………お前?」
男の腕を掴み無理やりにこちらに恐怖に染まったその顔を向けさせる。
「ひっ!」
男の顎を掴み、瞳と瞳がくっ付きそうなほど顔を近づける。
「お前さぁ…。私の体、ジロジロと……んん、レロッ…!」
「ひっ!ひっ!ひっ!」
「この瞳で眺めてたよなぁ。なあ私の体をさぁ!ああ??ん……??ああ……そうか、厳密には私の体ではないのか………。まぁそんな事どうでもいいよな…。でもさぁ…。でもさぁ!!でもさ、でもさ、でもさぁああ!!!!分かるぜ?実際えっっっっっろいと思うよな???そうだよな???」
「がああああああああああ!!!」
「ああ??ああ、すまねえ。」
しまった。力加減を間違えて男の身体から腕を引き抜いてしまった。
「だがよ??簡単に壊れるこの腕の方も悪くねぇえか??ああん???」
「あああああああああああああ!!!!!!!」
ドチャッ!!!もう一人の男がロングソードで私の背後から頭を叩き斬ったらしい。口から上はグチャグチャだ。ドサッ!頭からドロっとした物と一緒に剣が地面落ちる。
「はあ…。はあ…。はあ……ッ!?」
「フヒッ。ヒヒヒヒヒヒ。」
「まったくイケないなぁ?男の子は元気なんだから。そんなに私を犯して堪らなかったのかい?」
背骨をへし折り、後ろに振り向き男に向き合う。一歩男は後ろにたじろぎ、私は逃すまいと一歩踏み込み、男の腕を掴む。男の腕を私の胸に押し当て、相手の胸ぐらを掴み引き寄せる。
「ねぇ?君さぁ?君はさぁ私のおっぱいが好きなのかい?」
彼の耳元で囁く。
「ねぇ。ねぇ!ねえ!ねぇってばさ!!!!!君さ、私の胸見てこう言ってたよね。『エロい恰好しやがってよ。しかも身なりが良いぞこいつ。どこの貴族の娘か知らんが、まったくイライラするぜ』ってさ!あれ?ふふふ…イライラしちゃうんだ?何がどうイライラするの??ねえ、君に教えてほしいな???へ?アレ???もしかして聞こえてないと思った??へへへ、そんな訳ないじゃん!!君の言葉、君の息遣い、君の舌なめずり、君の目線、君の興奮、そして君のここ。ここが期待に膨らんでた事も、貴方が興奮したこの髪で、この舌で!この肌で!この瞳で!!この耳で!!!そしてこの胸で君のこと感じてたんだよ!!!!」
「うっ!!があああああああ!!!!」
グシャっと鈍い音が響く。
「んんん??ああ、ごめんね。興奮して君の腕を握り潰してしまったよ。ごめんねぇ。この腕で、この胸をもみほぐしたかったでしょ?犯し尽くしたかったでしょ?味わいつくしたかったでしょ?それとも違ったかな?君が味わいたかったの違うものだったかな?この唇だったかな?この耳かな?この髪かな?このお腹かな?それとも こ こ だったかな?ひひ…でも違うよね。ああああ!!!分かってる!!分かってる、分かってる、分かってるってばさぁ!!やっぱり男の子が好きのは お っ ぱ い だよなぁ!!そうだよなあ!!ねぇ!ねぇ!ねぇ!君もそうなんだろ!!だってさ、さっき誰かが言ってたんだぜ?おっぱいには夢と……。ああん?なんだったか?夢と…夢と夢と夢と夢と夢と……希望だ!!なあ、おい!!そうなんだろ?おっぱいには夢と希望が詰まってるんだろ???そうだよなあ!!それを味わい尽くしたかったんだろ??そうだよなぁ、そうさあ、誰だってそうさ。私だってそうさ。でも残念!!今日は私が味わう側だ。いいか?いいよな??いいのか???いいに決まってる!!!だってこの滾りがそう言ってる!!! 」
「ひっ…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」
男の頭を両手でがっしり掴むと、動けなくする。
「いただきまーす」
私の頭上から口元まで空いた裂け目をさらに広げる。上半身が左右に分かれる。そして男の頭を挟むとそのままジャリ…ジャリ…っと食事を始める。
9
「ああクソ…気持ちが悪い…。」
正気に戻った自分は、自分で掛けた自分を閉じ込める結界を解除しつつ、辺りを見渡す。自分の足元に血だまりが出来ている。しかし死体や負傷してる人はあたりを見渡してもいない。
「喰ったのは三人か…。」
そう、私の本質は魔物だ。少なくとも私の身体は魔物である。私の人間としての肉体は遠の昔に失った。私は死産で生まれてきたらしい。だが、偶然か必然かは知らんが20年前の大厄災の残骸と私の魂が結びつき、ヴィオラの魔力を依代にこの世に再び生まれたのである。私の魔物としての身体は本来、この世に溢れる無形な怨嗟、絶望、渇き、堕落、嫉妬といった感情の具現であり、一つの決まった肉体を持つことはない。が、その中に混ざった私の魂という不純物がそれらを押さえつけ、管理し、統治しているのである。そして私の能力は魔物由来のものである。もちろん理性があっても多少は使えるが、より強力に能力を使うならば理性を一時的に飛ばさねばならない。そう、例えば魔物としての本能に従えば一瞬である。
「うん。予想通りだ。」
ここからおよそ30㎞先のカープール川と大河川の合流地点には水上要塞が建っているが、帝国軍はまだその要塞の攻略に手間取ってるようだ。私の魔物としての本能を使えば、人間が大量に居る場所は離れていても分かる。要塞はまだ落ちておらず、帝国軍はそれを落とそうと包囲しているようだ。ならばその中にはまだ友軍がまだ5000ほどは居るはずである。ここから要塞までの移動と、要塞を包囲してる帝国軍の包囲を解くのに30分ほどだろうか?もちろんその途中で私の足を止める邪魔が入らなければの話だが。
「それまでに落城しないでくれよ!」
地面を踏み込むと、要塞に向かって走る。途中で邪魔な家は触手で切り刻み、邪魔な帝国軍の哨戒騎兵は切り刻み、敵後衛を破壊する。これで沿岸沿いの敵軍はしばらく機能しないだろう。一回停止する。そして一度、時計台の上に跳び乗って見渡す。こうして見れば戦場を一望する事ができる。そしてようやく見つける。水上要塞と市街を見渡せる見晴らしのいいところに建っている家。そして異様に装備の良い兵士に囲まれている家。時計台から飛び降り、周囲を警戒している兵たちの首を同時に掻っ切りつつ近づく。そしてドアの前に立つと淑女らしく丁寧にノックする。
ドガッアアアアン!!!!ガラガラガッシャーーン!!!!
「なっ!?誰だ貴様!!貴様どこから現れた!!」
「おっと失礼、ドアをノックしたつもりだったのですが…」
しかし驚いた。包囲してる部隊の指揮官はもっと老練な将だと思ったのに、こんな若造だとは。明らかに尋常な人間ではないことに気づいた指揮官は困惑の表情を浮かべている。身体中から触手を生やして威嚇しただけでそんなに怯えるなんて。若い指揮官ならば前線で戦功をあげたいだろうに、こんな後方で敗残兵を抑え込むだけの地味な仕事をしてるとは…かわいそうに…。っと、思ったがよくよく見たらその男の膝の上にちっちゃい女の子が半裸で座っている。独特な服装だ。その服装からして大龍王国出身の女の子なのだろうか。まったくどいつもこいつも…。っと思っていると、その女の子は我に返ったのか服を正し、立ち上がる。
「貴様、この御方が誰か知っての狼藉か。」
「いやぁ知らないねえ。生憎、貴国のおかげで絶賛戦争中なもので。おい小娘、そこの変態を引き渡せば貴様の命だけは助けてやってもいいぞ。勝ってる相手かどうかくらいは分かるだろう?」
「私の命だけ…か……この方は皇太子リチャード・ヴァイヤフェルン様である。皇太子姫としてそれだけは受ける訳にはいきません。」
皇太子!?なるほどそこの変態お兄さんは皇太子だったのか。皇太子は殺すのは外交的にはどうなのだろうか?しかし殺すことは出来ても、今後の作戦を考えると私の能力では捕虜に出来ないからなぁ。殺すか…。いや、これほどまでの侵攻なら例え死んでも撤退することはないだろうな。むしろ殺すと、万が一王都まで敵が迫ったら、交渉の余地が無くなってしまう。そうなると、こちら側の王族の命が危なくなってしまう…。うーん……。
(殿下…周囲一帯には強力な結界が張ってあるようです。おそらく外の兵が気づくことも、救援が来ることも、脱出を試みることも出来ないでしょう。私があの女の相手をいたします。殿下は私のすぐ後ろに居てください。)
(しかしそれではそなたは…)
(安心してください。必ず殿下は私がお守りいたします。)
「こそこそ話かい?」
「ええ。殿下との内緒話を待っていただき感謝いたします。最後に貴殿の名を伺っても?」
小娘は剣を取ると、抜く。
「イリシア・イェルネルト」
「イェルネルト家とは…。なるほど英雄の娘と言ったところでしょうか。冥府で竜神様によろしく言っておきましょう。」
剣を独特な位置で構える。同時に、小娘は宙に浮くと、角と尻尾が生える。なるほど彼女は大龍王国の神官の一族だったのか。
「我が名はシユウ。シユウ・ヴァイヤフェルン。真龍の継承者にして、帝国の皇太子姫である!いざっ!」
そうシユウが叫ぶと同時に、剣が振り降ろされる。その斬撃は真龍の一族に伝わる妙技である。間合いを無視したその斬撃は、間合いを無視し相手の身体を真っ二つに斬裂く。そして同時に無数の光線を放つ。それはその肢体に無数の穴をあけ、原型を留めさせない。必中必殺の技である。
ベチャッ!!
正面の壁は吹き飛ばされ、両側面の壁に血か肉か分からない黒くてドロドロとした物が飛び跳ねる。
「シ…シユウ…勝ったのか?」
「いえ、殿下。奴は攻撃に当たるよりも先に自らバラバラになって逃げたようです。周囲に警戒を…」
グサッ!!
「ぐっ!」
突然地面から触手が生え、剣を持っていた右手を貫く。剣を飛ばされてしまった。さらに追撃するように幾本もの触手が身体を貫きそのまま天井に磔にされる。この触手は鉄よりも硬くまったくびくともしない。完全に致命傷である。
「ゲハッ」
内臓をやられ、口から吐血する。そして床から殿下の目の前にイリシア殿が生えてくる。ああ…クソ。意識が遠のいていく。抗おうとするが、触手で身体を固定されてるからか、全然動かない。ああ…殿下……。イリシア殿が殿下に手を伸ばしている。このままでは殿下が死んでしまう。それは嫌だ。この魂にかけて嫌だ。動け!奮い立て!!今動かなければいったい何のために私はここに居る。殿下殿下殿下殿下殿下、殿下、殿下、殿下!殿下!殿下!殿下!!!!!
「うううっ!!!ガッ!!!ガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
この触手は断つことは出来ない。不可能と言っていいだろう。しかし自分の肉と骨ならば可能だ。全身の骨肉を裂く。ドサッ!!致死量をはるかに越えた血だまりの中に落下する。しかしそんなことは些細な問題だ。剣は…遠くに転がっている。もう取れない。しかしそんなこと些細な問題だ。魔術を使う余力はもうない。しかしそんなこと些細な問題だ。ただ目の前のイリシア殿を殺すだけ。ただそれだけのことである。
「う、ううううあああああああああああ!!!!!!」
絶叫しながら、イリシア殿の胸ぐらに飛び掛かる。が、それは永遠に届くことはなかった。四方から現れた無数の触手が私の身体をもう一度貫き、完全に地面に抑え付けられる。そう、まるで昆虫標本のように。そういえば殿下は虫嫌いだったな…。幼い頃…よく………から…かったっけ…。
「でん……か…」
「イリシア殿!もういいでしょう!!もうこれ以上は…」
殿下…いけません……。お逃げに………。
イリシア殿が一歩、また一歩と進むと殿下の後ろに移動して、殿下の首に手刀を振り下ろす。殿下は気を失ってそのまま倒れ込んでしまう。
わぁああ…わぁああああ…殿下をお救いしろ!!
「殿下!ご無事ですか、殿下!」
「ひっ!なんだこれ…いったいどうなって……。」
「殿下…気を失っておられるが、ご無事だ!」
「救護隊を呼べ!!なにしてる!!今すぐだ!!!!!」
「でもこれ皇太子姫殿下はもう…」
10
要塞はさながら地獄の様相を呈していた。魔術と爆発の雨で、砲弾と肉片が降って来る。要塞に近づく無数の戦船は次から次へと落とされていく。しかし、要塞の壁の上の方に目を見遣ると一方的ではないらしい。穴だらけで半壊しかかった壁の上では、絶望に顔が染まった砲士や術士、ひいては指揮をしている人間までもが顔を出しては、狙撃されている。しかし顔を出して撃たねば、要塞が落ちる。そうすれば、皆まとめて死んでしまう。そうして一人一人と顔を出しては、一人また一人と撃ち抜かれていく。
「とはいえ、敵の指揮系統が麻痺しているこの瞬間ならば作戦も不可能でもあるまい。」
本当ならば殺しておきたかったが仕方がない。敵がこの混乱から復帰するまで20分と言ったところであろうか?船から船へ跳んでいき、要塞の外壁上に飛び乗る。
「わっ!なんだこいつ!!」
気が付いた兵士の一人が剣を抜き、斬りかかって来る。なるほど勘も鋭ければ、剣筋もいい。王国の中でもかなりの精鋭なのだろう。振り下ろされた剣を人差し指と中指で抑える。
「くっ…くそ!!」
騒ぎを聞いて、他の兵たちも集まって来る。
「まぁ、落ち着いてください。」
全員を触手で武装解除させ、拘束する。もちろん先程のように身体を貫いての拘束ではない。ただ触手を肢体に絡みつかせ、動きを封じているだけである。もちろん友軍を攻撃することはご法度であるからだ。最悪、私の首が飛びかねない。まあもちろん、首を刎ねた程度では私は死ぬことはないが。
「私はイリシア・イェルネルト。ルカ・イェルネルトの娘です。あなた達を救出しに来ました。ここの現在の指揮官に合わせてください。」
「私がこの要塞をイェルネルト卿から預かっているボードワーンである。」
甲冑に身を包んだ隻腕の男が奥からやって来る。
「これはお久しぶりです。ボードワーン将軍。ご無事…ではなさそうですね。」
無い右腕を眺めつつ、将軍は答える。
「フンッ、奴らに見事にしてやられてな。どこかに落としてしまったわ。これが終われば引退だな…。それで、イリシア殿はどういったご用向きだろうか?」
「この要塞内の兵力はどのくらいでしょうか?」
「死者含めた戦闘不能2800、戦闘可能2500だ。うち術士は300、騎士は500だ。」
「馬はどのくらいまだ生きてますか?」
「高級将校の馬と戦車50台分あわせて110頭くらいだな。まさかこの中で要塞の外に出るというのか?」
「そのまさかです。ここに来る途中で沿岸沿いの敵の殲滅と敵指揮系統を麻痺させてきました。今撃って出れば、敵にまともな連携を取れません。そうすればエンドポートの本軍と合流出来ます。」
「ふむ…いいだろう。しかし大量の負傷者を抱えての移動になる。作戦が必要になるな。」
「ええ。まず隊を二つに分けます。一つは騎馬がよかったですが無いものは仕方がありません、各戦車に術士二人、騎士一人、御者の4人を乗せ、計200人は敵本陣を縦断します。」
「それはさすがに無茶が過ぎるのではないのか、イリシア殿?」
「いえ、将軍。私なら敵本陣を縦断することは可能であります。しかしそれは布に針を通しただけのようなもの。布を裂くには穴を広げるものが必要です。」
「なるほど、つまり戦車隊は貴殿の開けた穴通るだけというか。」
「ええ。そしてそれを陽動として、残りの兵は私が一度殲滅したカープール川沿いを北上してエンドポートを目指して下さい。迂回して都市の西側に展開している本隊と合流してください。」
「フム…なかなかにリスクのある作戦だな。」
「確かに危険な作戦です。しかしエンドポートの本隊は敵に一撃を与えたらそのまま黒門まで撤退する予定です。ですが今リスクを取って動かなければただここで意味もなく死んでいくだけになります。」
「うむっ、了解した。いいだろう。総員!!出撃用意!!」
門の前に立つ。隣にはボードワーン将軍がおり、後ろにはこの要塞の中の精鋭が戦車に乗り突撃の合図を待っている。
「イリシア殿。馬上から失礼する。本当に貴殿は徒歩でいいのか?」
「ええ、馬は遅いですし、乗っていると戦いづらいですから。」
「はっはは。さすが卿の娘なだけはあるな。…なぁイリシア殿。」
「何でしょう、将軍?」
「貴殿に最大限の感謝を。貴殿は単身で我々の前に現れ、敵の包囲を破る道を示してくれた。たとえ死ぬ運命だったとしてもそれに意味を与えてくれた。この場にいるすべての将兵の運命を変えたのだ。」
「そうですか。ならばその感謝は生きて本隊と合流してから聞きましょう。」
おそらく敵陣に突撃する戦車隊は全滅するだろう。彼らが生き延びたのならともかく、そうでないなら私が殺したようなものだ。なら感謝は今ではない。
「はっはは。イリシア殿は意外と若いですな。いや、実際若いのであったな。」
「?」
「いいですか、ヴィオラ殿。思いは言葉にして相手に伝えるべきです。伝えられる機会は二度と得られないものかもしれない。だからその場、その場の機会を大切にするべきです。」
「そういうものですか…」
「ええ、少なくとも私はそう思います。」
門番の兵が大斧で地面に刺さった巨大な歯車を固定する縄を断ち切る。そして10人がかりでその巨大な歯車を回す。巨大な扉はゆっくりと落ちていく。そして扉が完全に落ちるとそれは対岸に繋がる巨大な橋になっていた。門が開いた。そう敵も味方も認識すると、門の入り口に向かって大量の魔術と砲弾が放たれる。
「黒き閃光よ!」
門から出るとともに、同時に数百の白黒い光線を放ち、こちらを狙うあらゆる魔術や砲弾を叩き落とす。
「今この場こそ我らが最後の舞台。皆の者、イリシア殿に後れを取るでないぞ!!!
突撃いいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一斉に飛び出す。しかし橋の上は遮蔽が無い。さすがの私でもすべての攻撃を落とし、全員を守り切ることは至難である。撃ち漏らしで橋を渡るまでに相当数の戦車が落とされるであろう。そう思ってたが…。
「2時方向、11時方向、爆裂魔術来るぞ!術士!結界用意!!」
「あいよ、任せな。」
「正面少し右の時計塔上に敵狙撃手視認。ジョン!奴に今までの感謝を込めてプレゼントを贈ってやれ!!」
「おうよ!貫かれろ、この野郎!!」
どうやら、彼らの連携を舐めてたらしい。難関の一つだと思っていた橋の踏破を一台の脱落もなく渡ったらしい。
「驚かれてる様子ですな、イリシア殿。彼らは竜王国の国防の要のエンドポートの水上要塞の中の選りすぐりの最精鋭ですぞ。私が手塩にかけて育てた彼らはきっとあの近衛奇兵隊にも引けを取りますまい。」
「申し訳ない。」
「何を謝ることがあるのですか、我らは皆一度、貴方に救われている。どうぞこの死兵らを存分に使い潰してください。」
そう彼らは優秀だ。個々の強さはそこまでだが、それを補い余りある絆と連携力がある。だからこそ、そんな優秀な部隊を僅か200人で敵本体に穴をあける要員にするのはもったいないのだ。私の庇護があっても、強い絆と連携があってもそのほとんどは生存しないだろう。きっとこの場に居たのが私ではなく、お父様だったならきっとこんな事にはならなかったのだろう。きっと自分の無能が彼らを死へと追いやっているのだろう。
橋を渡ると、市街に出る。市街の入り組んだ道を戦車で走っていれば、戦車の強みである速度による突破力が出せない。そうすれば戦車はむしろ敵にとっての恰好の的になってしまう。ならば、帝国軍から戦車を守りつつ、戦車の最高速度よりも早い速度で家も建物も敵の防御陣地も破壊し尽せばいい。戦車ならその空いた路を容易に走り抜けることが出来る。一見不可能な妙技に見えるが、種は簡単である。最高速度で走りつつ、連射性が高く、広範囲で火力の高い魔術を正面に向かって撃ち続ければいいだけのことである。建物を潰し、道を潰し、街を潰し、そして敵を潰し続ける。
「うっ……うぐっ…はぁ…はぁ…。」
さすがにしんどい。疲れた…。と、横からボードワーン将軍が並走してきて、腕を掴まれる。そしてひょいっと持ち上げられると、将軍の馬に乗せられる。
「へっ?しょ…将軍?」
「無事、要塞を脱出し、戦車が不利な市街も抜け、郊外の平原に出ました。これで我々もイリシア殿の役に立てるようになりましたな。イリシア殿がおっしゃるように敵がエンドポートの目の前まで来ているのならこちらとあちらの敵同士の間に隙間があります。大魔術を何度も連発された直後、お疲れでしょう。接敵するまで私の馬でしばしお休みください。」
「ハハ…助かります、将軍。でしたら少し胸をお借りします。」
将軍にもたれ掛かる。はぁ…魔力も体力も気力も使いすぎた。正直限界に近かったから助かる。目を閉じれば今にも気絶しそうである。魔力も早くヴィオラと再会して補給したい。
「そういえば、ボードワーン殿。」
「何でしょう。」
「以前…6年ほど前でしたかな、アイリ姐さんの騎士叙勲の際に王都で会いましたね。」
「おや、覚えていてくださっているとは驚きだ。当時はまだ西方戦線のごたごたのせいで数合わせで、繰り上げの末将として隅に座っていただけの若造だったはずですが。」
「ははは…もちろんですよ。王宮内で迷子になって泣いていたヴィオラを案内してくださった上に彼女にお菓子まで分けてくださったじゃないですか。当時の貴方は名乗らずどっか行ってしまいましたけど。」
「そんなこともありましたかな。当時まだ小さい娘がいましてな、きっと親心だったのでしょうな。」
「ふふふ…その娘さんは今は?」
「今年から王都の魔術学院で学生をやっていますよ。なんでも主席での入学でして。」
「ほう…それはすごい。それはさぞ、将来は引く手数多でしょうね。」
「いやいや、娘が優秀すぎるのも考えものですよ。きっとこの腕も娘が見たら失望されるのでしょうね。武人失格だってね。」
「そんなことないですよ。その腕は武人の誉。味方と要塞を守った証ですよ。きっと娘さんもそう考えてくださいますよ。」
「ふふ…改めて感謝を、イリシア殿。」
「ええ。」
草原の向こう側にようやく大軍が見える。あれが帝国軍の本軍なのだろう。
「さて、そろそろ仕事の時間だ、イリシア殿。」
馬から飛び、転がり降りると、走りだす。
後方から戦車隊の一隊が見えてくる。
「ん?あれはどこの隊だ?」
しかし戦車の部隊とは聞いたことがない。新設されたのだろうか?騎馬の国である我々帝国に馬に乗れない奴らの部隊の必要性は分からないが、これも時代の変化ってやつなのだろうか?騎馬に比べ、遅く愚鈍で、小回りの利かない。ちょっと悪路になると役に立たない。やはり、帝国市民としては馬に直接乗ってこそであろう。
「お、おい!あの隊!!赤の旗!!竜王国軍だ!!!」
ああ、なるほど竜王国軍のものか。なるほどならば納得だ。
「って、お前らどこから来たぁあああああああ!!!!!!」
「へっ!?女の子?」
気が付くと目の前に女の子が立っている。が、よく見るとその女の子は居なかった。見間違いか何かだろう。いやそんなはずはない。そう思った瞬間、隊の皆が次々と落馬していく。そして自分も落馬して…。
すれ違う。殺す。すれ違う。殺す。すれ違う。殺す。またすれ違う。また殺す。
その繰り返し。せめて苦しまぬように、その人が認識するよりも早く頭を潰す。広い戦場に、自分ひとり分の小さな穴をあける。そして後ろの戦車が、その小さな穴を大きな裂傷に変えてくれる。敵の剣によってこの腕は23回落とされた、この足は16回斬られた、この頭は69回貫かれた、そしてこの心臓は82回貫かれた。しかしそれ以上の敵を殺した。
「ハハ…これは冥府で竜神様には会えそうに無いな…」
「ぐおっ!」
「将軍!!」
振り返るとボードワーン殿の横腹に槍が刺さっていた。
「はっ!この程度でこのボードワーンを討ち取れると思ったか!!片腹痛いわ!!」
その後ろに続いてる戦車は10台にも満たなかった。他はもう討ち取られたのだろう。しかし、まもなく前線に出られる。そして前線にさえ出れば、フンダーン老が防御を解き、搔き乱された敵陣に全軍で突撃をする算段である。そこまで行けば本隊と合流出来る。
「道はイリシア殿が切り開いてくれる!!進めぇええ!!!勢いを殺すなぁ………。ぐあっ!!」
「……………。」
その声を最後に背後の声が途切れる。何が起きたのかは想像に容易い。しかし振り返ってはならない。立ち止まってはならない。戻ってはならない。そしてようやく見えた。老の率いる竜王国本隊が。どうやら、高所からは一足先に我々のことが見えていたらしい。既に本隊は敵前線丘を駆け降りていた。ようやくこの戦いが終わる。
11
作戦は想像以上の効果を生み出していた。敵陣を背後から貫いた一本の矢は、全体に困惑と恐怖が伝播していく。帝国軍の数的有利は、むしろ伝播する噂と恐怖の温床となっていた。そしていくら攻めても落ちない、敵本陣。正面の敵は何かを待っている。そう、皆が思い始める。そして突然にその防御の利を捨てて丘から攻めてくる敵。両軍がぶつかった瞬間に前線が崩壊するにはあまりある条件だった。
「ハァ!ハッハッ!!突撃せよ!蹂躙せよ!」
「フンダーン老!!」
「おお!!イリシア殿!よくぞここまで来られた!!他の者はどうした?ボードワーン殿は?」
「ボードワーン将軍以下、私に従軍した200人は全員討ち死にしました。要塞の歩兵と負傷者は別ルートでエンドポートへ向かっています。」
「そうか…」
「もう十分、敵に一撃を与えました。今すぐにでも撤退しましょう。」
「うむっ!撤退の角笛を鳴らせ。黒門まで撤退じゃ!!!」
ぶおおおおおおおおおおおんんんん!!!!!!!!
戦場に角笛の低い音が響き渡る。
「撤退だ!!引け!!引け!!」
波のように押し寄せた竜王国軍は、これまた波のように引いていく。しかし敵前線にはその背中を追う余力は残されて居なかった。潰走する前線が後ろに引いた為、中央の騎馬隊が思うように前に出て状況の修繕に当たれていない。あとはもとの防御陣地で集合し、戦列が整い次第に撤退すればいいだけである。もう敵は追撃は出来ない。そう思い、竜王国軍はもと来た道を戻ろうと丘を登ろうしたとき、丘の上、一瞬留守にした防御陣地から魔術を放たれる。そして次から次へと、友軍が貫かれ斃れていく。帝国軍はいったいどうやって…。いや、そんなこと今更どうでもいい。このままでは自分たちの築いた防御陣地によって、撤退できずに敵の二の舞になってしまう。いや、崩れた帝国軍の前線を無理やりに押しのけて、帝国軍中央の騎馬隊が何とか前へ出ようとしている。このままでは前と後ろに押し潰されてしまう。
「なぜだ!早すぎる!!」
帝国軍が背後を取る方法は一つしかない。しかしそれは、カープール川を挟んで東側を大きく回り込んっだ上で、防御に有利な隘路で一万の後詰を撃破し、エンドポートの本城を落としてようやく背後を取れる。仮に一万の後詰を接敵した瞬間に即刻壊滅させたとしてもあまりに早い。
「ハッ…ハハハ…」
乾いた笑いが溢れる。作戦に頼り、相手を見誤った。その結果がこれだったのだろうか。無数の味方を殺し、無数の敵を殺した結果がこれなのか。なにかを為すでもなく、誰かを救うことも出来ないのか。私はただの殺人者なのか。
「ふっ…それに賤も尊もないだろ。」
あーくそ。本来の目的を思い出せ。考えろ!なんのために自分はここに居る。作戦はなんだった?敵の追撃能力を砕き、主力を撤退させることだ。考えろ。このままでは包囲殲滅されかねない。
「イリシア殿…!」
「フンダーン老!いえ将軍、この場は私にお任せください。将軍は騎兵を率いて、北西に引いてください。」
それは、殿としてこの場に残る歩兵を見殺しにするということである。これが私に出せる唯一の結論であった。この状況になってもなおまだ全滅を避ける唯一の方法。大多数の歩兵を囮にすれば、予備戦力として体力を温存させてた騎兵の機動力でなら敵の包囲が完成するまでに撤退ができるはずである。
「………。兵は神速を尊ぶか。ははっ…。あい、分かった!この場は任せるぞ!!」
老はその老体に似合わぬ大槍を天に掲げる。
「騎兵隊、我に続け!!」
将軍は未だ接合しきらぬ、敵陣の僅かな穴を目指し、北西へと駆け抜ける。
「第一、第二歩兵隊、戦列を組め!敵の騎馬隊の突撃を死んでも止めろ!!術士と第三、第四歩兵隊は私に続け!!丘の上を奪取するぞ!!」
大陸最強の帝国騎馬隊の突撃でも突破できなかった防御陣地を歩兵だけの集団で突破などできるはずはない。敵はかなりの少数に見える。私なら奪取は出来るかもしれない。だが、たとえ私が一人で敵陣地に穴をあけたとしても、生還して丘の上いるのは今の1割にも満たないのだろう。その程度の兵力それも大量の負傷者を抱えて如何様に敵の追撃から逃れるというのか。無理だ。しかしやるしかない。
一歩、また一歩と進み、丘の頂上を目指す。再び無数の魔術が放たれる。一人また一人と地に伏していく。敵の亡骸を踏み、友軍の亡骸を踏み、また一歩進もうとしたとき…。
ズギャアアアアンンン!!
飛来した魔術が私の身体を貫く。右半身が吹き飛ぶ。
「ひっ!イリシア殿!!」
後ろの兵が絶望に満ちた顔で私に空いた大穴を見ている。しかし問題ない。この程度、私にとって大したダメージには…。
「ん?再生できない…。」
予想外の一手に自らの身体を支えることが出来ない。
「ハハハ…くそが。」
生気の抜けた瞳で天を仰ぎ見て、こぼす。そして、二の矢が私の頭を消し飛ばし、身体は血と肉に塗れた丘を滑り落ちていく。
12
目を醒ます。再生した身体を起こす。どうやら私はあのまま丘を滑り落ち、気を失ってたらしい。すっかり日も落ち、豪雨が降ってる。むせ返るような死臭が雨の中でも溢れかえっている。あちこちで魔物と獣が物色しているようだ。東、エンドポートの方を見ると豪雨なのにも関わらずあちこちで火柱があがって明るくなっている。
「はぁ…結局全滅したのか…。」
老はどうなったのだろうか?無事に黒門まで撤退できただろうか?しかし、私を最後に貫いたあの魔術が気になる。私の肉体は見せかけである。たとえ魔術でも斬撃でも、ただの攻撃では私にダメージを与えることは出来ない。私に有効なのは、私の知る限り、神術、聖術、精霊術と精神魔術、拘束魔術の五つだけである。あれは精神魔術、拘束魔術ではないので、あの場には神術、聖術、精霊術のいずれかの使い手だったらしい。どのみちまともな相手ではないだろう。
「考えても仕方ないか。」
とりあえず、黒門に行こう。そこで皆と合流して次の策を…。
「なるほど、そういうことか。」
前に足を出そうとした。しかし足は動かなかった。いや足だけではない、身体全体が動かなかった。拘束魔術が掛けられている。それも高度な物が幾重にも。かなり腕の立つ人物が最低でも複数人は居るはずである。拘束魔術をはじめとする精神魔術は相手を視認して無ければ発動することは出来ない。が、暗闇にうまく紛れてるのかこちらからはその術士は視認できない。気配も雨で探れない。ならばと魔術探知で探してみる。しかし魔術探知にはひっかからない。
「まあ…これに引っかからないのは、逆に当然か。」
が、あれほど気配を消していたのに、一人突然動いて目の前に現れる。そして私の目の前に立った女。気配からしてただものではないその女を、私は見覚えがあった。以前王宮で見た、白く、黒い髪のその騎士。それは竜王国騎士序列第二位、あるいはこの国の司祭の長、あるいは近衛奇兵隊隊長…!
「イエスタ・ドラゴニア!!」
「おや、お嬢さんは私のことを知っているようだね。ならば自己紹介は不要か。お嬢さんは察するにイェルネルト卿のご息女だね。」
イエスタがここに立っているということは、私を取り囲んでいる兵は国王の私兵にして、竜王国、いや世界最強の特殊部隊、近衛奇兵隊なのだろう。奇兵とは、騎士の国である竜王国の中でも、最精鋭の騎士のことである。その実力は戦場においては、文字通りの一騎当千である。そして運用次第では戦場の戦況を変えかねない最強の駒。だからこそ奇兵。そしてその奇兵のみで構成された国王の直轄部隊、それが近衛奇兵隊である。護衛、暗殺、狩り、戦争なんでもござれの何でも屋である。そしておそらく…いや間違いなく帝国軍を誘因っした内通者であり、後詰である左翼一万を壊滅させ、丘の上を占拠し、背後を襲ったのはこいつらだろう。
「それで?誰が共犯者だ?何が目的でこの国を貶めた?」
「んん?彼らは私の忠実な部下だよ?」
「違う、近衛奇兵隊は国王の直轄部隊。それを動かすことは隊長である貴様でもできない。出来るのはこの国の王だけだろ。分かった…質問を変えよう。王族の誰が、王都でクーデターを起こし、先王を殺し、不遜にも玉座に座り、帝国に国を売った?」
「はっ…どうやらお嬢さんにはハッタリは効かないらしい。それにこうも喉元に切先を向けられてはままならないしね。」
どうやら、周囲一帯を爆破して逃走しようとしてたのはバレているらしい。
「でもその質問はあまり意味がないのでは?どうせお嬢さんはその答えを知ってるんでしょ。というかお嬢さんじゃなくても、その質問の答えは分かるよ。」
「第三王子パルス・ドラゴニア。」
「そう、私の愛しの君。私の夫となるお方。私が真に絶対なる忠誠を誓い、そして今はこの国の新たな国王となられたお方よ。そして、お嬢さんが知りたいのは、誰が?というよりも、むしろ目的は?手段は?ってことを聞きたいのよね?でもそれはまだ言えないわ。でもそうね。事が終わって、冥府の底で再会したら種を明かしてあげるわ。」
そう言い終えると同時にイエスタはいつの間にか手に持ってた剣を構えると、瞬歩で間合いを詰めてくる。同時に周囲一帯に仕掛けてた爆破魔術を起動させる。イエスタは剣で爆発を薙ぎ払うとそのまま私の腕に斬りかかる。この程度の爆発では一兵も落ちないだろう。しかし視界は遮れる。つまりようやく私を縛ってた拘束魔術が解かれる。泥化して剣を躱しつつ、後ろに跳躍してイエスタの間合いから逃れる。…っと思ったが、イエスタは沈み込むと、そのまま地面を深く踏み込み、跳ぶ。そして再び間合いに入り、そして斬りかかる。咄嗟に腕を硬化させて防御する。が、硬化してもなお、剣は火花を上げて腕に深く抉り込む。
「ッ!!」
「へぇ~、お嬢さん硬いねぇ~。何かそういう特殊な能力でも持ってるのかな?」
イエスタは剣越しであるにも関わらず、その怪力で鍔迫り合いで負けそうになる。
「ぐっ!」
まずいな…。このままだと再拘束されかねない。腕を泥化させてイエスタの剣にむしろ腕を押し込み、腕を切り離す。と同時にそのままイエスタ後ろに跳躍する。今度はイエスタの動きに勢いがないので追っては来れない。そして…
「見えた。」
左右に騎士が5人、術士が3人ずつ、そしてその周りをさらに包囲するようにおよそ2、30人ほど……。なるほどまるで狩りのような陣形だ。高所から見下ろせば、いかに潜伏していようが陣形がわかる。奇兵で私を囲んで逃げれないようにして、状況に応じて援護しつつ主力の隊長が私を仕留める陣形だ。
「うん?少ないな…。まぁいいか。」
辺りを見渡すと内外からの侵略、脱出を防ぐ結界が張ってある。どのみちその結界を張っている術士を倒さなければいけない。結界を掛けてるであろう術士は何人か見える。
「お嬢さんは私の相手はしてくれないのかな?」
イエスタは着地した私との距離を詰めつつ、手に雷槍を持っている。
「お嬢さんはさっきコレにやられたよね。これが弱点なのかな?」
おそらくあれが先程、私を貫いたモノだろう。おそらく聖術か、精霊術のなにかであろう。切り離された右腕を呼び戻し、腕にくっつける。同時に近づくイエスタを妨害するように地面から触手を三本出す。即座に三本とも斬られるが、彼女の足は一瞬止まった。詰まった距離を再び、後方に跳んで伸ばす。そして常人の間合いのはるか向こうから、腕を泥化させ伸ばす。が、イエスタにでは無い。目的は取り巻きを破壊する事である。 先程の術士の胸ぐらを掴むと、私のもとに引っ張り寄せる。
「ふむ…援護はしないのか。」
もし、一人が引っ張られたからと言って、援護して隊列を崩せば必ず混戦になる。そうすれば主力であるイエスタが思うように動けなくなる。そうなれば犠牲は一人だけでは済まなくなる。もちろんこの術士を次々に落として結界を解除されれば、逃げられる。それに反射で味方は助けたくなるものだ。だがそうしなかったのは相手の力量を分かっているからだ。
「なるほどよく訓練されている。」
術士は引っ張られながら腰から短剣を抜いて、私の腕を断ち切る。そして体勢を立て直すとこちらに剣を向ける。
「おい、ジェファリー!前に出すぎだ!」
イエスタは術士を援護するように背後から先程の雷槍を4、5本飛ばしてくる。即座に地面から触手を生やし、私自身に当たる前に触手に相殺させる。
先程の術士が短剣を構えて、間合いを詰めてくる。術士が騎士の真似事とは…。っと思い触手を彼の前方、下方、後方の三方から飛ばす。が、予想とは裏腹に見事にいなされる。前方へと術士が跳ぶと、半身を回し剣を背後に回し、まず後方の触手を切断する。そして、そのまま下方の触手を左手で掴み、頭を魔術で爆発させる。そして正面の触手の頭を斬り落とす。
「へぇ~」
次いでもっと多くの触手を術士に向かって飛ばす。が、これはイエスタが横から飛んで入り、皆斬り落としてしまった。なるほど予想以上だ。などと思っていると、術士に近距離から巨大な氷塊を飛ばされる。地面と氷塊に潰され、血と黒い泥が飛び散る。
「見事だ、ジェファリー。」
「いえ、隊長の援護のおかげであります。」
「ぐはっ…」
氷越しにイエスタが両手を天に広げ大量の雷槍を天に浮かべてるのが見える。あんなものをまともに喰らったらさすがに無事では済まない。
「さよならお嬢さん。」
ドドドドドドドドド
イエスタが剣を振り下ろすと同時にその大量の雷槍が氷に振り落とされる。それは氷を砕き、地面を抉 ってもなお続く。轟音が響き続ける。そしてしばらくして、ようやく鳴りやむ。
「いや~おそろしいおそろしい。」
「っ!!」
イエスタが驚きで振り返る。
「こんなの当たったら一溜りも無かっただろうね。」
確実に殺したと思った相手が無傷で歩いてたら驚きもする。
「なるほど良い剣術、良い術。良い連携に、良い部下だ。」
即座にイエスタは剣を構え直す。しかし彼女とわざわざまともに正面からぶつかるつもりはない。右腕をイエスタの方へと飛ばす。反射的に腕を斬り飛ばす。斬られた腕はそのまま泥化してイエスタの視界を奪う。そしてその瞬間、先ほどの術士との距離を詰める。術士は短剣で受けようとするが、剣を左腕深くに斬りこませ、抜けなくさせる。剣はもう使えないっと判断したのか、剣を放して距離を取ろうとする。が、もう遅い。肘より先が無い、右腕を細く尖らせると、術士の腹部に突き刺す。
「グッ…グハ…!!」
「貴様…!!」
イエスタが一瞬遅れて詰めてくる。早い。しかしそれは今までと違って防御を捨てた詰め。
「へぇ~。らしくない…。」
右肩から触手を伸ばす。私は魔物なので相手が人間なら、見えずとも直感で相手の動きがわかる。もちろんこれは奇襲に使える。そしてそれはイエスタの腹部を貫く。イエスタは触手を剣で斬り逃れようとするが、そしてさらに無数の触手でイエスタの身体を空中で固定させ一切身体を動かせなくする。
「ぐっ…。」
術士の腹から腕を引き抜き、再生させる。そして振り返る。
「ねぇ…イエスタさん。貴方、この部下たちのことが好きでしょ。それも家族同然に。それはなぜ?この近衛奇兵隊というのは貴方にとって何?」
「愚問だね。優秀な部下が黙って殺されるのを良しとする上官なんていない、それだけだよ。」
「ふーん…まあいいや。あ、もう一つ気になることがあるんだった。」
「なんだい?」
「何で奇兵隊全員で潰しに掛からなかった?見たところ4、50人くらいしかいないが…近衛奇兵隊は100人隊だったはず。100人も居れば狩りの陣形を取らずとも、物量で私を殺せたんじゃない?」
「半分は死んだのさ。君の父上によってね。まったく親子共々手を焼かされるよ。」
「なるほど…そうでしたか…。」
つまり近衛奇兵隊がここに居るということはお父様は既に亡くられているのだろうか?ははは…まさかな…。しかし、よくよく考えてみると、今、私が死力を尽くして戦う必要はなくないだろうか?つまりは王都は既に陥落していている。ならば黒門での防御戦略はもはや機能しない。戦略そのものが破綻しているのであれば、それはもはや戦争の呈を為していない。うーむ…。
気づけば奇兵たちが私を取り囲んでいる。数本の大剣の切先が私の喉元に向けられてる。
「ねぇ…イエスタさん。なぜあなたは私を殺そうと思ったの?」
地面から地面を生やし、私に剣を向けてる奇兵だけでなく、この場に居る全員の喉元に先端を鋭利に尖らせた触手を迫らせる。
「それは、もちろんお嬢さんが危険分子だと判断したからよ。本来、近衛奇兵隊は大河川沿いの哨戒塔を無力化して帝国軍を誘因するだけの作戦だった。帝国軍は予想通りの動きだった。作戦通りに上陸して、作戦通りに攻めた。しかし竜王国軍は予想に反して崩れなかった。硬い防御陣地を築き、よく守り、貴方が後方から兵を繰り出して戦列を崩し、完璧なタイミングで帝国軍の戦列を崩した。結果として我々は表舞台に引きずり出された。その渦の中心に居たのは、お嬢さんだった。だからお嬢さんを危険因子と判断して殺害する予定だったのよ。」
「なるほど…それで?どうするつもりです?まだ死力を尽くして私を殺します?私を殺せないとは言いませんが、その場合は近衛奇兵隊は二度と機能しなくなるほどの損害を受けるでしょうけど。手勢の主力を失ってまで殺したいわけではないでしょう?」
「ふっ…ふふふ…あーははは。面白い。あー面白い。」
どんな術か、拘束してた触手を見えない刃で切断すると、ゆっくりと地面に降り立つ。
「ここまで近衛奇兵隊をコケにしたのは、間違いなくお嬢さんが初めてだろうね。そうだね。それは確かに私にとって面白くないね。私もさすがにこれ以上、部下を失うと今後の作戦に影響が出るからね。うん。分かった。この場は撤収しよう。」
イエスタは剣を腰の鞘に納める。
「聞こえたね!結界を解きな!撤収するよ。」
「我々が不甲斐なくて申し訳ありません…」
「気にするな…相手が悪かっただけだ。おい!そこでうずくまっているジェファリーを介抱してやれ。」
「ですが…彼は……。」
「さっさとやらんか。イリシア殿は内臓を避けてくれてる。見て分かるだろ。見かけは激しいが、気絶してるだけだ。」
「は、はい!!」
「そういえば、お嬢さん?」
が、イエスタが辺りを見渡してもイリシアの姿はもう見えない。まあいい。
「行ってしまわれましたか。ですが、直観があります。貴方とは必ず、再び相まみえるでしょうね。それは敵としてか、味方としてかはまだ分からない。でも今回で貴方の実力を見ました。私は、貴方ほどの人物が死ぬことを許容しない。もちろん私自身も、私の部下たちも死ぬことを許容しない。これからの時代、この国に訪れる大渦にはあなた達が必要になるわ。」
13
半日前、エンドポート北門付近にて…
「押さないでくださーい!一人ずつ、進んでくださーい!!」
やっと見えた。ここがこの都市の北門である。北に逃れようと皆、北門に集まって詰まってしまってる。
「あんた邪魔だよ!!」
「うるせぇババア!おい!そこの馬車!!邪魔だよ!!」
「どけどけ!!これは俺の人生なんだよ!!この馬車には俺の人生のすべてが乗ってるんだ!!置いていってたまるか!!」
「うっせぇ!!ただの骨とう品だろうが!!置いていけ!!!」
「きゃあ!!押さないで!!」
市民がパニックになってる。が、自分にこの状況を何とかしようと思っても、そのようなカリスマも能力も自分にはない。心をギュっと押し殺す。
「衛兵さん衛兵さん」
「はい、お嬢さんも列に並んでね~。ここはもうすぐ戦場になって危ないからね~。」
「いえ、そうではなくて…。ちょっと馬を借りたくて…。」
「馬…?無理無理。今はどこも、馬も人も不足してるんだから。はい!そこのおばあちゃん!!走るとコケるぜ!!」
「どうしてもお願いできませんか?」
「うーん…無いもんは無い………って嬢ちゃん!あんた領主様のところの嬢ちゃんじゃねーか。」
「あ、知ってましたか。」
「知ってるとも知ってるとも。というかこの街であんたをしらねー奴の方がすくねーぜ。ウチのガキが迷子になった時、案内してくれたじゃねーか。お菓子まで買って貰っちまったしよ。この前だって隣に住んでるポン婆ちゃんの荷物持ってたじゃねーか。なんだ言ってくれればよかったのに。」
「ここに来るのが急で、私の身分を示すものを持っていなくて…(まあ、あるにはあるけどさすがにここでは…)」
「なるほどな。確かにここは騎士も商人もお貴族様まで居るからな。身なりが小奇麗でも確認せずに通すなって上から言われてるからな。でもあんたは顔パスだ。それで馬だったか?どうしてだ?」
「この戦況を黒門にまで伝えるようにってお姉ちゃんに頼まれて…」
「おう、イリシア嬢ちゃんがな。分かった。うちの騎馬隊の連中に頼んでみよう。あそこなら無理が通るかもしれない。」
「ありがとうございます!」
「良いってことよ。ちょっと待ってろ。すぐ用意してくる。」
衛兵さんが走ってどこかに消えてしまう。
「お嬢さん…お嬢さん…。」
後ろから声を掛けられる。
「どうしました?おばあちゃん?」
「お嬢さん、大変そうじゃないか?だから、ほら。これをもっとき。」
そういうとおばあちゃんは私の手に砂糖菓子の入った包み紙を乗せてきた。
「ありがとうございます。ですが、こんな高価なもの受け取れませんよ。」
「へっへへ。老い先、短い者がこんなもの持っててもしょうがないってやつさ。」
「だからこそですよ。それにほら、この先、北への旅は辛く長いものになるでしょうから。」
おばあちゃんの手に私の手も添える。
「だからこれはおばあちゃんが持っていてください。そしてもし本当に困ってる方を見たら、その方にあげてください。」
「そうかい?」
「ええ。ご無事で。」
軽くおばあちゃんの手を握り、別れる。おばあちゃんはすぐに人混みの中に消えて、見えなくなってしまった。
「はぁ~」
それにしても砂糖菓子か~。自分も久しく食べてないな~。お小遣いは別のことに使っちゃうから、たまにウチに来客が来た時に出されるのをちょっと頂くくらいだな~。はぁ…。
「どうされたのですか?そんな溜息をつかれて。」
「わっ!衛兵さん!帰ってたんですね。」
「はい、今しがた、騎馬隊と交渉を終えてきました。無事、馬を借りて参りました。ついでに騎士様も1人おまけしていただきました。」
「おい!誰がおまけだ!!とほほ…まさか初陣が後方支援で最悪だー!って思ってたら、さらにはるか遠くに飛ばされるとは…。」
あはは…どうやらこの子はこの仕事に不服らしい。
「後方支援も大事な仕事ですよ。」
「あはは…ありがとうございます…。では改めまして、私はクリス・ボードワーンと申します。以後よろしくお願いします。」
「ボードワーン?というとあのボードワーン将軍のご家系でしょうか?」
「ええ…まあ一応…?そうらしいですね。ですが何代も前に本家から分かれたただのボードワーンですよ。ウチの家系は掃いて捨てるほどいますから。」
「なるほどそうだったのですね。私はヴィオラ・イェルネルトです。どうぞ、エスコートよろしくお願いします。」
「イ…イ…イェルネルト!?ってことは貴方様は…」
「ええ…父はルカ・イェルネルトです。………はっ!ごめんなさい、なんか流れ的に嫌味っぽかったですよね!!」
「い、いえ!全然そんなことないです!!」
クリス君が衛兵さんの腕をバっと掴むと、バーっと飛んで、内緒話を始めてしまった!!やっぱり嫌味っぽかったのだろう!家柄でマウントを取るようなクソ女認定されたのだ!ああ、くそ!!きっとこんな嫌味な女なんか護衛できないって愚痴を言われている!!
(ちょ…隊長殿!?聞いてないんですけど!!)
(なんだ?女の子をエスコートするのが不服か?)
(いえ、全然そんなこと無いですけど…というかむしろ光栄ですけど。)
(じゃあいいじゃないか?)
(いやいやいやいや!イェルネルト家と言えば大臣家よりも格上の超VIPじゃないですか!その娘をこんな若造に護衛させるとか正気ですか?しかもですよ、隊長殿知らないのですか?)
(何がだ?)
(イェルネルト家の娘、ヴィオラ・イェルネルト。その美貌と天使のような無邪気さ…そのあまりの可愛さにファンクラブ会員は1万人を越えるとか越えないとか言いますよ。)
(え!?この子ファンクラブとかあんの!?というか多!!)
(もちろん非公式ですよ。本人は知りませんよ。あ、ちなみにお姉さんのイリシアさんは会員番号一桁代とかという噂も聞いたことありますね。)
(おお…さすが、噂に違わずだな…。)
(ともかく!そんな方を野郎が二人きりで護衛だなんて、後でファンに刺されかねません!)
(なら、わしが骨を拾ってやろう。)
(ちょっと!勝手に殺さないでくださいよ!)
(貴様も男だろう!覚悟を決めろ。)
(そんな~)
バンっと背中を押されてクリス君がこっちまで吹き飛ばされる。どうやら嫌味女の面倒を見るように説得されたらしい。ぶくぶくぶく…
「こほん…それではヴィオラ殿………って!ヴィオラ殿!?あわわわわわ!ヴィオラが溶けてる!!」
「あははは、そんなこと気にされてたんですか?」
「すみません…。」
「いえ、こちらこそすみませんでした。ヴィオラ殿に変な気を使わせてしまいました。」
クリス君が馬に乗り、手を伸ばしてくれる。
「お手を、エスコートいたします。」
「ふふ…ありがとう、騎士様」
手を掴むとクリス君が引っ張り上げてくれる。
「落ちないよう、しっかり掴まっていてくださいね。あ、手綱には触らないでくださいね。」
「ええ、分かったわ。」
クリス君に体重を預ける。
「そしたらクリス君に支えてもらおうかな?えっへへ~。」
「………。ええ、お任せください。」
(あーくそ!なんだこの人!!くっっっっっっそかわいいんだが?????そりゃあファンクラブも出来ますわ。落ち着け?俺。ふぅー、深呼吸して落ち着こう。吐いて~吸って~吐いて~吸って~。………。ああ…ああ、いい匂いする。やっぱ女の子って………じゃなーーーーい。おい、まるで変態じゃねーかよ、俺!……うん、よし結婚しよう。今すぐ結婚しよう。結婚は将来のビジョンが見えてからうんたらかんたらって言うしな。うん、見えた。結婚して、子供が出来て、たまに喧嘩して、でも共に困難越えて、子供が成人して家を出て行って、老後二人でのんびり過ごしている。そしてなんて幸せな人生だったんだって思いながら、竜神様のもとへと旅立つ。ああ…最高じゃないか…。よし見えた。まずは指輪はどうしようか…。)
「ねぇ…クリス君?」
「…ッ!?ハッ!!はい!なんでしょう!!」
「もしかして緊張してる?」
「え?あっ…そうですね。多少は緊張してるかもしれません。」
「えへへ。そうだよね。実は私もなんだ!だから、一緒に!頑張ろうね!!頼りにしてるよ!」
(私も…?一緒に……?頑張ろう…………?頼りにしてる…………?)
突然、クリス君がボーっとしたと思ったので、鼓舞したら逆にもっとボーっとさせてしまったようだ。
「あれ?聞いてる?もしもーし?おーい。聞いてますか?」
「う、うおおおおおおおおおおお!!!!者どもどけどけ!!!!ヴィオラ様のお通りだぞ!!!うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
どうやら私は、クリス君の変なツボを押してしまったようだ。
「それでヴィオラ様、黒門と言っても道筋はいくつかございますが、どの道で行きましょう?」
「普通に街道を通るなら山脈を迂回することになるから、竜髄山脈を突っ切っていくよ。」
「と、言いますと山越えですか?むしろ時間がかかりそうですが…。」
「あ、違う違う。山の中を通るんだよ。」
「山…の中??」
「そう、第一次南方遠征は知ってるよね。そのころはまだ魔族の残党だったり魔物がこの辺まで出てたから、本国と開拓地を繋ぐ街道って今よりもはるかに危険だったのね。だからやんごとなき身分の方々が安全に移動できるように秘密の路を作ったんだよ。つまりはトンネルだね。時間が経ってその路は使ってた人以外には忘れられて、誰も知らないショートカットになったって訳。」
「へぇ~そんなのがあったんですね。」
馬は街道沿いを走っている。左手には農耕地が広がり、右手は森が広がっている。そしてその森の奥に竜髄山脈が続いている。
「空気が湿ってる…。これは午後には雨が降りそうですね。」
「分かるの?」
「ええ、ヴィオラ様、この時期は北西の風が吹くことがあるんですよ。南東は海がありますから湿気った風が、この竜髄山脈にぶつかります。そうすると、風が山を登って冷えます。そうなると雨雲の完成です。」
「へぇ~詳しいんだね。」
「昔、南からの交易商の方に教えてもらったんですよ。」
「南方ってことは大龍王国の商人の方?」
「いえ、たしか中央諸国の小国出身だって言ってましたよ。」
「中央諸国出身ってことはやっぱりケモミミの方?」
「ええ、当時は私も子供でしたからそれが物珍しくて、彼にいろいろ教えていただきました。何年も前のことですし、当時の彼はかなり年老いていましたのでまだ生きてるかは分かりませんが。」
「そう…素敵な思い出ね。……あ、そろそろ右ね。」
「はい。って、え?ただの森ですよ?」
クリス君が馬を減速させる。まあ無理もない。普通はこんな何もない所に入ろうとは思わないからね。
「そうそう、ここだよ。ほら、山の中に行くからさ、森の中を進んで山の麓まで行かないと。」
「なるほど、確かにそうですね。」
そういうと馬を街道から外れさせ、森の中に進む。
「こんななんも無い所の先に路が続いてるとはにわかには信じられませんね。」
「そうでしょ?だからこそだよ。」
「なるほど。」
10分ほど森の中を進むと目的地に辿り着いた。本来は誰にも教えちゃいけないんだけど、目印を目印として認識できなければたどり着けないようになってるし、クリス君はそれに気づいてなさそうだし、問題ないよね。それにこの路は鍵が無いとそもそも空かないから知ってたところでだよね。
「着いた~。」
馬から飛び降りる。んん~っと背伸びする。
「え?ここがですか?私には何も見えないのですが?」
次いで馬から降りた、クリス君は不思議そうな顔をしている。
「そりゃあ、結界で隠してるからね。鍵で開けなきゃ見るどころか、触れられさせできないよ。」
「なるほど、それでその鍵ってのは?」
「それはさすがに教えられないよ。あ、後ろ向いててね。」
「はいかしこ参りました」
くるっと、クリス君が回れ右すると両手で目を隠している。うん、いい子だ。
「もういいよ。」
クリス君の肩をポンっと叩く。振り返ったクリス君はびっくりしている。それもそうだ。先ほどまで存在しなかった、遺跡があるのだから。遺跡は石造りで、ちっちゃい階段が地下へと続いている。
「この石段を下るのですか?」
「うん、そうだよ。この階段を下ると路になってて山脈の麓まで続いてるんだ。そしてそこから一度外に出て、そこからようやく黒門に続く地下の本道に繋がるんだ。」
「なるほどこれはすごいですね。これだけ巧妙に隠されてたら誰も気づかない訳ですよ。」
「あはは、昔の人ってすごいよね。魔物の目を欺くために作ったものが、人間の目まで欺くんだから。」
「それでは急ぎましょう。一刻も早く黒門に向かいましょう。」
二人で階段で降りる。自分もこの路を通ったのは何年ぶりだろうか。前はお父さまと通った気がする。
「中は意外と広いのですね。」
しばらく階段を降りると、ついに路に辿り着く。横幅は馬車がギリギリ通れるくらいでそこまで広くはないが、天井は馬に乗っても余裕なくらい高い。そして、はるか遠くまで路が続いてるのが見える。松明などは刺さってはないが、地面に一定間隔で光る石が配置されている。暗くはないけど、明るくもないくらいである。奥側は水が流れている。山脈の地下水だろうか?遺跡っと言っていいほど古い道だが、よく整備されていて馬で快適に走れるほどである。
再びクリス君が馬に乗ると、手を差し伸ばしてくれる。
「ありがとう。」
引っ張り上げられて、自分も馬に乗ったのを確認すると再び馬を走らせる。
およそ2時間後
「そろそろ外では日も落ちたころだね。」
「え?あっ…そうですね。」
「…もうすぐ外に出るからそろそろ一度休憩しましょう。」
「分かりました。」
クリス君は馬を停止させると飛び降りる。次いで自分も降りる。
「それでは自分は馬を見とくのでお休みください。30分ほどでよろしいでしょうか?」
「ううん、私はいいの。今は貴方が休憩をしなさい。気を張りすぎよ。馬は私が見とくから。」
馬に括り付けていたカバンからパンを取り出すとクリス君に投げる。
「ほら、これ食べて少し寝なさい。気が持たないわよ。」
「わ、分かりました。ありがとうございます。」
クリス君がパンを受け取ると、壁にもたれ掛かり座り込む。自分もカバンからパンを一つ取り出すと、小腹を満たす。非常用のパンで硬い…。いつも買ってるような柔らかでおいしいものではない。が、状況が状況だし仕方がない。
「そう言えば、」
「ん?」
「この路って、やんごとなき方以外知らない路だって言ってましたよね?どうして王族でもないヴィオラ様がこんな路を知ってたのですか?」
「…………。ああ~、そりゃあこの地の領主の娘だからね。それにやんごとなき方って、確かに普通はこの国の王族だけを示す言葉だけど、文脈によっては変わるからね。」
「と、言いますと?」
「もともと、竜神様の尊き血を分ける血族を指す言葉だったんだよ。でも、黒髪の勇者様はおとぎ話によるとこの地に戻る前にどこかに行ってしまわれたようだし、白巫女の一族はほら…色々あって没落したからさ。もう一般的には王族の方々だけを指す言葉になっただけなんだよ。」
「なるほど」
私の髪先を指でくるくるさせる。
「ほら、私の髪って白いでしょ?私のお母さんも白巫女の一族だったんだ。だから私もその血を受け継いでるって訳。この路は教皇戦争以前のものだから私でも開けれる結界が掛けられてたんだろうね。」
「へぇ~そうだったんです…ね……。」
かなり疲れてそうだ。
「うん。無理せず、寝ていいよ。」
「はい…ありがとうございます。」
しかし、完全にとまでは言わないが白巫女の一族に対する迫害もだいぶ無くなった。昔、お母さんが小さかった頃は国内に居る白巫女の一族は皆、保護という名目で北の聖域に閉じ込められてたらしい。教皇戦争での遺恨で白巫女の一族に対する差別意識が蔓延してたらしい。それに聖域には監査府というのがあって思想統一までされて、白巫女の一族に国だけのために権能を使うことを強要されてたらしい。それがお母さまと、お父さま、それと当時王太子だった現国王さまが手を取り合って何とか今まで復権した。今では髪が白いことを嫌味に言われることは滅多になくなってきている。
そういえば、大陸の西端にはシルバス王国ってのがあるらしい。教皇戦争で、当時の教皇さまと国王さまが戦争していた時に、教皇さまのご子息である聖シルバス公が、争いに巻き込まれたくなかった一族を率いて西へと逃れて出来た国らしい。向こうのお偉方は使徒って呼ばれてて、私たちと同じ血族だけどこっちの白巫女の一族には発現しない特徴があるらしい。それは腰から羽が生え、頭からはヘイローと呼ばれる浮いてる円環があるらしい。一度見てみたいな…。
「クリス君…。クリス君…。」
「ん…?ああ、おはようございます。」
「うん、おはよう。そろそろ行こうか。」
クリス君が立ち上がると背伸びする。
「んんんー。はい、行きましょう。」
再び、馬に乗ると引き続き進む。30分ほど馬を走らせるとすぐ路の終端に着いて、地上に出る階段が見えた。
「ここが終点だね。それじゃあ一旦、そこの階段から地上に出るよ。そこからまた別の階段で地下に行くと今度は黒門の近くまで出る抜け道に出るから。」
「それでは階段ですので一度降りましょうか。」
二人で降り、階段を上る。この階段は見つけて出現させるのが難しいが、階段から出るのは簡単である。ただ普通に登ればいいだけである。階段を登るとざぁああっと雨音がする。階段の先に空が見えた。もう夜である。クリス君の予想通り雨が降っている。それにしても疲れた、無事終わったら今度こそ砂糖菓子食ってやる。その時はクリス君にも奢ろう。そうしよう。そうしてようやく外に出る。
「久しぶりの外だね。」
っと後ろを振り返る。が、そこには誰も居なかった。階段から出たばかりの馬だけが残されていた。
「あれ?クリス君…?」
「あっ…がっ……がはっ…」
ぼとぼとぼと。音を立てて上から何かが落ちてくる。血だ。そう認識する。この誰も居るはずのない場所で敵襲されたのだ。魔術で剣を呼び出し、構える。そしておそるおそる上を見る。そこにはクリス君が木に吊るされもがいていた。雨水が滴り、無数の糸の様なものがクリス君を縛っているのが見える。そしてそれは圧迫を強め…。
ボギッ!!!!
想像もしたくない、嫌な音が響く。雨の中、ぼたぼたっとさらに大量に血が彼から落ちる。おそらく、彼の頚椎、背骨、両腕、両足が折れた音だろう。普通なら絶対に曲がらぬ場所から四肢が折れる。そして同時に彼の抵抗はピタっと止まり、動かなくなる。
「ッ!!!!!」
そして糸が緩まったと思ったら、スルっと糸から滑り落ち、ボドっと鈍い音を立てて地面に落下する。
「おいおい。これはどういう事だい?」
「誰!!」
振り返ると、小太りのおじさんと、それを守るように両脇に騎士が二人立っている。このおじさんどこかで見たことがあるような。
「まったく…隊長殿にここは安全だからここで待機するように言われてたのに、まさか君のような乳臭いガキが現れるとはな。ああ、でも良いものを持ってるじゃないか。ええ??」
目の前の小太りのおじさんが、舌なめずりするとこちらを品定めするようにジロジロ見てくる。なぜか得体の知れぬ不快感に襲われる。
「ふむ…顔はいいな……。おい、小娘。剣を捨てて、服を脱げ。私に奉仕しろ。一生私の性奴隷になると誓え。そうすれば命だけは助けてやろう。」
ああ、なるほど。この人は変態さんだったか。だが、敵であることには間違いがない。
「お断りします!」
同時に左手を天に掲げ魔術を行使する。天に巨大な氷塊を生成し、落下させる。が、隣の騎士が剣を抜き一振りすると、氷塊を二つに割かれ、小太りのおじさんの左右に落下する。
「なるほど…ただものじゃないな…。」
正直勝てる気はしない。しかし退路がないのであれば仕方あるま……。
バタッ……。
なんだ?何が起こった??気が付くと地面に倒れていた。そうか、先ほどの糸…。その糸に足の健を切られたのである。切られたことにすら気が付かなかった。認識したからか、今更になって激痛が走る。
「あああ…ああ!!ああああ!!」
何とか手と剣で起きようとする。が、足の健が切れていて、うまく立つことできない。
「ひっひひ。えい!!」
「うぐっ!!」
おじさんに横腹を蹴られる。蹴り飛ばされ、何回転かして仰向けになる。まずい…何とかしなくてば…。
「おい!おいおいおいおい!なんだぁコレはぁ?」
胸を靴でグリグリされる。
「胸がデカいと態度までデカくなるのか?ええ?」
「うっ!はぁ…はぁ…」
胸を思いっきり蹴られ、思うように息が出来ない。と、馬乗りにされる。
「うっ…がっ…」
「よし……殺すか。」
首に糸を張られる。そのまるで鋭利な刃物の切先のように私の首にめり込んでいく。
「うう…あああ!!」
手足を暴れさせ、抵抗するが糸はじわりじわりと喉を裂いていく。血が滲んだと思ったら、溢れる。動脈が切れたようで鮮血が一定のリズムを刻んで喉から溢れ出る。
「いっ……いっ…。」
そして痛みの中で気が遠くなっていく。ああ…ごめんなさい、お姉ちゃん…ごめんなさい、皆…。
14
なぜ気づかなかった。いや、それは自分が気を失ってたのと、情報を遮断する結界が張られてたからだが、そうではない。そう…自分とヴィオラの繋がりが消えたのである。あるいは自分と彼女との間の契約が消えたのである。契約おを破棄出来る条件は二つ。一つは契約主である彼女が契約破棄を望んで、自ら繋がりを断つこと。そして二つ目は……。ヴィオラの身に何かがあったときである。つまり彼女は……。ああクソ!
平原を走り抜け、森を薙ぎ倒し、走る。最後に彼女が居たのは、路と路の連結の部分である。彼女が最後に居たのはそこである。そしてようやくたどり着く。15分もかかってしまった。雨の中、わずかに血の香りがする。転がる死体と、消えた足跡、そして………。
「うっ……、あっ…あっ…………。」
そこには既に息絶えた妹の亡骸が横たわっていた。足の健は落とされ、首が半ば落とされ、苦悶の顔は血だまりの中で溺死している。
「ハッ……ハハ…………。」
倒れ込む。泥の中を這って、ヴィオラの亡骸を抱き込む。
「うう…あっ…ああ……」
私は…私は………何のために………。
15
「こんにちは、ヴィオラ・イェルネルト=ドラゴニアさん。ん…?ああ、そっか。まだドラゴニアではないんだっけかな?」
気が付くと目の前に黄金の瞳で、長髪の少女が立っていた。どこの国の文化とも違う不思議な服装をしている。ここは…だめだ……。目の前の少女以外の情報は一切頭に入ってこない。注視しようとも何もわからなかった。
「ええ…こんにちは……」
あれ?そういえば私、何してたんだっけ?
「ッ!!」
喉に手を当てる!あれ?
「傷がない?」
「喉に穴があってはまともに私と話せないでしょ?だから治しといたわ。」
「え?あ…ありがとうございます。ここは?あなたは……竜神様では無さそうだけど、ここは冥府ですか?」
「うーん…まあ、そんなところだね。私のことは……そうね…。天使とでも呼んでね。」
「竜神様じゃない天使…分かりました。それで私はなぜここに居るのでしょう?」
「あはは…君は見かけによらず、意外とせっかちなんだね。せっかくの出会いなんだからゆっくりお話でもさせてくれよ。まあいいや。私は君の世界とは違う世界から来たんだ。」
「違う世界…?」
「まあそこはいいんだ。君は今さっき死んだ。だけど世界によって君の魂が消去される、えっと…君たちの文化観でいうと…つまり冥府の底で竜神に裁かれて、次の生に転生する前に私がコピーを取っておいたんだ。そこでどうだい?君は私の世界で二度目の人生を送りたくないか?」
「ねぇ…天使さま。」
「んん?」
「何で…『私に従え』って命じないのですか?あなた様が天使様ならばできるのではないでしょうか?」
「いやあ…そう思われては困るなあ……。別に私は人の意思を捻じ曲げる非人道主義者じゃないさ。ほら、私はこう見えても’天使様’だからね。」
「はぁ…。」
「それでどうなんだい?」
少し考える。自分のことを天使であると自称する少女。しかし少なくとも、自分はあの場で間違いなく死んだ。それは私の魂にかけて肯定できる事実だ。ならば、この場を用意したのも、この場に私の意識を用意したのも天使ちゃんなのだろう。(えへへ、いきなりちゃん付けかい?)天使ちゃんのすべてを信じる訳にはいかないが、少なくてもそれに準ずる高位存在ではあるだろう。少なくともこの世界に関するルールの域を超えた能力だ。なら信じようが、信じまいが自分に選択肢などないのではないのだろうか?(まぁそれは確かにね~。)
「仰せのままに。」
「ふふ、いいね。それじゃあ君の多摩市と肉体情報を私の世界に転写するね。」
天使ちゃんが私の胸に触れる。
「へぇ、君の魂面白い形してるね。色んな別の形をした魂が君の魂にくっ付いてるね。まあいいや。私の世界へいらっしゃい。」
また視界が白む。しかし今回は苦痛なものではない。
「え?待ってなにこれ!こんなの聞いてない。どうして術が一人でに発動して…。」
目を醒ます。起き上がり天を仰ぐ。雲一つない快晴と見渡す限りの星空。ああ、綺麗だ。心の底からそう思う。そして視線を降ろす。ああ…そこには私が一番会いたかった人が居る。彼女と視線が交差する。きっと彼女もそうだったのだろう。その人は一歩また一歩とこちらに歩く。そしてバっと抱き着いてくる
「うっ…うっ……」
そっと自分も彼女の背中に腕を回す。
「お姉ちゃん…会いたかった……。」
「ごめんね…ごめんねヴィオラ……。私は……私は………。」
そっとお姉ちゃんの頭を撫でる。
「お姉ちゃんは、皆のために、私のために戦ってくれたんだよね。だからありがとう。」
お姉ちゃんに改めて向きなおす。彼女も顔上げてくれる。
「そして、ただいま。お姉ちゃん。」
ここはどこか分からない。あの天使様は私の居た世界とは異なる世界に召喚するって言っていた。地も海も空も繋がっていないどこか遠くの異邦の地。だけど私は必ず帰る。お姉ちゃんと二人でもと居た世界に必ず戻って見せる。
まずこの作品に触れていただきありがとうございます。実はこれが私がはじめて書いた文章なので至らぬ部分が多くあると思いますが、これから成長して参りますのでどうぞこれからもよろしくお願いします。また、誤字脱字があればよろしくお願いします。感想とかいただけたら喜びのあまりむせび泣くかもしれないです。
今作は
序章、1章、2章、3章、間章、4章、5章、6章
の構成を予定してます。
次回からは1章ですが、今回よりももう少し分量を減らして、何回かに分けて投稿していきます。
それでは最後まで読んでいただき改めてありがとうございました!
2025/05/01 編集