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生徒会議事録だよっ☆  作者: masterpiece (村右衛門&モ虐)
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生徒会議事録議事録


「――そういえばさ、議事録とかって書いてんの?」


 任せられた仕事を意外にも、本当に意外なことに済ませきった祐介が、里奈に尋ねて言った。その質問の矛先がまっすぐ里奈に向けられたのは、彼女の役職が曲がりなりにも『議長』だからだろう。

 この生徒会本部では人手不足も甚だしく、一学期限りの祐介一人が入ったところで、少し楽にはなるが根本的な問題解決にはならない。そんな状況なので、役職に沿った仕事の分担なんてできていないのが悔しいが現実だった。当然、議長も議長らしからぬ仕事を果たしていたりする。


「まぁ、そんな中でも私が議長なんは変わらんしな。議事録書いてるんも私よ」


 さあ褒め称えよ、と腕を組む里奈に「これはこれは麗し賢し議長さまー」と誠心誠意、それはそれは心を込めて、当然棒読みで祐介が言葉を紡ぐ。

 

「え、議事録って何書いてんのよ。地味に気になるんやけど」


「……かん」


「え?」


「読んだら、あかん」


 空気感の変わった里奈の断言に、さしもの祐介も口籠る。咄嗟にその理由を尋ねようとした唇は、里奈の視線に射抜かれるようにして僅かな痙攣を残すばかり。

 刹那の間、目線の交換が二人の間でなされる。しかし、祐介が向けられる眼光に少し怯んだのと、里奈が手元の書きかけの資料に視線を落としたのはそのすぐ後、同時でのことだった。


「――本気で、聞かせてくれん感じか……」


 里奈には聞こえないくらいの小声でつぶやき、祐介は周りを見回す。

 大輔と美緒は次期会長と次期副会長として教員の交じる行事会議に参加しており、現在生徒会室にいるのは祐介と里奈の二人だけ。ちなみに、里奈の次期役職は変わらず議長と目されている。というか、彼女がそれを意志強く言い続けているので、そうなるだろうというのが周知の事実になっていた。あと、祐介は次期部外者。


「お兄さんとか門蛮族のあの人とか、他に当たるっていう選択肢はなしか」


 ついでに、議事録の内容を諦める、という選択肢もまたナシである。

 折角、生徒会本部のお手伝い係的な役割を拝命(無理やり強奪したとも言えたりするかもしれない)したのだから、生徒会本部内での知らないことを完全にゼロに――というのはどうせ無理なので、限りなく少なくしたい。それが祐介の想いだ。

 その信念からすれば、議事録というこれまでの生徒会の記録であるそれを閲覧する権利を一切許されない、というのは彼にとって不満だった。

 

  *


「――あれは、見せれへんよ」


 そう、静かに里奈は口の動きだけで呟く。

 里奈だって、祐介を除け者にしたいわけではなく、見せられるものなら見せたいと思っている。生徒会本部役員としての彼を認めることは決してしないが、しかし彼という人間を一切信じていない、というわけでも決してないのだ。

 だが、問題は彼が求めたのがあの、『生徒会議事録だよっ☆』であるいうことにある。それ以外ならばいざ知らず、その議事録の閲覧を求むるというのならば、里奈はその祐介の出鼻を挫かざるを得ない。



「あれは――流石に、ふざけすぎた」



 里奈は、思い出す。これまでに彼女が書き続けてきた議事録を。『生徒会議事録だよっ☆』という題名を付けたところから始まり、かなりのおふざけで書かれ続けてきたその日記じみた記録を。そのデータは里奈の所有する学習用タブレット内に保管され、基本的に誰の干渉も受けないようになっている。

 それこそ、大輔や美緒から彼らしか知らないような話を寄稿してもらうことはあれど、彼女以外がその全貌を知ることはないのだ。


「私は、護らなあかん――あれを。流石に鈴木と美緒の名誉のためにも」


 良くも悪くも、議事録に描かれた大輔や美緒の姿は自然体そのものである。そのままのノンフィクションを描いているのもあって、彼らの行動はそのままが記録されている。一部、それはそれはごく一部、その行動に里奈の抱腹絶倒必死の脚色が加えられることはあるが、ほとんどはそのままである。

 それは、彼らが恐らく学校生活の大部分では見せていないオフの姿、という事になる。


 まぁ、祐介は少なくとも大輔とは浅くない仲であり、彼のオフの姿を見ても特に幻滅したりはしないだろう。というか、よく考えてみれば里奈にとって大輔の名誉はまあ、そこまで大事でもなかった。どうせ、彼の名誉は汚そうとしても潔白な儘だろうから。自分が必死になって守るものでもない。

 では、なぜ祐介に議事録を見せないのか。それは――、


「高橋から鈴木か美緒に内容が伝わったら……変な奴やと思われそうやし」


 切実な思いを胸に、里奈は決して祐介に議事録を見せようとはしない。

 何が何でも、彼女の力作はこのまま墓まで持っていくのだ。その決心は固く、祐介であっても簡単には解れさすことが出来そうになかった。



  *



「――会議から帰ってきたら何か不思議な雰囲気なんですが……?」


「喧嘩か? 追放か?」


「門蛮族さんはなんで俺をそんなに追い出そうとするんよ」


 結局、祐介は今日の内に議事録の内容を確かめることは、諦めたのであった。


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