生徒会太鼓議事録
ーードドドドドトド
「鈴木〜? 書き終わりそう?」
ーードドドドドトド
「ええ。もうすぐ終わるので恐らく伊藤さんが帰って来るよりは早く完成すると思いますよ」
ーードドドドドトド
「里奈、まぁまぁ怒られてるっぽいな」
ーードドドドドトド
「石井さん、そろそろ太鼓止めて貰えません?会話が聞き取りづらいです!」
「え? あ〜うるさかった?」
先程までず〜っと高速で太鼓を叩いていたのは石井美緒だった。
そもそも、なぜ生徒会室に太鼓が置いてあるのかはそもそもホントに謎なのだ。
「いやぁ、体育祭のときに応援団が使う太鼓らしいんよ。去年は行方不明やったのを昨日先生が見つけてきて、運び出しといたらしくて」
変な所において行方不明になるくらいなら、生徒会室に置いておけば大輔のような疑問を持つ生徒会メンバーがいるため簡単に見つかるからいいだろうという考えのもと置かれていたというならもうその作戦は驚くほど完璧に成功していることになる。
「もっと適した場所はあるように思えますがね」
「いや、私が太鼓の達人の練習できるからここが最適」
「…………なるほど。だからあんなに速かったんですね。"おに"でしょうか」
ここでしなくていいだろ学校だろとツッコみたくなる大輔だがその気持ちはグッと抑えてプリントを完成させようとペンを走らせようとするも、最近どうも肩が凝っているようでモチベーションが下がりつつある。
肩を回し、解して、少しでも楽にしようとするがあまり効果はない。
「ん? 鈴木もしかして肩凝ってる?」
そう言うと美緒はバチを持ったまま近づいてくる。
美緒は大輔の背後に立つとバチを両手に1本ずつ構え、肩の近くに添えるようにして持っている。
「肩叩きをしようとしてくださっているのでしたら遠慮しておきます」
それを聞いた美緒はバチを持っていた手を下ろし、
「なんで〜? 集中できひんからとか言ったらキレんで?もとから集中できてへんしな?」と不満そうな声で問いかける。
「肩叩きのように強い刺激を与えると肩の筋肉が傷つきますので、体は筋肉を修復しようとするのですが……そうするとより肩が硬くなってしまいますので」
肩叩きはかえって良くないというのは比較的有名な話で、祖父母に肩叩きをしてあげる孫や、肩叩き券を母の日にプレゼントする子供にもそれは言える。
善意でやっていて、親や祖父母としては何とも微笑ましく可愛らしい理想であっても結果的には肩凝りを悪化させる要因の一つになってしまう悲しい現実があったのだ。
ガラガラガラ、と扉を勢いよく開ける音が聞こえた。
「あぁーー疲れた!! 」
木村先生からしっかりと叱られてきた里奈が帰ってきた。
「まぁ自業自得ですが、お疲れ様です」
先ほどまでの話を全く聞いていなかった里奈を見て、美緒は目を輝かせながら「肩叩きする?」と里奈に詰め寄る。
「え?じゃあお願いしよかな」
大輔は止めるべきか少し悩んだが、里奈は嫌がっていないし美緒も相手が見つかって嬉しそうなので、これを止めるのはあまりにも空気が読めない行動かと判断し見守ることにしたが……
「痛い痛い痛い! 手加減って知らん!?」
「石井さんストップ!」
流石にまずい空気を感じた大輔は2秒で考えをコロッと変えた。
次の瞬間には、大輔は椅子から立ち上がり、美緒は床に正座していた。
「僕はああ言いましたけど、嫌がられてないなら肩叩きすること自体止めるつもりはありませんよ? ただ流石に加減してあげてください」
しばらく、生徒会室内で太鼓は使用禁止になった。