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生徒会議事録だよっ☆  作者: masterpiece (村右衛門&モ虐)
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生徒会室備品議事録

 関西倉北中学校生徒会本部。

 現状2年生が3人いるだけの小さな集まりでしかないこの組織。

 6月中旬で、テストも終わりもうすぐ夏休みだというこの時期に仕事なんてほとんどないのだが……「生徒会ニュースだよっ⭐︎」というタイトルのプリントで生徒会の活動目標や全校生徒へのお知らせを毎月1回配っているのでそれを書き上げなければならない。

 

「さぁ……そろそろこれを完成させないと締め切りが近づいてるのでそろそろまずいですね……議長さん、石井さん。このプリント書かないといけないですけd」

「「嫌や。やらへん」」

 ほとんど白紙に近いプリント用紙を見て危機感を覚えた大輔だがその考え虚しく残りのメンバーに仕事を放棄されてしまった。

 というか今日ここに集まった目的なんてこのプリントの完成ぐらいしかなかったのだからそれを放棄されたらどうしようもない。


 机に紙を置いて大輔は一人腰をかけ、シャーペンを持つ。

 この机、生徒会室のど真ん中に置かれているとても大きなものなのだが、教室においてある机とは違いかなりボロボロだ。

 いろんなところに名前や恐らくその文字を彫ったであろう年と日付、そして落書きなんかによくありがちな相合傘や♡などかなり好き放題に書かれて……いや、彫られていた。

 

「これ、生徒会長の名前全部彫られてたりすんのかな?」

「どうなんでしょう……少なくとも僕はここに文字を彫るという行為に抵抗を感じるのでそういった方が書いていない可能性は大いにあると思うんですが」

「うわ〜、マジレスすんなよ〜」

「すみません、マジレスするなと言われなかったので」

 でも確かに、今までの生徒会長が全員ここに名前を彫っているというのなら少しロマンがあるなと思う気持ちは理解できる。


「じゃあ、探してみる? 里奈が言うみたいに全員分書いてあんのか」

「うん、探す探す〜!」

「まぁ僕は止めませんよ」

 関西倉北中学校は今年で創立43周年なので、大輔達は43代目の生徒会メンバーにあたる。

 なので42人分の生徒会長の名前を見つけることができた場合全員の名前を見つけたと言えるのではないかと思う。


 しかし、木村先生が「最上級生が生徒会本部にいない場合は会長職は空席にするのが決り」と言っていたのでそもそも欠番がある可能性や、大輔のように彫ることに抵抗を覚えた人が歴代の生徒会長にもいた可能性も考えられるため42人分見つけないといけないわけでもなさそうだ。


「机の上……というより脚の部分の方が彫られてますね」

「この机……彫られすぎて折れそうな脚あんけんけど」

「私後でそこに彫る〜! 麗しく尊い石井里奈様ってさ!」


 里奈は机の脚に彫られた字を見ながら、「知らん人やなぁ……まぁ当たり前か」と呟いていた。

「これなんて読むんやろ……ちょい見にくくて読めへん」

「先輩の字になんてこと言うんですか石井さん」

「醜いじゃなくて見にくいね!?」


 美緒が見にくいと言っていた字を見に行くと、

「太宰……までは読めますね。霞に水……読み方は分かりませんが名前の漢字はその2つだと思いますよ?」

「え!? 太宰先輩やん!」

 42代目生徒会長、太宰(だざい) 霞水(かすみ)

 現在はもう生徒会を引退しており、陸上部の部長をしている。

 ちなみに生徒会長をしていた頃は部長と兼任していたのだとか。

 

「陸上部の繋がりですか? 割と親しかったと聞いた気もしますしね」

「親しくは……いや、こんなこと言ってたら太宰先輩突然やってくるからな」

 その時突然ドアか開き、太宰が顔を出し

「どしたん、里奈ちゃん?」と何事もないように話しかけてくる。

「なんでいるんですか!?」

「里奈ちゃんが生徒会入ったって聞いたから上手くやれてるかな〜って思って♪」

 大会も近いんだから部活に戻れ、と里奈がやっとのことで太宰を外に追い出したところで、里奈は彫刻刀をどこからともなく取り出し、名前を彫ろうとする。


「この脚に掘る! こんだけ彫られてもも私のやったら輝いて見えるから存在感をアピールする!」

「折れても知りませんからね?」

 その自信は結構であるが、それで机の脚を折られたようでは困る。

 まぁさすがにそれで折れるほどボロボロというわけでもなさそうだしいいかとも思う反面、別に今彫るものでもなくね?という考えが大輔の頭中によぎっていた。

 卒業とか、生徒会の引き継ぎとかそういう節目のタイミングならまだ理解できるのだ。彫るのは……あまり良くはないが。

 ただしかし、生徒会に入って間もない様な大輔達が彫って良いものでは無い気がするのだ。


「2023年6月19……ってうわぁ!?」


 ーーその瞬間、机が大きく傾いた。


 里奈が彫っていた机の脚がメキメキ音を立てて折れた。

 そのせいで勢いよく脚の方向へ机が倒れ込んだので「大丈夫ですか!?」と言いながら里奈の方に視線を向けると……

 右手を後頭部に当て舌を出しながら、「やっちった☆」と笑っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「「「すみませんでした!!」」」

 自分達から謝ればまだダメージは少ないだろうと、大輔達は木村先生にすぐさま謝りに行った。

 彫ったのは里奈だけだし、折ったのも里奈だし、美緒はしっかり折れそうと忠告していたし、大輔は折っても知らないと言ってはいたがそれで「「関係ないです」」とまで言う度胸は無かった。


「あ〜その机なら……ボロいし処分して買い換えようと思ってたから別にええよ。

ただ……この机以外は折らんようにしてや?偶然折っていい机やった、とかはもう無いやろうし」

 木村先生からのお説教は全く無しで、あまりにもサラッと許されたため、3人はポカンと口を開けていた。

「いやぁ……もっと怒られるもんやと思ってた……良かったぁ折ったん私だけやから木村先生に私だけ怒られるんかなってヒヤヒヤしてたし……」


 あぁ良かったと胸を撫で下ろす里奈だったが、敢えて誰が折っただの忠告はしていただのといった情報は一切言わなかった気遣いを無下にされた気がした大輔と美緒は、

「よかったですね伊藤さん。折れても知らない、とは言いましたけど付いてきた以上僕も怒られてもおかしくなかったですしね」

「よかったな里奈。私の忠告あんまり意味無かったかもな」

 余計な言葉を吐いておくことにした。


「伊藤さん……? それなら話は変わってくるけど」

「僕生徒会ニュース書いてきますね」

「私も手伝ってきます! 里奈〜先行くっとくで!」

「ちょ、待ってよ! 見捨てんといてよ」

 木村先生も、大輔と美緒を巻き込む理由はないので2人を見逃し、「じゃあちょっと話を聞こうか」と口を開く。


「鈴木と美緒ちゃんのバカ! 外道! 人でなし!」

 その時、里奈の悲痛の叫びだけが廊下に響き渡っていた。




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