防衛長官のメモ
自室に戻った長官は、後任のために引き継ぎ書を作成していた。
その中で兵の訓練の項目を作り、今回の教訓を書き込んだ。
・自軍同士の訓練や失敗作を使用した実戦訓練では不十分であること。
・ヨスギル製にだけ頼るのでは無く、魔法の武具の活用も検討すること。
・地上にて実戦経験を積むこと。
・敵を知るために地上種の戦闘を研究、観察すること。
なお、現時点では想像に過ぎないが、考慮が必要と思われることを記す。
・地上にて実戦訓練を積む際のパーティー人数や規模、構成については冒険者を参考とすること。
・部隊再編制の際は、実戦訓練時のパーティーに絆のようなものがあるなら、それを考慮すること。
・ヨスギル製への魔法の付与について研究すること。
その他特記事項
・強化種については"神"との約束に抵触しないため、研究を継続すること。
・地上種とは武具、戦術が拮抗することを想定し、強化種の採用と訓練方法を考案すること。
書き終えた長官は一息つくと、現在秘蔵の戦力として温存している強化種について、絶対の自信を持っていたが、それが完全ではないことに気が付いた。
そう、ステータスなどを通常種の数倍に強化した強化種といえど、訓練は通常の獣人種と同じレベルだったからだ。
あくまで身内での戦闘訓練だけ。実戦訓練をしていないのだ。
防衛長官「こうやって文字にして書き出すと、強化種を使い始めた当初の私は、頭を使わず、力づくでの解決しようとしてただけだとわかるな」
地上種の多様な戦闘方法を学ぶ前の浮遊大陸側の戦闘方針は、地上種を作戦や実力ではなく、武具の性能差で優位に立ち、排除するというものだった。
現に、地上種もいずれはヨスギル製を使うだろうと見越して、上位金属であるドラゴン製の開発にも成功していた。
尤も神の使いがドラゴン製の使用に介入してきたのは想定外だったが。
防衛長官「さて、私の長官としての最後の仕事も近いようだ。
強化種にドラゴン製を装備させて神の使いにぶつけるか、装備せずに地上種排除にぶつけるか。
前者はハイリスクハイリターン、後者は逆か。冷静に考えるなら後者だが、いろいろ情報を得るという意味では前者だな」
長官は独り言を呟きながら頭の中を整理していた。