経験の差
大聖堂の愚行があってから、実力行使で浮遊大陸から地上勢力の排除をしていた防衛管理室では、想定と違った結果に頭を悩ませることになる。
防衛長官「首尾はどうだ?順調に排除できているか?」
管理官「そ、それが、、、」
防衛長官「なんだ?うまくいってないのか?」
管理官「は、はい、、、」
予想外の返答に長官はびっくりした。
武具が同等になってしまったとはいえ、十分に訓練した兵を使い、さらに挟撃で戦闘開始するように誘導していたからだった。
防衛長官「何が起きている?不意打ちしているのだろう?」
管理官「それがですね、奴らは不利になるとすぐに転移魔法で逃げてしまうんです」
防衛長官「何だと?そうか、そうなると襲撃のための配置もやり直しか」
管理官「はい。ランダムテレポートになるので、どこに行ったか不明です。仮に見つけても配備しなおしなので、時間ばかり要しています」
防衛長官「不意打ち作戦は中止せざるを得ないのか」
管理官「結果的にそちらの方がよいかもしれません」
防衛長官「せっかくの地の利を自ら捨てる愚挙をせねばならぬとは」
管理官「不意打ちばかりではなく、1合切り結んだだけで逃走を図ることもあります」
防衛長官「我々の訓練にはない行動だな。実戦経験の差がコレということか」
何やら考え込んでしまった長官に、さらに追い打ちをかけるような報告が襲った。
管理官「戦闘で魔法使いの動きを止めるために、不意打ち時に魔法封じの魔法を使っているのですが、
奴らは魔法のアイテムで同じく魔法封じをしてくるのです」
防衛長官「互いに魔法使いが封じられるということか」
管理官「それだけではありません。奴らの武器には魔法が仕込まれているようで、奴らだけ魔法をつかっている状態になります。幸い人数で勝る我々が一方的に押されはしませんが、逆に人数で押すこともできていません」
防衛長官「不意打ちダメ、数的不利ダメ、正々堂々正面から真っ向勝負しか受け付けないってか。狡猾な地上人め」
長官は拳を握りしめ、悔しさを滲ませていた。
防衛長官「ヨスギル製とミスギル製の戦いだけを想定。武具の性能にだけ頼った戦闘訓練しかしなかったツケが回ってきたということか・・・」
管理官は黙って長官の言葉を待っていた。
防衛長官「こうなったら上位金属のドラゴン製武具を投入して、、、ってこれも同じ思考か。同規模戦をするしかないのか。くそっ」
管理官「作戦変更します・・・か?」
防衛長官「仕方ない、作戦変更だ。挟撃作戦は中止、正面から当たれ・・・」
最後の言葉に力はなかった。
そしてこの作戦にも意味はなかった。
そのことが判明したのは数日後だった。
防衛長官「あれからどうだ?少しは排除できたか?」
管理官「ついに制御棟への侵入を確認しました。排除は、進んでいるのかどうか不明です」
防衛長官「ん?どういうことだ?奴らが逃げないよう、正面から当たっているのだろう?」
管理官「相変わらず不利になると転移魔法で逃走してしまい、排除しきれないのです。
何とか転移先を突き止めて再戦するも、また転移して、追っかけての繰り返しになっています」
防衛長官「地の果てまで追いかければよかろう?」
管理官「それが、彼らの方が魔力量が多いようで、先にこちらの転移魔法の回数が尽きてしまうのです」
それを聞いて長官は地団太を踏んだ。
防衛長官「それで奴らのいいようにされているということか。居住区から出現通報が入っている。我々は好き勝手されて、それをどうにもできないのか」
管理官「現状、そのようなになっています・・・」
防衛長官「奴らの目的地は制御室だ。そこへ通じる道に部隊を配置。そこで排除することにしよう」
管理官「わかりました。各部隊に通達します」
防衛長官「後手後手に回され、挙句の果てに受け身作戦を取らねばならぬとは、なんとも情けない・・・」
自室に戻る長官の背中に、元気は感じられなかった。