束の間の地上
大聖堂を後にした戦士たちは、探索の後始末をすべく街中をうろついていた。
戦士「鑑定結果はすべてヨスギル製の武具。予想はついていたけど、少し前なら考えられなかった結果ですね」
スカウト「伝説級の武具がこんなにあるんだからな」
僧侶「金策には最高ですね」
魔剣「魔法の効果がある武具の代用はできないから、そちらの価値は残りそうだが、単なる攻防力しかない品物は、値が落ちそうだな」
戦士「それでも価格という壁が立ちはだかるので、そんなに変わらなそうですけどね」
魔法使い「そういうこと考えてると、ポーションやスクロールって安定してるねー」
僧侶「そうだ!浮遊大陸行ってからはヨスギル製しか見ないせいで、魔法の杖が拾えなくなってしまったな」
魔法使い「魔力補強だったり、魔法の効果が仕込まれていたりで便利なのよね。魔法の杖」
スカウト「大聖堂の感じだと、ダンジョンで寄り道していい空気じゃなかったからな。アイテム蒐集は諦めろ」
僧侶「浮遊大陸の人たちは、魔法の武具を知らないのかな」
魔法使い「ヨスギル製なら魔法を込められるだろうに、それをしないってことは、魔法を込められる技術がないのかもね」
僧侶「確かに。我々の魔法の杖が材料にしているのは、ミスギル製や魔力のこもった木ですが、
これに魔法を込めることができる技術者がいるから、魔法の武具が出回っているのであって、
技術者がいなかったら、そもそも作成できませんね」
魔剣「今回の収穫物でも魔法の品は、アミュレットや指輪などの装飾品だけだったな」
僧侶「装飾品への魔法付与加工技術はあるけど、武具への加工技術がないのかもしれませんね」
魔法使い「そっか。技術者か。となると、今は単なる杖でしかないヨスギル杖も、いずれは魔法の杖に加工されるのかな」
魔剣「そんな技術が確立されるのが、いつになるか分わからんがな」
スカウト「未来への投資として、数本を自宅に保管しとくってのもありか?将来、材料として価値が上がってくれるかもしれねえな」
僧侶「そのころには、その辺にヨスギル杖が転がってそうですけどね」
魔法使い「開発過程で大量に必要になるだろうから、売るならそのときかな?」
スカウト「開発者が誰かもわからないんじゃ、扱いに困るな。やはり今売るか」
僧侶「それがいいですね」
戦士「装飾品の技術が高いのは、浮遊大陸じゃ戦がなくて、武具の代わりに発展した結果なのかもしれませんね」
魔剣「確かにな。平和な世界じゃ槍に魔法込めても邪魔なだけだ」
スカウト「そこで常用できる装飾品ってワケか」
魔剣「そういうこと」
僧侶「今回見つかった装飾品に込められた魔法は、浮遊、地図、転移だけでしたね」
魔法使い「生活でも使える魔法ばかりね。戦闘がないなら回復や炎なんていらないもの」
戦士「だとすると、この先で発見できる装飾品も同じようなものですかねえ」
スカウト「そうとも限らんぞ?俺らが相手しているのは"兵隊"だ。回復系装飾品を持ってるやつが絶対いるはずだ」
僧侶「"兵隊"ですか。そういえば彼らはどうやってレベルを上げているでしょう?」
戦士「獣人種なら冒険者に紛れているのかもね」
スカウト「地下ですれ違った獣人冒険者に、いたかもしれねえな。浮遊大陸出身の獣人種がよ」
僧侶「だとすれば、同じダンジョン攻略者として仲間とも言えるから、戦いたくないですねえ」
魔剣「まあ、襲われたらそんな悠長なこと言ってられんがな」
僧侶「まあね」
魔法使い「疲れたー。早く休もうよ」
魔剣「あとアイテム補充したら、いつもの食事処行くから、それまでガマンしろい」
魔法使い「むー」
スカウト「少し薄暗くなってきたな。飯を食った帰り道は暗闇だな、こりゃ」
僧侶「"夜"の出現で日常が変わってしまいましたねえ。ランプが街にあるからメイン通りは困りませんが、明るかったり暗かったり、忙しい世界です」
戦士「それもあと少しで終わりますよ。大司祭様も調整してしまえば、我々が気づけない程度の変化しかないって言ってましたし」
魔法使い「じゃあ、この変な世界を味わえるのも今だけか。そう思うとなんか不思議な気持ちになるなー」
魔剣「夜があるうちに外のベンチで寝てみないか?今だけやれる体験だぜ?」
スカウト「勝手にやってろ」
魔法使い「私は遠慮しとくー」
僧侶「暗いだけですし、部屋で十分です」
魔剣は何も言ってない戦士を見た。
戦士「外で寝るって、、魔剣さん、、、」
魔剣「今だけだぜ?な?」
戦士「同意を求められても・・・」
スカウト「リーダー。仲間の願いを叶えてやれよ」
魔剣がまたも戦士を見ている。
戦士「1人じゃダメなんですか?」
魔剣「体験を共有したいと思ってな」
戦士「・・・しょうがないですね。1回だけですよ」
魔剣が嬉しそうにしているのをみて、魔法使いは、しょせんはトカゲかと思ったが口にはしなかった。
魔剣「じゃあ、飯のあとにメイン通りにある家に一緒に行こう。そこの主人と話はついてるんだ」
戦士「随分用意がいいな」
僧侶「ああ、あの家の外にベンチ出して寝てたおっさんの家か」
目的地は、夜が始まったころに、メイン通りで見かけた光景の中にいたおっさんの家だったようだ。
戦士たちは、無事に帰還した喜びを感じながら地上の時間を過ごしていた。