何度目かの帰還
大司祭の部屋に慌てた様子で1人の司祭が駆け込んできた。
大司祭「どうしました?そんなに慌てて」
大司祭は落ち着かせようと、ゆっくりと声を掛けると、司祭も息を整えてから返答をした。
司祭「ついに目的のドアが発見されたと冒険者から報告がありました!」
大司祭は驚いたと同時に虚実を確かめるべく、離れにある会議室にいるという報告者に会うことにした。
大聖堂の離れにある会議室を兼ねた建物。最近では浮遊大陸の技師を暗殺した場所だ。
その会議室にいた冒険者とは、地下種の王であるコボルト王を討伐したパーティーだった。
大司祭は会議室へ入り、冒険者を一瞥するとすぐに見知った顔だと分かった。
大司祭「君らだったか」
報告者を確認した大司祭は、誤報の可能性はないと悟り、すぐに本題に入った。
大司祭「それで、制御棟への転移装置を見つけたということでよいな?その転移扉の文字を見せてくれるか?」
戦士はテーブルに座るフェアリーセイジのソーサを見た。
ソーサは収納箱からメモを取り出し、大司祭に手渡した。
メモにはこう書かれていた。
"Control"
大司祭「うむ。間違いないようだ。このドアの先は探索したのかね?」
戦士「すぐに帰還せよとのことでしたので、探索せずに帰還しました」
大司祭「なるほど。では制御室の探索を頼むぞ」
戦士「はい」
特に大司祭から話があるような感じがしなかったので、戦士は気になったことを大司祭に話すことにした。
戦士「大司祭様。"中央"はいろいろな場所への接続地点だったようで、人の往来が激しく、兵士は皆無で一般人ばかりでした」
大司祭は何の話だろうかと不思議そうな顔をした。
戦士「彼らから制御棟への道を聞き出し、今回は簡単に発見に至りました」
ソーサ「道案内と思われる看板もたくさんあって、目的地がたくさん書かれていました。その中に、案内してくれた一般人が言ったことが正しいという裏付けになる制御棟への看板もありました」
大司祭「なるほどな。そうか一般人から聞き出したか」
大司祭はまだ戦士たちが何を言いたいのかわからず、不思議そうな顔をしていた。
戦士「協力的な彼らでしたが、兵士たちは真逆で、2回ほど襲撃を受けました」
僧侶「大司祭様。夜を除去するために協力してくれ、と浮遊大陸勢に依頼したほうがいいのではと思ったんです」
魔剣「向こうは我々を見て、侵入者を排除しろと言っていた」
スカウト「無益な戦いを避けたいんだ。どうにかならねぇか」
僧侶「浮遊大陸勢としても悪い話ではないはずです」
戦士たちはこの提案ならすぐに動いてくれると期待して大司祭を見ていた。
しかし回答は最悪の状況の説明だった。
大司祭「いま彼らとは対立関係にある」
戦士「え?」
僧侶「夜の除去は彼らにしても悪い話ではないはずですが?」
困惑する戦士たちに、大司祭は説明した。
大司祭「そうか、お主らには話していなかったか。実は今回の"夜"発生事件を受け、浮遊大陸側から使者が来た。協力を求める・・・な」
戦士「それなら、なぜ!」
大司祭「彼らは光の宝珠から闇の宝珠を分離して、元に戻せと言ってきた」
魔剣「つまり、闇の宝珠をまた地下種の手元に戻せということか」
大司祭「そうだ」
僧侶「天にある光の玉を調整すれば解決すると説明しても、ダメだったんですか?」
大司祭「その調整によって夜が消えても、わずかに闇の宝珠の影響は残る。彼らはそれに納得できなかったようだ」
魔剣「気にならない程度の影響が残るのが嫌だから、分離しろと言ってるのか」
大司祭「我々にとっては気にならないレベルの影響でも、彼らは気にするようだな」
戦士「分離してしまったら、また地下種との争いが復活してしまいます。彼らはそれがわかってないのですか」
大司祭「彼らにとって、我々が地下種に苦しめられることなど、関係ないのだよ。何せ彼らは空にいる、地下種が来ない空にな」
スカウト「自分勝手な奴らだ」
僧侶「それで交渉決裂、我々が襲われたということですね」
大司祭「うむ。大聖堂の隊長格で構成したパーティーも投入している。なんとか制御室を見つけてくれ」
戦士「話し合いで解決が一番でしたが、、、」
大司祭「彼らは何とか闇の宝珠と光の宝珠を分離しようと、技術者まで派遣してきたからな。何としても分離したいのだろうよ」
スカウト「こちらの意見は無視して、すでに分離に向けて行動しているのか」
大司祭「そうなるな」
戦士「事情はわかりました。アイテムの補充をしたら再度出発します」
大司祭「頼んだぞ」
大司祭はやりとりを終えると、先に部屋から出て行った。
戦士「また戦闘になる可能性が高い。しっかり準備してから行くぞ」
浮遊大陸勢と手を取り合い、この問題が解決されることを夢見て帰還してきた戦士たちだったが、
それが叶わない願いであることを知ると同時に、大聖堂側も浮遊大陸側も互いの主張を通しているだけな気がしてならなかった。