技術継承の破綻
地上での一大事を知らない天球管理室。
そろそろ分離が終わって、忌々しい闇がそろそろ消えるかな?などと考えながら結果報告を待っていた。
そんなのんびりした空気の流れる部屋にブザーが鳴った。
どうやら天球管理室の長官部屋に誰かが転移装置で飛んできたようだ。
管理室で部下と共に結果待ちをしていた天球管理長官は、誰だ?という思いを胸に部屋に戻った。
転移部屋にいたのは防衛長官だった。
意外な人物が立っていたことで面食らった天球長官だったが、遊びに来た感じではなかったので、すぐに部屋に通すと応接セットに腰かけた。
天球長官「どうしたね」
防衛長官「長官。申し訳ありません!」
この第一声を聞いて天球長官は嫌な予感がした。
防衛長官「技術者を失ったようです!本当に申し訳ありません!!」
顔色が青く見える防衛長官を見て、冗談ではないと悟った天球長官はハッとなった。
そう、部外秘で伝承されている分離技術者の予備要員を失った。それは伝承途絶を意味していたからだった。
天球長官「どういうことだ!あれほど気をつけろと言ったはずだ!それに説明したはずだぞ!どんなに貴重な人材か、それを失うことがこの浮遊大陸世界でどんなに大変な事態かも含めてな!」
怒りで強い口調で返した天球長官だったが、話しながら少し冷静さを取り戻していた。
天球長官「・・・まあ、すでに終わってしまったことを言っても始まらん。事後について対策が必要だ。長官会議の緊急招集は必須として、今後どうするつもりだ?」
防衛長官「とりあえず今この浮遊大陸に侵入している地上種を始末するよう、兵に指示を出しました。奴らが何を企んでいるのかわかりませんが、この浮遊大陸をこれ以上好き勝手に探索させるわけにはいきません」
天球長官「始末できるのか?」
防衛長官「やつらも同じヨスギル製を持っているようですが、数はこちらが上です。モニターを使えば挟み撃ちして全滅させることも容易でしょう」
天球長官「地の利はこちらにありか。だが油断するなよ?」
防衛長官「例のドラゴン金属武具の部隊も出動させます。神の使いに見つかる前にいくらか始末できれば、それはそれでちょうどいい実戦データも取れますし」
天球長官「なるほどな。ヨスギル製の上位金属なら鎧袖一触というわけか」
防衛長官「ええ。神の使いの邪魔が入ってもいいように、複数部隊を同時に展開して地上種に当たります。もちろんヨスギル製の部隊も投入しますがね」
天球長官「これまで外部との接触を断ってきた我々としては、唯一無二の実戦経験の場になりそうだな」
防衛長官「はい。この計画を長官会議で話せば、安心するでしょう」
自らの秘策を含め、計画の成功を確信していた長官は饒舌に説明していた。
天球長官「うむ。その点は理解した。だが、長官!技術途絶の責は大きいものですぞ。その点もお忘れなきよう・・・」
かつては欲しくて欲しくて努力し、遂に手に入れた防衛長官の座。
この一件で長官の座から確実に降ろされるだろう。
だが、そんなことは防衛長官にとって、今はどうでもよかった。
ただただ取り返しのつかない失態をしてしまった自分の判断を後悔していた。
神の使いへの対策に気を取られ、秘蔵の隠し種を投入しなかったことを。