事後
自分が合図を出したとはいえ、司祭の手と足は震えていた。それは、この事件を起こすきっかけを作ってしまったと後から実感したからだった。
司祭「大司祭様。手筈通りにしましたが、ほんとによかったのですか?」
それを聞いた大司祭は、何をいまさらといった感じで返事をした。
大司祭「本当はマズいことをしたんだとしたら、どうするんだね?取返しがつかないことをしてしまったんだよ?」
そう返された司祭は固まった。
大司祭「安心したまえ。これでよかったのだ。次は彼らの報復か何か知らんが、襲撃の可能性もゼロじゃない。もっとも襲撃するにも理由が思い当たらんが、警戒と備えは必要だろう。騎士団と冒険者には配備についてもらおう」
大司祭に動じるような素振りが無かったので、司祭は少し落ち着いてきた。
そして横で話を聞いていた騎士団長が近寄ってきた。
騎士団長「大司祭様。計画通りに事が進みました。次は襲撃に備えますが、いまだ浮遊大陸にいる部下たちの身が心配です。まだ帰還は叶わないのでしょうか」
大司祭「目的の場所を発見するまでは、誰かが浮遊大陸を探索せねばならん」
騎士団長と大司祭のやり取りは、大司祭から当然のようにNOを返されるだけで終わるかに見えたが、騎士団長は食い下がった。
騎士団長「騎士団の隊長格はすべてこの部屋にいます。一部だけでも浮遊大陸に派遣したいのですが」
部下の生存率をあげるために、隊長格からなる部隊を投入したかった騎士団長は、大司祭にも都合のよさそうな提案をした。
大司祭「ふむ。それはよい案だな。探索者が増えるし、浮遊大陸勢も主力は本土に残すだろうことを考えると、、、騎士団長。その案を実行に移し給え」
騎士団長はすぐに会議室にいた隊長格を集めると、編成を始め、地上で襲撃に備える部隊と浮遊大陸に向かう部隊に分けた。
その横では大司祭が一人呟いていた。
大司祭「奴らの切り札を始末し、こちらからは更に強力な探索部隊を増派できるとは、何やらいい方向に傾いてきているようだな」
その頃、浮遊大陸では地上に派遣した護衛から緊急事態を知らせる信号が届いて、パニックになっていた。
防衛長官「緊急信号が届いただと?間違えてスイッチを押したのではないか?」
間違いであってほしいと願う長官はそのように部下に再確認を求めたが、帰ってきた返事は残酷なものだった。誤発信なのかという確認の通信に返答がなかったのだ。
防衛長官「どの護衛隊員も不通だと?まさか全滅?」
エリート隊員とはいえ、たった10名である。
装備は浮遊大陸では一般的なヨスギル製の武具であり、地上種に後れをとるものではなかった。
天球管理室に安心しろと言っておいて、このザマである。
防衛長官は背筋に冷たいものを感じると同時に、血の気も引いていた。
防衛長官「これは非常にまずい。直ちに追加部隊を送り、現地を直接確認しろ」
大勢で地上に行っては襲撃を受けると考え、一般人の恰好をした天上人を送り込み、現地確認をさせた。
予想通り、調査員は襲われることなく、大聖堂に到着して様子を伺ったが、いつもと違った様子は感じられなかった。
防衛長官「私が直接話す。通信を繋げろ」
長官自ら調査員とやりとりをするも、外からでは何も様子がわからないことが判明しただけだった。
防衛長官「大聖堂の中に入る理由がないな。浮遊大陸の人たちがいたが、何しに来たのか尋ねてみろ」
調査員は長官の指示通りに、大聖堂の入口にいる司祭に聞いてみたが、友好の訪問だと返された。
防衛長官「理由を偽っている。これは、、、騙されたか。あのクソどもめ!!分離に協力するというのはウソだったのか!!!」
長官は怒りをあらわにし、怒鳴り散らした。
防衛長官「クソがぁーー!!とりあえず天球管理室への説明はあとにして、まずは小癪なネズミを始末してやる。全警備兵に侵入している地上種を始末するよう指示をしろ!地上への帰還要請ではない。始末するようにだ!!」
長官は怒りながら指示を出すと、天球管理室へ報告に行くための準備を始めた。