強襲
大聖堂の離れにある会議室を兼ねた建物に案内された浮遊大陸勢は、この場所に光の宝珠が無いことに気づいて、案内役の司祭に尋ねた。
学者1「司祭さん。我々は光の宝珠から闇の宝珠を分離しに来たんです。宝珠はここに無いようですので、早急に宝珠の場所に案内してください」
学者が急かすと、司祭はまわりをチラチラ見た。
部屋の壁に沿って配置された騎士たちも司祭の方を見ていた。
司祭「確か分離するには技術者が必要だと聞いているのですが、どちらにいるのでしょう?」
学者1「こちらにいる2名がその技術者です」
そう紹介された天上人2名は司祭を見ると、手を挙げた。
司祭「あなた方でしたか。本日はよろしくお願いします」
この瞬間から、場の空気がどんどん張りつめていった。
何やら殺気のような異様なものを感じた護衛は、学者に話すべきだと耳打ちして知らせた。
護衛「学者さんよ。やはりここはおかしいぜ。さっきから殺気のような異様な気配がしてならねえ。いったん退いたほうがいいぞ」
学者はそんな想定外の報告を聞いて、万が一にも護衛の言うとおりに恐ろしいことが起きて、技術者を失えば一大事である。自分は何も感じなかったが、護衛の言に従い一度帰還することにした。
学者1「えっと、司祭さん。申し訳ないが本日は日が悪いようだ。一度帰還して日を改めようと思います」
そういうと部屋から出るように護衛に合図をし、技術者と学者も一緒に出口に向かった。
学者たちが背を向けたそのとき、司祭が手を大きく天に挙げた。
その行動を護衛の一部は目撃した。
そして次の瞬間、司祭の手が勢いよく下に振り下ろされた。
襲撃の合図だった。
部屋の周囲に配置されていた騎士たちがすばやく動いた。
護衛「敵襲!!」
ちょうど合図を見ていて、騎士が抜刀して向かってくるのを目撃した護衛の1人が叫んだ。
出口に向かって、学者たちの前を歩いていた護衛は、後ろから聞こえた叫び声に反応して。後ろに振り返った。すると学者たちの背後にいる護衛のさらに後方には、抜刀した騎士たちが走ってくるのが見えた。
これは大事と護衛も抜刀したが、出口前にいた騎士たちが、一瞬後ろに振り返った護衛の隙を見て、襲い掛かってきた。
一瞬の隙を突かれた護衛は後手に回った。
互いに実力者同士であり力は均衡していたのだろうが、数は騎士たちが20人以上いるのに対して、護衛は10人しかいない。
ただ、室内戦だったこともあり、数でごり押しはされなかったが、補助魔法などで援護された騎士たちに護衛は不利な戦いを強いられる形になった。
武具に関しても、少し前であれば浮遊大陸勢が装備するヨスギル製に苦戦していただろうが、浮遊大陸勢との戦闘などで回収したヨスギル製が大聖堂の騎士に優先的に配備されていたため、性能差が出なかった。
護衛は全員が抜刀して近接戦闘をしているため、補助魔法が使えないばかりか、技術者と学者、特に技術者を護りながら戦わなければならず、本来の力を発揮しきれていなかった。
護衛は最優先保護対象である技術者以外は見捨てることにして対応したが、いかんせん不意打ちに近い状況だったため、戦況の不利は終始覆すことが出来なかった。
学者も補助魔法で援護しようとしたが、早々に護衛に見捨てられたため、切り結ぶ相手がいなかった騎士の的に選ばれて、落命した。
補助魔法なしの護衛と補助魔法ありの騎士団。結果は見えていた。
次々と護衛が倒され、ついには技術者も殺害された。
こうして会議室での戦闘は収束した。
騎士団はトドメを刺してまわり、全員の絶命を確認してから大司祭に伝令を走らせた。
ほどなくして大司祭が会議室に現れた。
大司祭は転がる死体を見て、ついニヤリと口元が緩んでしまった。
大司祭「死体を外部に見られないように始末しろ。それと浮遊大陸勢による襲撃に備えよ」