天球長官と防衛長官
大聖堂での浮遊大陸勢とのやり取りから数日経過し、今や浮遊大陸には騎士団と少数の冒険者パーティーがいるのみとなった。
当然戦士達も空にいる。
防衛長官は冒険者達が減ることは確認しつつも、入れ替わりに来た騎士団が減らないことが不思議だった。
防衛長官「あのフルプレートの奴らは減らないな。どういうことだ?」
防衛長官と側近たちは会議室で今後の計画を話し合っていた。
部下「彼らには通信機の類が無いため、直接口伝にて浮遊大陸からの撤退を伝える必要があるとのことです」
防衛長官「そういうことか」
防衛長官はそういうと、少し何かを考えてボソリと呟いた。
防衛長官「そろそろ動くとするか」
そう言うと防衛長官は通信機でどこかに連絡を取り、会議をしていた部屋を出て行った。
防衛長官が向かった先は、自室だった。
長官室にあるドアからはすべての長官室へ通じる転移装置と、長官が集合して会議をする部屋への転移装置がある。
防衛長官は天球管理室の長官へ会いに行くため、転移装置のスイッチを入れた。
光が長官を包み込み、光が消えると長官の姿は無かった。
防衛長官が天球管理室の転移部屋に到着すると、少しして天球管理室の長官が出迎えに部屋に入ってきた。
天球長官「先ほどの通信で、何やら直接会って話したいことがあるとか?」
防衛長官「ええ、天球調整について報告と提案がありまして」
それを聞いた天球管理長官は頷くと自室へ誘導した。
2人の長官は長官室に入ると、向かい合うように応接セットに腰かけた。
天球長官「では始めようか」
防衛長官「以前、貴官からの報告にあった地上の者が浮遊大陸に侵入した形跡について、ずっと対応していたが、彼らの代表と話し合いをし、浮遊大陸から冒険者を撤退させることと闇の宝珠の分離について約束を取ることができた。
そして現在、浮遊大陸に侵入している冒険者の撤退作業は、ほぼ完了した」
天球長官「ほう。にしても、"ほぼ"というのはどういうことだ?」
防衛長官「彼らは我々のような通信手段を持っていないため、撤退指示をするには口伝しか無いそうだ」
天球長官「それは不便だな」
防衛長官「冒険者に浮遊大陸からの撤退命令を届けるために、伝令係として大聖堂の騎士たちが冒険者を探して建物内をうろついている状態だ」
天球長官「そいつらがいるから、ほぼ撤退ということか」
防衛長官「そのとおりだ。監視モニターによりまだ少数の冒険者パーティーがいること、騎士団がいることは確認しているが、もうすぐ撤退は完了すると見込んで次の手順に進みたいと考え、今日はこちらにお邪魔させてもらった」
天球長官「次の手順。闇の宝珠の分離か?」
防衛長官「そうだ。夜が来る忌々しい現状をさっさと打開したいのでな」
天球長官「奴らは闇の宝珠をなぜ開放させたんだ?夜の到来を望んでいたのか?」
天球長官は疑問をストレートにぶつけた。
防衛長官「どうやら光の宝珠で闇の宝珠を浄化して、闇の宝珠を消そうとしたようだ」
天球長官「なるほど、それで闇の宝珠を開放したら夜が訪れてしまったと」
防衛長官「ええ。彼らも夜は望んでいないようで、夜を消すために天球調整をしようと、ここ浮遊大陸に乗り込んできたようです」
天球長官「なぜ天球調整で夜が消えるという話になってるんだ?それに天球調整が浮遊大陸でできることも何故知っている?」
防衛長官「随分昔に闇の宝珠が地上に持ち出され、同じように夜が訪れたことがありました」
天球長官「ああ、記録には残っていたな」
防衛長官「その時に、実際、闇の宝珠を光の宝珠から分離する場面に地上の者が立会い、それを記録として大聖堂の大司祭が代々引き継いでいたようだ。だが、内容に誤りがあり、天球調整をすると夜が消えると記載されているらしい」
天球長官「なるほど。過去に分離したときのやり取りがうまく伝承されなかったから、起きた騒動か」
防衛長官「ええ。なので、彼らとしても夜は消したいから分離の話には乗ると返事が来ている」
天球長官の疑問は、防衛長官の説明で解消されていったが、不安がまだ残っていた。