英雄の代価
大司祭「座り給え」
大司祭に促されて、戦士は大司祭の目の前の席に座った。
戦士の後ろには隊長が立っていた。
大司祭「浮遊大陸発見の報を聞いた。よくやってくれた。礼を言うぞ」
戦士「私だけではありません。あの場にいた皆の手柄です」
大司祭は頷いた。
大司祭「今朝、新天地探索組が浮遊大陸へ発ったことは知っているか?」
戦士「いえ」
大司祭「そうか。現在後続組を募集している」
僧侶が言っていたことだったので、戦士は頷いた。
大司祭「知っておったか。"コボルト王討伐"パーティーである諸君らには参加してもらおうと思って、この場に呼んだのだ」
戦士は驚いた。
大司祭「実力があることが保証されているからな」
両脇に座る司祭は静かにやりとりを見ながら、時折頷いていた。
戦士「強制でしょうか?」
大司祭「そうなるな。行きたくないか?」
戦士「本音を言えば、行きたくありません」
申し訳なさそうに話す戦士だった。
大司祭「大聖堂入口の広場を見たかね?」
ここへ来る時に見た演習跡のようなものがあった場所だ。
戦士「はい。演習でもしたかのようでしたが」
大司祭「演習か。それならよかったんだがな」
そこまで言うと大司祭は隊長を見た。
隊長「冒険者よ。あれは演習ではなく襲撃の跡だ」
戦士はまたも驚いた。
戦士「襲撃?大聖堂に?いったい誰が・・・」
隊長「ヨスギル製品で身を固めた獣人種の部隊だ」
戦士「獣人種・・・・コボルト王の残党でしょうか?でもヨスギル製というのはおかしい」
今度は隊長が大司祭を見た。
大司祭が頷くと、隊長は話し始めた。
隊長「おそらく浮遊大陸の勢力だ。我々が宝物庫で戦ったのと同じ勢力だよ」
戦士「なぜ浮遊大陸から?どういうことでしょう?」
戦士はさっぱりわからなかった。
大司祭「闇の宝珠だ」
戦士「?」
大司祭「光の宝珠で闇の宝珠の浄化をしただろう?」
戦士「はい、確かに我々が大司祭様と一緒にやりました」
大司祭「やつらはそれが気に入らないようだ。闇の宝珠の分離に来たんだよ」
戦士「なぜですか?闇の宝珠と彼らに何の関係が?」
大司祭「いま"夜"が訪れるだろう?いずれ無くなるとはいえ、気づかないレベルでは闇の宝珠の影響が残る」
戦士「なら、なぜ!」
大司祭「彼らは僅かに残ることになる闇の宝珠の影響すらも許せないんだろうな」
戦士「それで戦闘になったと」
大司祭「そうだ。闇の宝珠を分離してしまうと、これまでと同じことの繰り返しになる。それを防ぐためには戦うしかなかった」
戦士「確かに闇の宝珠が元に戻って、地下勢力が勢いづくのは都合が悪いですね」
大司祭「幸い騎士団と防衛組の冒険者により、分離は阻止できたが、奴らが諦めるとは思えない。そこで早急に天にある光の玉の調整を実施したいのだよ」
戦士「調整ですか」
大司祭「そうだ。このことは話したかな?天の光の玉は現在、闇の宝珠の影響で暗くなったり明るくなったりしている。これを落ち着かせるための調整をしたほうが浄化が早く進むというものだ」
戦士「放置しているより早く良くなると、そんな話は聞きました」
大司祭「ふむ。調整のための道具が浮遊大陸にあるので、それを探すのが新天地探索組の仕事だ」
戦士「そこの後詰に加われということでしたね」
大司祭「そうだ。おそらく浮遊大陸では探索組が連中の妨害にあっているだろう。対抗するにはそれなりの戦力が必要となる」
戦士「それで実力の保証された我々というわけですね」
大司祭「そのとおり。わかってくれたかね」
戦士「理由と理屈は分かりました。断れないことも含めて」
大司祭「はっはっは、言ってくれるではないか。まあよい。出発はもう少し先だ。準備金を渡すから、それまで待機しておれ」
大司祭が隣の司祭に合図をすると、テーブルの下から金袋を取り出した。
これまたバスケットボール大のサイズだ。
戦士「こんなに」
大司祭「"強制"するんだ。当然だろう?」
大司祭はニヤリとして返答した。
戦士「言われてしまいましたね。わかりました。仲間にも伝えます」
大司祭「そうしてくれ」
大司祭は両脇の司祭と隊長に合図をした。
司祭「引き受けてくれてありがとう。今後の"成果"に期待しているよ」
隊長「冒険者殿、こちらへ」
隊長に促されて退室した。
隊長「本当は行きたくないところ、すまんな。我々も手伝いたいがそうもいかんのでな」
戦士「ここの警護がありますもんね」
隊長「そうだ。頼んだぞ、冒険者殿」
大聖堂入口まで隊長に送ってもらい、そこで別れた。
戦士「あーあ。終わるはずだったのになぁ」
戦士は一人でボヤいた。
金袋の重さと浮遊大陸任務継続の報告の重さで、ギルドへ向かう戦士の足取りは重かった。