報酬と責務
浮遊大陸から帰還した翌日、成功報酬を受け取りに大聖堂に向かった。
今回は辺りが明るく、前回のように子供がはしゃぎまわる風景は見られなかった。
僧侶「いつもの街並みですねえ」
戦士「ランプが道端においてあること以外はね」
魔剣「見回りもいないし、これが普通なんだがなあ」
スカウト「さて、と。今後はダンジョンの探索メインか」
魔法使い「僧侶の代わりも探さないとね」
魔法使いが僧侶を見ながら言うと、僧侶は申し訳なさそうに頭を下げた。
戦士「そもそもこのパーティーはずっと固定というわけではないですし、王の討伐という一区切りもついてますからね」
魔剣「僧侶さんよ。元"コボルト王討伐パーティー"メンバーですって売り込めばいいんじゃねえか?」
笑いながら魔剣が提案した。
僧侶「雇ってくれるところがなかったら、それも1つですね」
スカウト「全魔法習得の僧侶ってなると、また探すのが大変だな」
僧侶「迷惑かけますが、」
そこまで言ったとき戦士が止めた。
戦士「僧侶さん。気にしなくていいですよ。皆理由があってこのパーティーに所属しているんです。
理由が無くなれば解散や脱退だってありえるんですから」
僧侶「ありがとうございます。お言葉に甘えて自分の道を歩んでいこうと思います」
スカウト「死ぬんじゃねえぞ。後味悪いからな」
魔法使い「スリッパは絶対に持ってなさいよ!逃げられるんだから」
魔剣「代役を見つけたら、最初みたく浅層で訓練かな。息合わせや実力判断が必要だからな」
戦士「そうですね。懐かしいな」
そんなやりとりをしていると、いつもの大聖堂が目に入ってきた。
戦士「代役がすぐ見つかるとは思えませんが、僧侶さんとしてはどれくらいこのパーティーに留まれそうですか?」
僧侶「新天地探索組として参加できる最後の日までかな。いつなのかは大聖堂に確認が必要ですね」
魔剣「ああ、浮遊大陸を探索する組か。確かうちらと同時期に募集していたよな」
スカウト「ああ。説明会も終わってるはずだが、まだ募集してるのか?」
僧侶「ええ。予備要員として募集はしてるみたいです」
魔法使い「ちゃっかり調べてあったのね」
僧侶「もちろん」
胸を張って言う僧侶にみなが笑った。
スカウト「夢を追うのも冒険者の目的の1つだ。生活のためなんて言う理由より楽しそうだな」
魔法使い「危険がある分、他の職より儲けがあるのは魅力的な仕事だけどね」
戦士「冒険者はいろんな人がいますからね。借金のせいで荷物持ちとして参加させられている人もいると聞きます」
魔剣「荷物持ちか。戦力にならんからキャンプ待機組だろうが、襲撃されたら終わりだな」
スカウト「2パーティー作れるところじゃないなら、そうなるな。2パーティー作るれるところなら、待機組にも戦力がいるから、どんなとこに拾われるかで命運が分かれるな」
僧侶「なるほどねえ」
魔法使い「あんたは間違いなくメインメンバーになるだろうから、そんな心配はないわね」
僧侶「まっとうなパーティーかを見極めなくては」
戦士「おっと、もう大聖堂に到着ですね」
大聖堂の前にはいつもの司祭数名と使用人が控えていた。
大聖堂敷地への入口から大聖堂入口まである通路は幅20m、長さ50mほどあり、その両脇には芝生が広がっている。だがその通路は、戦闘でもしたかのように荒れていた。
戦士「なんでしょうか。演習をしたにしては、場所が変ですね」
スカウト「王の視察かなんかで演習でも見せたのかもな」
入り口に近づくと、こちらに気づいた司祭が話しかけてきた。
司祭「おやおや、ご帰還ですな。報酬受取りに案内しますよ」
要件を言う前に、司祭から案内を受けた。
スカウト「さすがに顔を覚えられたか」
司祭は使用人を呼びつけると、使用人が案内を開始した。向かった先は、離れにある会議室を兼ねた建物だった。
入口で使用人が立ち止まり、中で受け取るように言うと入口へ引き返していった。
戦士「さて、残りの6割を受け取りますか」
戦士たちが部屋の中に入ると、すでに何組か来ており、司祭たちが受け取り作業の対応をしていた。
やり取りを終えたパーティーが立ち去り、場所の空いた司祭が、手を挙げて戦士たちに来るよう合図した。
司祭「お疲れ様でした。こちらが成功報酬の残り分となります」
机の下からバスケットボールサイズの袋を取り出すと、ドカっと置いた。
戦士「すごい量ですね」
スカウト「分けるのも大変だな、こりゃ」
僧侶「ギルドでわけましょうか。後任探しもできますし」
魔法使い「そうね」
一行がテーブルを立って離れようとしたとき、別の司祭から呼び止められた。
司祭「えっと、王を討伐したパーティーの方ですよね?代表だけで結構ですので、こちらへ」
戦士「ん?何だろう。とりあえず報酬は預けるから、先にギルドへ行っててくれないか?」
スカウトは戦士から報酬袋を受け取った。
スカウト「わかった。分配しながら待ってるぜ」
僧侶「お先に」
皆と手を振って戦士は別れた。
では参りましょうと、戦士は司祭に連れられて部屋を出た。
自分以外に連れて行かれる人はいないようだった。
廊下を進むと、先日一緒だった騎士隊長が廊下脇に立っていた。
隊長「よう。報酬は受け取れたか?」
戦士「ええ。おかげさまで」
隊長「そりゃよかった」
そこまで言うと、隊長も一緒についてきた。
廊下を進んだ先には観音開きの大きなドアが見えた。
木製で2枚合わせた幅は3mほどだった。
高さはいつものごとく3mと無駄に大きかった。
ギギギギィ・・・
扉が開かれると、20m四方の部屋が現れた。
造りは他と同じで白を基調としたもので、縁に金の刺繍がある濃紺の絨毯が敷かれていた。
部屋の正面のテーブルも先ほどの会議室にあったものと同様に大きく、幅2m長さ10mほどだった。
テーブルには大司祭とお付きの司祭2名が着座していた。