報告
地上に戻ってきた騎士は、急ぎ大聖堂へと向かった。
大聖堂に到着するとすぐに、大司祭へ報告するために司祭に取次ぎを依頼した。
司祭「大司祭様が、自室に来るようにとのことです」
騎士「大司祭様の部屋にですか?」
司祭「左様でございます」
騎士は了承すると、大司祭の部屋に向かった。
大司祭の部屋は大聖堂の一角にあるが、普段冒険者とのやりとりで使う部屋とは離れた場所にある。
大司祭の部屋の前には大きな扉があり、護衛の騎士が立っていた。
護衛「何の用だ?」
騎士「ダンジョン探索部隊より大司祭様に報告です」
護衛「わかった。そこで待っていろ」
そういうと護衛の一人が部屋に入っていった。
ほどなく、護衛が部屋から出てきた。
護衛「中に入っていいいぞ。武器はここで預かる」
武器を預けて中に入ると、部屋の正面には大机があり、大司祭が座っていた。
部屋は天井が3mほどで、天上の装飾は濃紺の正方形が並び、ところどころに金のひし形が描かれていた。
壁は白が基調となっており、窓はステンドグラスという他の部屋と同じ装飾だった。
大司祭のいる大机の前には、同じく大きな机と椅子があり、応接セットになっていた。
大司祭「報告があるとか?」
普段は話すことのない相手との面会で、騎士は緊張していた。
騎士「はっ!私はダンジョン探索部隊長で、謎の扉を発見したので報告に戻りました」
大司祭「ほう。それは浮遊大陸への扉だったんですか?」
騎士「そ、それが・・・ドアを開けることができませんでした」
大司祭の顔が曇った。
騎士「その扉のプレートには、このような文字が書かれていて、意味は出口だそうです」
騎士は大司祭に"EXIT"の文字が書かれた紙を渡した。
大司祭「ふむ。それで、この看板があるドアが開かなかったということか?」
騎士「はい。スカウト職らに調査させましたが、そもそもドアノブがない、鍵穴すらない、ということで彼らにはどうすることもできないとのことです」
大司祭「鍵穴すらないとな・・・」
騎士「その点なんですが、実はそのドアから来たと思われる一団と戦闘になりました」
大司祭が驚いた顔をして、聞いてきた。
大司祭「なんだと?そやつらは何者だったんだ?」
騎士「はい、冒険者との協議の結果、答えの1つとして想定したのは、襲撃してきた奴らはコボルト王の秘蔵の部隊ではないかというものです」
大司祭「1つ?ほかにもあるのか?コボルト王の部隊だと思ったのはなぜだ?」
騎士「はい。奴らが地下種の獣人種で組織された部隊だったこと、彼らの宝物庫で発見したものと同じヨスギル製品を身に着けていたことから、王の秘蔵の部隊ではないかと判断したものです」
大司祭「ヨスギル製品だと?王の間にいた奴らが装備せず、その部隊が装備していたというのも変だな」
騎士「そのとおりで、その点に我々もひっかかりましたが、2つ目は天上人が彼らと一緒に出てきたことです」
大司祭の目が見開いた。
大司祭「天上人だと!そやつも謎のドアから出てきたのか?」
騎士「残念ながら、謎のドアが開いたところは誰も見ていませんが、謎のドアへ至る宝物庫のドアから出てきたことは間違いありません」
大司祭「同じドアから獣人種と天上人が同時に出てきたということか」
騎士「いえ、同時ではありません。獣人種との戦闘の最中に天上人が出てきたのです」
大司祭「すると、最初に獣人種が出てきて、戦闘になり、そのあと天上人がドアから出てきたということか?」
騎士「そのとおりです」
大司祭「で、その天上人は何者だったんだ?」
騎士「それも謎でございます」
大司祭「何か聞き出せたのではないのか?」
騎士「それが、戦闘の最中に現れたものですから、増援だと判断されて殺害されました」
大司祭「うーん。そういうことか・・・」
大司祭は残念そうに返した。
騎士「彼らが宝物庫に現れたドアは通路につながっており、その通路には例の謎のドアしかありませんでした」
大司祭「それで彼らがそこから出てきたと判断したのか」
騎士「はい。シークレットドアが存在する可能性もあるので調査中ですが、不思議なことにその通路は床、壁、天井にいたるまですべてヨスギル製のプレートで構成されていました」
そのとき、大司祭の顔色が変わった。
大司祭「そのドアで正解だろう。それが浮遊大陸へ至るドアだ」
騎士「!!」
大司祭「地下種の王であったコボルト王が、浮遊大陸の技術を必要とするヨスギルを使って通路を作るなどありえん。その通路は浮遊大陸の技術によるものだ」
騎士「ということは、あのドアの謎を解けば解決ということですね!」
そこまで話したとき、騎士は品物を預かっていることを思い出した。
騎士「そうだ。大司祭様。天上人が持っていたものを冒険者から回収しました」
そういうと、机の上にペンダント2つ、カードキー1つを並べた。
騎士「この板状のものは、ダンジョン内のワープステーションで使っていたものと同じ形状ですが、これを使ってドアを開けようにも、差し込む穴がありませんでした。
こちらのペンダントは単なる装飾品だと思われます」
ペンダントとカードキーを見た大司祭は興奮した様子で話し始めた。
大司祭「でかした!これだ!!」
大司祭はペンダントを手に取ると、まじまじと見始めた。
大司祭「よくやった。よくやった。これだ、これだ。これでやっと先に進める」
騎士「それがドアを開けるための道具だったのですか?」
興奮する大司祭とは反対に、騎士は冷静に聞き返した。
大司祭「おお、すまんな。ドアを開けるのはそちらのカードキーだよ」
騎士「かーどきー?」
騎士は頭にハテナが浮かんでいる顔をしていた。
それに気づいた大司祭が続けた。
大司祭「その板のことだ。これはカードキーと言って、浮遊大陸のドアの開閉に使う鍵なのだよ」
騎士「これがカギ?こんな板切れが?こんなの適当な厚みのものを差し込んだら開いてしまうではないですか。不用心な文明だな」
騎士が呆れて話していると大司祭が返した。
大司祭「細かいことは省くが、鉄板など関係ないものではドアは反応しないようになっている。そのカードキーに細工がされているんだよ」
騎士「ほう。そんなことになっていたのですか」
大司祭「さて、カードキーがあるなら、その天上人が浮遊大陸から来たのは間違いなさそうだな。問題は差し込む穴がないとのことだが、、、」
騎士「はい。板切れを発見した時点で穴を探しましたが、見つからず、どうにもできなかったので報告に戻りました」
大司祭は騎士の報告を静かに聞いていた。
大司祭「ふむ。ドアの近くにプレートはなかったか?これくらいのものだ」
そういうと、大司祭は両手で10cm四方の四角形を作った。
騎士「あ、それならドアの横にありました!」
騎士は興奮した様子で答えた。
大司祭「よくやった隊長!それが鍵穴だ」
騎士は、何言ってんだこの人という顔に変わった。
騎士「お言葉ですが大司祭様。それは穴ではなく、単なるプレートですよ?」
大司祭「そのプレートにこのカードキーを当てれば、ドアが開くはずだ」
大司祭がカードキーを手に持ち、使い方を説明し始めた。
大司祭「この机がドアの横にあるプレートだとしよう、カードキーをこのように当てるのだ」
大司祭はカードキーを机にぴったりとくっつくように当てた。
騎士「それだけでドアが開くのですか?そういえばドアノブもなかったな」
大司祭「あとはドアの前にいればドアが開くはずだ」
騎士「大司祭様は浮遊大陸の技術にも明るいのですね?その知識も代々伝わる大司祭の書物からですか?」
大司祭「まあ、そんなとこだ」
騎士は大司祭からカードキーを受け取った。
大司祭「このカードキーとペンダントをセットで持っていけ。ドアの先を確認したら戻ってくるのだ。よいな?」
騎士「わかりました大司祭様」
騎士はそう返事すると大司祭に頭を下げ、退室した。