休憩
戦士「2階までは虫や獣人が敵だったが、3階はアンデッドが多いな」
僧侶「私のディスペルが効くのはいいのですが、、」
戦士「どうした?」
僧侶「アンデッドは一般的に麻痺や毒の追加効果を持っているものです」
魔法使い「あぁ」
僧侶「私はまだレベル不足で麻痺や毒を治療できないんですよ」
戦士「そのために治癒ポーションを用意してあるから、そこは平気だよ」
僧侶「早く習得して必要経費削減に協力したいものですな」
魔法使い「私と一緒よ。最初はお荷物なの」
魔法使いは膝を抱えながらつぶやいた。
戦士「問題は睡眠魔法が効かなくて補助もしにくいとこだよな」
僧侶「そうですねえ。せっかく私もクラス2の魔法で睡眠を習得したのに」
魔法使い「私も睡眠以外の行動阻害となるとクラス2の石化があるけど、1体だけだし。
呪文書一覧によると範囲攻撃魔法も習得できるようだけど、まだ習得できてないのよね」
戦士「睡眠と打撃による一方的な戦闘は望めないのが、痛いな」
僧侶「今後、そんなのばかりでしょうし、ちょうどいい訓練だと思えばいいんですよ」
戦士「それもそうか」
魔法使い「私がこの前石化させた変な奴・・・」
僧侶「ああ、ウエヤマサン!とか言いながら斧らしきものを振り回してたあいつですか」
魔法使い「あいつの攻撃あたったら、当たり所によっては一撃で死んじゃいそう」
戦士「あいつか、もう会いたくないな。救いは一人でずっとウエヤマサン!って言ってるから、離れてても気づけるくらいか」
3人は笑って首を縦に振った。
魔法使い「私は腐りはじめなのか、臭くてたまらないゾンビにはもう会いたくない」
戦士「そんなのに接近する前衛はもっとひどいんだぞ」
魔法使い「魔法で吹っ飛ばすのが一番か」
僧侶「いや、ディスペルで安らぎを与えてやりましょうよ」
魔法使い「魔力を直接ぶつけるライナー系魔法じゃなくて火系魔法がほしい」
戦士「なんでだ?」
魔法使い「汚物は消毒するものでしょう?」
僧侶「汚物。まあ、たしかにそうか」
戦士「扉の外が騒がしいな」
僧侶「人の声だから冒険者ですかね」
戦士「危機的な感じじゃなさそうだな。こんな時間が続く寝ずの番なら楽なんだがなあ」
僧侶「簡易休息で済む程度の探索を繰り返した方がよさそうですね」
戦士「こんなのは何日も続けるもんじゃないな。翌日のコンディションが皆まちまちになってしまう」
僧侶「確かに疲労度合いが、寝ずの番をした順番と起床時間でずいぶん変わりますね」
戦士「食料だけあればいいかと思ったが、そうではないな」
僧侶「ランプも有限ですからね。緊急時用に私のランプ呪文がありますが、使用は避けたいものです」
そういうと僧侶はずっと静かな魔法使いの方を見た。
僧侶「寝てるんじゃないだろうな」
戦士「寝てやがる。見張りなのに・・・」
僧侶「魔法使いは精神力使いますからね、平等に寝ずの番とはいかなそうですね」
戦士「僧侶もそうだろう?寝不足で祈りが通じなかったとかないよな?」
僧侶「ははは。そこは安心してください。効果は神力値が影響するのであって、疲労は無関係ですよ」
戦士「それは頼もしいな」
僧侶「前衛こそ寝不足で判断力鈍って攻防間違えるとか、やめてくださいよ」
戦士「判断力か。それを言うとやはり仮眠の繰り返しはリスクがあるな」
そういうと戦士は何やら考え込んでしまった。
「神力」値。ゲームでいうなら信仰心や精神といった回復系魔法に影響を与えるパラメータのこと。
知恵や知力といった攻撃系魔法に影響を与えるパラメータは「魔力」と呼ばれる。
ほかには体の頑強さを表す「体力」や敏捷性を表す「速さ」、運の良さを表す「運」、腕力を表す「力」がある。
致命傷を避ける能力を示す「HP」。HPが高いということは何度も剣で刺されても死なないのではなく、致命的な一撃を避ける技術で耐えているという感じだ。数字上は同じダメージでも最大HPとの割合でダメージを見ると想像できると思う。
よし交代だ。
魔剣は戦士に起こされた。
まだ寝ていたい、体が少し重く気持ち悪いが仕方ない。
気合を入れて起き上がった。そして周りを見渡すと僧侶がスカウトを起こしていた。
魔法使いは膝を抱えたまま寝ていた。
魔剣「おつかれさん・・・」
戦士に向けてそう言った魔剣の方が疲れている感じだ。
戦士「おいおい大丈夫か?」
戦士は先ほどの話の流れからして早速嫌な予感がしてきた。
魔剣「すまん。心配をかけた。気合をいれるぞぉぉぉぉ」
そう言うと両腕をぐるぐる回して体操し始めた。
僧侶「では今度は私たちが休みますので、頼みましたよ。いざというときは遠慮せずたたき起こしてください」
魔剣「おう!」
その発言と同時にガッツポーズをしてみせた。
魔剣「そういえば俺らは、なかなか起きなかったのか?」
戦士「なぜだ?」
魔剣「いや、魔法使いがもう寝てるから、俺らが起きなくて先に寝てしまったのかと」
戦士はにやりとすると、
戦士「寝落ちだよ。精神力使うせいなのか、途中で寝ちまったんだ」
魔剣「そうか・・・」
スカウト「そろそろあんたも休んだ方がいいぜ」
戦士「そうするよ」
そう言うと戦士は部屋の奥の隅にいる僧侶のとなりに移動して横になった。
魔剣とスカウトは入口を見ながら、寝ぼけた頭を起こそうと格闘していた。
スカウト「気を張って探索しているせいか、すぐに寝ちまったなあ」
魔剣「集中力が必要な職だから仕方ない」
スカウト「あんたもスペルキャスターの一種だろ?疲れないのか?」
魔剣「使用回数少ないのと、メインは前衛の仕事ばかりだったからそうでもないな。
もともと戦士だったし、今のところは問題ないかな」
スカウト「その体躯。リズマンなのにスペルキャスター職に就くとは思い切ったな」
リズマン。俗にいうリザードマン。力と体力、速さに優れるが魔法関係への適正は低い種族。
魔剣「過去にはリズマンなのにセイジになったジーラって女リズマンがいてな。
セイジは無理でもほとんど戦士な魔法剣士なら、やれるかなって挑戦したんだよ」
スカウト「すごいリズマンもいるんだな」
魔剣「戦士やってたときに、この場面でこんな呪文使えれば!と思ったことが何度もあってな」
スカウト「それがきっかけというワケか」
魔剣「そんなとこだ」
スカウト「で、そのジーラってセイジは大活躍してるのか?聞いたことないが」
魔剣「昔そんな奴がいたって聞いただけだ。成長途中で呪文も正規の半分しか習得できてなかったらしいし、簡単ではないんだろうな」
スカウト「魔法使いと僧侶の呪文両方習得だもんな。エルフだって大変だろうよ」
その時、扉の外が騒がしくなった。
スカウトの足に力が入る。
どうやら別パーティーの話し声だったようだ。
スカウト「心臓に悪いな」
魔剣「おそらくメイン通りになっているんだろうな」
スカウト「メイン通り?」
魔剣「ああ。ダンジョンで階段と階段を最短で結ぶ通路のことさ」
スカウト「ほう」
魔剣「深層に行けば行くほど、寄り道なんか途中でしたくない。そうなると自然と通る道が決まるのさ」
スカウト「なるほどな。人の後ろをついていけば、運が良ければ次の階段まで一直線だな」
魔剣「深層目指すパーティーなら2つ以上で協力しあって進むこともあるそうだから、それはありだな」
スカウト「まずは目的地確認しないとな。同じところが目的地とは限らんし」
魔剣「そうだな」
複数の足音が聞こえる。魔剣は戦闘態勢をとると同時に、スカウトが戦士を起こしに静かに走った。
スカウト「おい!起きろ」
スカウトは戦士の耳元で声をかけた。
その瞬間、ドアが開いた。
眠り魔法を先制攻撃でかけられれば最適だったが、魔法使いを起こしている時間はなかった。
魔剣が切りかかろうとすると、魔剣の目に入ったのは別の冒険者たちだった。
別冒険者たちもここで休憩しようと入ってきたのだった。
見張りの交代が楽になる。2つのパーティーは相談して休みに入った・・・