王の間
3パーティーはダンジョン入口に集合していた。
パーティーのリーダーはそれぞれ戦士、冒険者1、人間騎士だ。
戦士「皆揃ってますね」
冒険者1「ああ、やってやるぞ」
人間騎士「各自スリッパは持っているだろうな?」
獣人騎士「パーティー崩壊を悟ったら、さっさと使って離脱だ」
魔剣「一応、作戦の最終確認をしないか?」
冒険者1「いいだろう」
戦士「まず我々が最初にドアから侵入する。そして、、、おそらくは王と会話になるだろう。その時に他のパーティーもドアから侵入する。全員で王の話を聞いて、無駄だと判断したら、各パーティーリーダーの合図で戦闘開始だ」
冒険者1「私のパーティーは左側の兵を担当する」
人間騎士「我々は右側の兵だ」
フェアリー1「開幕に氷結系、火炎系、ライナー系の全体魔法とフレンジーミストをぶっ放すわね」
”フレンジーミスト”
対象に睡眠、麻痺、混乱、石化、沈黙、即死、瀕死などをランダムで与える魔法。
即死なら対象とのレベル差が、それ以外は魔力の差がモノをいう魔法。
今回は種族的に魔力の高いフェアリー種ということもあり、コボルトでは完全レジストは厳しい。
ただし、過信できないともいえる。
コボルトやオーク、ワービーストなどの獣人は共通して魔力が高めの種族であることが理由。
今回のフェアリーは、その点を考慮し、杖でさらに魔力を増強している。
”全体魔法”
俗にいうグループ攻撃より範囲が広い魔法。
いままでだと、窒息魔法が登場済み。
火炎系は純粋にダメージ狙い、氷結系は行動鈍化狙い、ライナー系は魔力を直接ぶつける無属性タイプで、魔法無効化能力を貫通する効果が少し高い。
スカウト「おそろしい・・・全体攻撃4連発か」
フェアリー2「杖で強化もしてるから、かなり効果を見込めると思う」
フェアリー3「で、残った手負いの処理をよろしくね」
フェアリー4「私がフレンジーミストを全体攻撃より若干遅らせて発動させます。そうすることで、全体魔法を耐えた敵に、状態異常で即座に追撃ができますから」
冒険者2「なるほどねー。私も全体魔法はライナー系があるから、詠唱するね」
魔法使い「私も火炎系なら全体魔法使えるから、一緒に詠唱する」
獣人騎士「おぉ、いいねえ、全体6連発か。魔法障壁系を展開されなければ大ダメージ確定だな」
冒険者3「それだけで勝負が決まりそうだな」
スカウト「移動は転移魔法か?」
冒険者2「そのつもりよ」
魔法使い「そっか。となると、私はクラス7最後の1発分を開幕にぶっぱするのか」
フェアリー1「魔法使用回数が2なの?」
魔法使い「そうなの。まだクラス7を先日習得したところでね」
ちょっと申し訳なさそうに話す魔法使いを見て、フェアリーが提案してきた。
フェアリー2「ねえ、彼女のパーティーは私が現地に飛ばすわ。そうすれば2回残したまま、現地にいけるんでしょ?」
魔法使い「うん」
獣人騎士「いいんじゃねえか、それで」
フェアリー2「じゃあ私が飛ばすね。私の魔法回数はあるから安心して」
ニコりと笑顔で答えてくれた。
戦士「ありがとう、助かるよ」
冒険者1「これも協力の在り方の1つだな。いい流れだと思うぞ」
人間騎士「あ、そうだ大事なことを1つ。転移先についてだ」
そういうと人間騎士は地図をとりだした。
人間騎士「玉座のある王の間はこれ、その手前にワープステーションに飛ぶ装置がある前室、そのまた手前に通路がある。今回はこの通路に転移するぞ」
スカウト「なぜ直接前室に飛ばないんだ?」
獣人騎士「ワープ阻害のシールドがあるのか、転移できないんだ」
戦士「そんなこともあるのか」
人間騎士「以前、実際に試して分かったことだがな」
スカウト「では確認も終わったし、いくとするか?」
同意の意味で皆頷いていた。
転移魔法発動
辺りは光に包まれ、光が消えるとそこに彼らの姿はなかった。
前室へ通じる通路
その通路と前室をつなぐ場所にドアはない。正確には魔法の壁があるのだが。
戦士「前室には誰もいませんね」
獣人騎士「ほんと気味悪りぃな」
フェアリー4「行こうよー」
一行はゆっくりと前室に入った。
特に何かが起きる様子はなかった。
戦士「よし、あれが玉座へのドアだな」
ドアの前に集合し、リーダー同士が目で合図する。
いくぞ!
ついに王の間のドアが開かれた。今度は明確な攻撃意思を持って。
戦士たちのパーティーが部屋に入ると、室内にいた者がこちらに目を向けた。
戦闘態勢を取らないのは同じで、コボルト王が話しかけてきたのも同じだった。
王「よく来たな。地上種の冒険者よ」
その時、ほかのメンバーが部屋になだれ込んだ。
部屋の両脇にいた兵が戦闘態勢をとった。
王も一瞬、言葉を止めたが、また話し始めた。
王「今回は多いな。この王冠を奪取しに来たというわけか」
そういうと王は玉座にセットされていた王冠を手に取り、腕に掛けた。
そして、もう片方の手で両脇に控える兵たちに待ての合図をしていた。
王「さて、冒険者諸君、念のため聞いておこう。帰るのであれば、そのまま後ろのドアから退出したまえ。去るのであれば、追うことはせぬぞ」
ニヤリとしながら話す王の言葉に反応して戻る者など、いなかった。
王「やるというのか。愚かな。本当にやるつもりなのか?考えるくらいの時間は待ってやるぞ。仲間と相談するといい」
王に先制攻撃をする意思は全く無いようだった。
”戦闘”という点においては、愚策とも言える行為だった。
その一方で地上種のパーティーリーダーたちは、今だ!という合図を送った。
魔法使い6人は一斉に全体魔法を詠唱し始めた。
戦士とスカウト、魔剣は正面の敵に対して防御態勢をとった。
別パーティーの前衛陣は左右に散って、魔法使いたちを攻撃させまいと前に出た。
攻撃を察知した王は、すぐに待ての合図を解除した。
部屋の左右の兵たちは、自分たちに向かってくる前衛陣に対応すべく動いた。
そして、全体攻撃魔法の詠唱も半分おわったというところで、それは起こった。
部屋の左右が光に包まれた。
それと同時に、部屋の左右を担当していたパーティーも光に包まれた。
光りに包まれなかったのは、王と側近、そして王を担当している戦士たちのパーティーだけだった。
戦士たちは呆気にとられた。
まさに「あっ!」という間に光に包まれてしまったのだ。
そして光が消えたとき、そこには兵も別パーティーの姿も無かった。
戦士「なっ!?」
王「ふむ」
王は尚も玉座に座ったままだった。
王「さて、どうするかね? 引き返すのも手ではあるぞ?」
尚も退却を促してくる。
僧侶「今度は兵もいません。言葉に惑わされないで!」
僧侶の言葉は、一瞬ゆらいだメンバーの心をこの場に引き留めることに成功した。
魔剣「おっと、そうだったな。いくぞ!!」
魔剣は王の側近目指して突進した。