大聖堂
休息日になり、先日の王とのやりとりを大聖堂へ報告することにした。
僧侶「ほかのパーティーも同じ事してそうですけどね」
魔法使い「行ってみる価値はありそうじゃない?」
戦士「とりあえず行ってみよう」
いつものごとく、大聖堂入り口には数人の司祭が立っており、使用人も控えていた。
戦士「ダンジョンの王について情報提供です」
司祭「なんと。ここで少々おまちくだされ」
そういうと使用人に指示することなく、司祭自身がどこかへと走っていった。
魔法使い「行っちゃった・・・」
戦士「本人が動くなんて、やはり事は大きそうですね」
しばらく待機していると、司祭が戻ってきた。
司祭「お待たせしました。別室へ案内しますので、こちらへどうぞ」
そういうと、またもや使用人ではなく、司祭本人が案内を開始した。
僧侶「こんなこともあるんですねぇ」
大聖堂に入り、大きなホールを通って、いつもの取引部屋とは違う方向へ歩き出した。
ホールから出ると、見慣れた廊下がそこにはあったが、いつもとは違う場所だった。
大聖堂の本館というのか、大ホールのあった建物から離れたところにある、別の建物への通路を案内されている。
僧侶「こちら側に来るのは初めてですね」
司祭「こちらは会議や面会などで使用している建物になっております。冒険者さんというと大抵は、取引や報告ですから、こちらに用はないですかね」
僧侶「そうですね。確かにこの大聖堂には報告と取引でしか来たことありませんでしたね」
会話をしていると、廊下が行き止まりになり、そこには大扉があった。
3mはあろうかというもので、大聖堂の入り口ほどではないにしろ、大きな扉だった。
観音開きの扉を開けて、中に通された一行は、初めて見る部屋をじっくりと見まわした。
違う建物といっても、白を基調としたもので、天井は濃紺色という基本に違いはなかった。
窓もステンドグラスでカラフルになっており、光が差し込んでいた。
大きな部屋は30m四方あり、天井も5mあった。部屋の真ん中には、大きなテーブルがあり、長さ10m、幅2mはあろうかというデカさだった。
イスは白がメインだが、縁は金属質で、金色のコーティングがされており、金色の帯の中に濃紺のひし形が描かれていた。
司祭「そちら側にお掛けください」
イスを勧められた一行は、座ることにした。
戦士「あれ?思ったより軽い」
魔法使い「この金属ってミスギル製!?」
司祭「そうでございます。ダンジョンで回収できた金属塊は、このように加工して技術を磨いているのですよ」
そういって着座したことを確認した司祭は、もうしばらく待つように言うと、奥へ引っ込んでしまった。
しばし待機していると、先ほどの司祭が3人の司祭を伴って部屋に入ってきた。
司祭「お待たせしました」
先ほどの司祭がそういうと、ほかの3人の司祭が席に着いた。
司祭1「さて、王に会ったとのことですが、討伐したということでしょうか?」
戦士「いえ、戦ってはいません」
司祭1「戦わずに、会っただけということですか?」
戦士「そうですね。会話をして、帰還をしてもよいと言われたので、彼我の戦力差から撤退を選択しました」
司祭たちが何やらヒソヒソと話している。
司祭1「会話だけして、帰してくれたということですか、、、」
戦士「そうです。そこがわからないんです。なぜ彼らはこのような対応をとったのか」
戦士は司祭たちを見回すと続けた。
戦士「それに、この対応は、我々だけに対してだけ行われたのではなく、ほかのパーティーも同じだと聞いています。何か心当たりはありませんか?彼らが対話を望んでいるとか・・・」
司祭1「確かに、ほかのパーティーからも会話だけして、撤退したと報告を受けています。しかし我々にもそうする真の理由がわかりません」
司祭1は眉をひそめ、両手を組むとまた話した。
司祭1「あるとすれば、、、そうですね。時間稼ぎでしょうか」
戦士「時間稼ぎ?」
司祭1「こちらを混乱させ、闇の宝珠を奪われる可能性を下げるという、ある意味話術とも戦略ともいえる手段としてやっているということです」
司祭1はこちらを見回し、続ける。
司祭1「現に、あなた方も、ほかのパーティーもこうして我々のもとを訪れ、討伐をいったん先延ばしにしています」
スカウト「先延ばしにしたのは、相手の戦力も考慮して、だぜ?」
司祭1「そうでしたか。であれば、戦力を拡充し、討伐をするのが最善と考えます」
戦士「我々も戦力を整え、明日、出発する予定です。その前に何か情報がないか、伺ったんです」
司祭1「我々としては、それがやつらの策だとしか思えません」
スカウト「戦力で勝るのに、攻撃してこないことも戦略なのか?」
司祭1「冒険者を倒して脅威とみられるより、生かして謎を生み、混乱させることが、結果的に自分たちを長く生存させることができると判断してのことでしょう」
僧侶「確かにそういう考えもありますね・・・」
司祭2「万が一にでも、自身が負ければ、地下種の繁栄も終わりだと理解しているからこそ、考えに考えて、そのような行動をとり、”対話”という手段を用いたのでしょう」
戦士「では、大聖堂としては、彼らが襲ってこなかったのは、単にそれが生存の道として我々を殺すより有益だと判断したから、ということですか?」
司祭1「そうです」
魔剣「であれば、気にせずに明日実行すればいいの・・・か」
戦士「そうですね。確かにそれがやつらの戦略なら、ここで足踏みしていること自体が無駄ですからね」
司祭2「明日出発とのことですが、戦力は大丈夫なのですか?」
戦士「3パーティーで協力しての攻略を予定しています」
司祭1「それは頼もしい。我が国の王の兵士は、遺物収集で忙しいと言って、地下種の王の討伐にあまり乗り気ではないのです」
司祭2「こんなことを言うのもなんですが、我が国の王は、闇の宝珠の力が消えて、ダンジョン探索が安全にできるようになると、遺物収集の取り合いが激化し、自分たちの取り分が減ってしまうことを恐れているのでは、と考えてしまいます」
魔法使い「何てこと・・・」
司祭2「これはあくまで、彼らの行動からの推測でしかありません。直接確認したわけではありませんから」
魔剣「この大聖堂にも戦力はあるんだろう?」
司祭1「ありますが、ダンジョンは各地にあります。その対応を考えると、このダンジョンだけに戦力を投入できないのです」
魔法使い「元凶を一気に絶ってしまえば、解決が早いんじゃないの?って思うけど」
司祭2「万が一にも失敗して、戦力を失うわけにはいかないのですよ」
戦士「そういうことか。それで失敗しても、大聖堂にダメージのない冒険者に依頼を出した・・・と」
司祭2「言い方は悪いですが、そういうことです」
魔剣「なるほどな」
司祭3「では、質問と報告はこれで終わりですかな?」
今まで黙って聞いていた司祭が口を開いた。
戦士「最後に1つ。彼らの王はコボルト種だったんです。悪魔や吸血鬼種などの、より闇の力が強い者がいるのに、王は地上にもいるコボルト種だった、それも気になるところです」
司祭3「それは別の冒険者から報告を受けています。他にありますかな?」
戦士「いえ、以上です。」
司祭1「では出口まで案内させましょう」
そういうと最初の司祭が呼ばれ、大聖堂出口まで一行の案内を始めた。