王
ドアの先はまた部屋だった。
30m四方の部屋の一角は、壁が出っ張っており、看板がはめ込まれていた。
正面に見える看板の横にはドアがあった。
”転送先 ワープステーション”
どうやらここから、ワープステーションに飛べるようだった。
スカウト「行先が書いてあるとは親切だな。これは無視していくぜ」
部屋の違う方角を見ると、もう1つだけドアがあり、こちらにも看板が埋め込まれていた。
”玉座”
戦士「この先が玉座ってこと?この部屋に護衛すらいないとか、どういうことだ?」
スカウト「この玉座の看板自体が偽物の可能性があるな」
僧侶「一応警戒してドア開けてくださいね」
僧侶に念を押されて、スカウトは慎重にドアを開けた。
ドアの先は同じような部屋が見えるが、壁には装飾が施され、模様がある旗が掲げられていた。
部屋の中央には玉座らしきものがあり、そこに誰かが座っていた。
その両脇には護衛が立っており、こちらに気づいているが、襲い掛かってくる気配はなかった。
また部屋の正面以外には、たくさんのコボルトが控えていた。
スカウト「まずいな、数が多い」
魔法使い「一気に寝かすには、ちょっと無理があるかなあ」
魔剣「窒息魔法が効けばいいが、そうでないと袋叩き似合うことになりそうだ」
僧侶「スリッパですかね」
そういうと僧侶は宝石のスリッパを収納ボックスから取り出した。
おかしい。
こちらに気づいているのに、だれも襲い掛かってこない。
玉座にいる人物に視線を送っても、攻撃を合図してくるわけでもなかった。
戸惑う一行の様子を察したのか、玉座の人物が声を発した。
王「どうした? 入ってくるといい」
肘を肘当てにつきながら、中に入るよう促す仕草をしている。
戦士「どうするか、、、」
僧侶「いざとなればスリッパがあります。いってみましょう」
スカウト「奇襲攻撃でこちらに混乱魔法や眠り魔法使われるとヤバいぞ」
僧侶「私と魔法使いさんの対魔法用障壁があるから、全員が一気にやられることはないはずです。
残った人がスリッパをたたき割ってください」
戦士「わかった。行ってみよう」
恐る恐る部屋の中に入る一行を、コボルトたちが見守っている。
恐ろしい空間だった。
王「よく来たな。地上の冒険者たちよ」
王は恫喝するでもなく、静かに話し始めた。
王「いきなり攻撃してくるアホウでなくてよかったぞ。さて、、、、」
間を開けてから再度話し始めた。
王「随分と我が居城の品物を盗んでいってくれたな。だが、まあ、そんなことはどうでもよい」
そういうと王にピタリとくっついていた護衛が少し王の前から横にどけた。
王「怖いか。そうであろう。この数ではな」
王の姿がよく見えた。コボルトだった。
戦士「コボルトが王!?」
王「聞こえたぞ、冒険者よ。そうだ。コボルトの我が王だ。おかしいか?」
魔剣は恐怖を感じながらも口を開いた。
魔剣「まさか悪魔などがいる場所で、地上にもいるコボルトが王だとは思わなかったぞ」
王「そういうことか。確かに地上を住処に選んだ同胞がいることは知っている。だからこそ、不思議なのだ」
スカウト「何がだ?」
王「地上にいる同胞と、いま、おぬしらの前にいる我ら。何が違う?なぜ攻撃してくるのだ」
戦士「そちらが攻撃的な態度をとったからだ」
王「なるほど。その言葉に嘘はないようだな。現に今、こうして戦闘ではなく会話をしているのだからな」
王は一呼吸おいて、まだ話を続けた。
王「お主らの狙いは、これか?」
そういうと王は黒い玉が装飾されている王冠を手に取った。
王「この宝珠か王冠のどちらか知らんが、これが狙いなのだろう?」
戦士「そ、そうだ。と言ったらどうする?」
王「ふむ。まあ、さあどうぞと渡すものではないな」
そういうと王は笑った。
王「さて、どうするか。今、後ろのドアを開けて引き返すなら、我は止めぬぞ」
スカウト「見逃してくれるって言うのか?」
王「会話で対応した褒美だと思えばよかろう」
戦士「どうしたもんか」
スカウト「1パーティーでどうにかできる数じゃないぞ」
僧侶「素直に引きますか」
魔法使い「その方がいいと思う」
王「決まったか?」
そう言った王の言葉に反応し、護衛が戦闘態勢をとり、まわりにいたコボルトたちも隊列を組み始めた。
戦士「戻ろう」
王「うむ。それも1つだろう。さらばだ地上種の冒険者よ」
一行は運よく王の間から逃げると、転移魔法で地上へ脱出した。
白い光が薄れると、そこは地上だった。
戦士「ふぅーーーーーー」
僧侶「怖ぁーーーーー」
スカウト「外だー」
魔法使い「よかったぁーー」
魔剣「どうなるかと思ったが、助かった」
皆、自分の安全を確認すると、砕けるように地面に座り込んだ。
戦士「なぜ王は見逃してくれたのか、それがわからない」
スカウト「ああ。やつらの倉庫を荒らして持ちだしていることも知っていて、だ」
魔剣「何か理由があるのか?」
僧侶「闇の宝珠をもってくるよう、依頼をだしていた大聖堂に聞いてみますか」
魔法使い「それはアリだと思う。そうしよーよ」
戦士「そうだな」
スカウト「まだ心臓がバクバクしてるぜ」
魔剣「同じく」
僧侶「少し落ち着いてから移動しましょうかね。すぐに移動できる気がしない」
一行は命からがら、運よく離脱できたことを実感しながら、その場で休憩を始めた。