はじまり
はじまり
戦士は今日もダンジョンへ行くためのメンツ集めに酒場へ向かった。
冒険者たちは酒場で仲間探しをする風習がある。
酒場と言っても酒しかないのではなく、食事やお茶を楽しむ人だっている。
むさ苦しい雰囲気はない。
木製で茶色を基調とした壁やテーブルに囲まれて、たくさんの人がいる。
この街に来た冒険者たちの目的は大きく2つ。
1つはこの近くにあるダンジョン深層にある過去の遺物回収だ。
珍しい武具や装飾品、今は技術が失われて作り方のわからない金属家具などだ。
もう1つは闇の宝珠を持ち帰ること。
これは大聖堂から出ている依頼で、達成すれば大変な栄誉といくらかの報奨金が約束されている。
闇の宝珠。
地上の大聖堂に安置してある光の宝珠と対になる宝珠で、地下種族たちが守っている宝珠だ。
この宝珠からは闇の力が溢れており、地下種や魔物に力を供給している。
それにより地下深くにいくほど魔物たちの力も増していくのだ。
逆に光の宝珠の力が及ぶ地下1階程度であれば魔物は弱く、土地がなくて地下で生活する地上種もいる。
地上。
光りの宝珠の恩恵で空高くに光る玉から光と熱が供給され、地球で言うところの太陽の役割を果たしている。
この光の玉は動くことなく、一時的に光が弱くなるも一日中光っている。
地下では作物が育たず、地上でのみ収穫が見込めるため、一部の地下種たちは地上種と敵対せずに、
一緒に地上で暮らしている者たちさえいる。
地上種には人間やエルフ、ドワーフなどがいる。また天上人というはるか昔に空から降りてきたとされる種族の末裔も暮らしている。
地下。
主にダンジョンクラスの深い地下を指す。
光りが無いため、作物の育成は望めない。昆虫などがいるため、これを食料にしている種族が多い。
食物連鎖の底辺にいる種は闇の宝珠の力を受けた魔力水などが栄養源となっている。
また光がないので、ランプを魔法でともして通路を照らしている場所が多い。
ヴァンパイアなどの完全に夜目が効く種族なら不要だが、そんな種族ばかりが地下にいるわけではないので、
そんな設備があるのが現実だ。
さて、冒頭の戦士は闇の宝珠回収を目的としてこの街に来た地上種である。
同士を探すべく酒場で募集を開始する。
酒場では募集待ちの人のエリアがあり、そこでさらにある程度のレベル、つまりは強さで別れて席についている。チームで動く人たちだとレベルに差がでるが、平均的な強さの席にいることが多い。
見栄を張って一番レベルの高い人に合わせた席に座ってると、後で文句を言われるだけでなく、
ダンジョンで死の危険があるため、初期冒険者以外はそんなことする奴はいない。
よくあるのは戦士、魔法使い、僧侶、スカウトのパーティーだ。
バランスを考えて、彼もそんな仲間を探していた。
魔法使い「あら、この間はありがとねー。また探してるの?」
以前、戦士と組んだことがある魔法使いが気づいて声をかけてきた。
戦士「そうなんだ。よかったらまた一緒に組まないか?」
魔法使いは頷くとさらに口を開いた。
魔法使い「僧侶さんもセットでいいかな?」
魔法使いと話をしていた僧侶が戦士の方を向いた。
戦士「それはありがたい。探す手間が省けたよ。そちらさえよければ是非に」
戦士は手を差し出した。
僧侶はそれに答えて握手した。
僧侶「これであとはスカウトがいれば最低限の職は揃いますね」
魔法使い「前衛がもう1人ほしいところね」
そんな話をしている3人のところにモコと言われるスカウトに向いた種族の人影が近寄ってきた。
スカウト「お、結構人揃ってるな。よかったらご一緒させてくれないか」
3人は声のする方を向いた。
印象はいいし、こいつなら大丈夫かな。戦士はそう感じると
戦士「ちょうどスカウトを探していたんだ。こちらこそよろしく頼むよ」
握手をしてパーティスカウト完了だ。
戦士「さて、あと1人前衛がいると安定するんだが、だれかいないかな」
これだけバランスよくメンツが揃っている状態だと、パーティの組めていない人たちからの視線が熱い。
前衛を探しているようだとわかると、後衛陣はこのパーティへの興味を失い、別パーティを探し始めた。
前衛陣は早い者勝ちだといわんばかりに、彼らのテーブルに近づく。
戦士が詰め寄る中、1人だけ違う職の者がいた。
「私は魔法剣士をやっている者だ。以前は戦士をやっていたこともあるが、転職してな。ダンジョン探索の経験もあるから力になれると思うが、どうかな」
魔法と剣を操る魔法剣士という上級職からの申し出だっただけに、周りにいた戦士達はテーブルから離れていった。
戦士「まさか上級職が来てくれるとは。さらに戦士経験者なら私の先輩ですね」
そういうと笑顔で手を差し出した。
魔法剣士はその手を握り返した。パーティ成立だ。
戦士「ではメンツも揃ったし、準備をして明日出発しよう」
各々食料調達や道具調達のためにいったん解散し、街へ姿を消していった。