浮遊大陸の真実
どの書物から読もうか、どれも当然のことながら知らない書物ばかりである。司書長官は題名を見て回り候補を探していた。
"浮遊大陸の歴史"
"アルタイユ=フゾイ=トリア著"
司書長官は目に入ったその題名に興味をそそられた。
私の知らない何かがあるのかどうか気になるな。
著者名の名前が3つ表記、つまりは称号持ちの書物か。
"フゾイ"などという称号は聞いたことがない。おそらく過去に使われていたのだろう。
初めて見る名前に少し釣られたが、手に取った本を開いた。
まず最初に、我々天上人種は最初から浮遊大陸に住んでいたのではない。
最初は地上で他の地上種と一緒に生活をしていた。
ただ、夜を極端に嫌う我々を奴らは"セレス"つまり光バカと言って差別していた。
夜の間、光を得るために焚火やランプを欠かさずに確保して寝ていたからだ。
当時の天上人種は不便で仕方がない生活だっただろう。
そこでご先祖様は夜の発生源である天球を観察しはじめた。
すると地上の祠で祀られている光る玉 "宝珠" と同期していることに気が付いた。
この宝珠が暗くなった時、天球もまた暗くなっており、夜になっていた。
この宝珠の暗い部分だけでも取り出せないかと何年も何年も試行錯誤したようだ。
だが、うまくいかなかった。
そこで昼の間だけでも天球に近い場所で生活したい、地上種にバカにされながら生活したくないと考えるようになり、魔力で継続的に土地を浮かせて上空で生活する策を練り始めた。
そのためには継続的に魔力を供給する必要があり、魔道具を使ってこの問題を解決する試みがなされた。そして、あらかじめ魔道具に魔力を貯留し、それで浮かせる案が採用された。
昼は浮上して上空で生活し、夜は地上で生活していたあるとき、神が現れ、不憫である天上種に対し、浮遊大陸を作ってくれたと伝承されている。
浮遊大陸に仕組まれた偏光作用により、地上からは浮遊大陸を観測できず、更に浮遊大陸の存在により天球の光が地上に注ぐのを邪魔することもない仕掛けになっていた。
天上人たちは歓喜し、皆で浮遊大陸に移住していった。地上種と仲良くやれていたものは地上に残ったがほとんどの者が地上を去る形になった。
神は浮遊大陸を譲渡する代わりに天球を管理するよう、天上人たちに交換条件を付けた。
天上人たちはそれを受諾し、天球管理をするようになった。
天球の近くでの生活が確保されると、今度は夜の存在がなおのこと疎ましくなってきた。
空で生活することで光を供給する天球に近くなったが、同時に夜による闇を天球は供給していたため、闇の力もまた強かったからだった。
そこで、再度地上へ行き、祠の宝珠から闇の部分を取り出すことが出来ないかと再度挑戦することになった。
そしてあるとき、宝珠を光の宝珠と闇の宝珠に分離することに成功した。
だが、一晩で元に戻ってしまい、更なる研究が行われた。
時が経ち、研究の成果により分離しても安定させる方法が見つかった。
ただ、宝珠は近づけると合成する特性があるようで、離れて保管する必要があった。
調べていくといくつか法則がみつかった。
その1つが、光の宝珠だけを祭壇に祀ると夜が出現しないことだ。逆に闇の宝珠を祀ると一日中夜になった。
この異変に地上種が祠に集まってきたが、天上人種の仕業だとは気づいていないようだった。
天上人種の間で、この闇の宝珠をどうするか、恒久的に分離したままにするには、他人の目に触れない場所で保管したかった。また光の宝珠は地上ではなく浮遊大陸で祀りたかった。
とりあえず闇の宝珠は地面に簡単に埋めて、光の宝珠を浮遊大陸に持ち帰ることにした。
しかし地上にある祠に何の宝珠も祀っていなかったためか、昼と夜は交互に訪れていた。
分離しただけでは昼は継続出来ず、昼だけにするには祭壇に光の宝珠を祀る必要があることがわかった。
そこで地上の祭壇を浮遊大陸に持ち帰り、そこに光の宝珠を祀ることにした。
そうすればずっと昼の世界になるはずだ。
だが不幸なことに浮遊大陸に移設した祭壇に光の宝珠を祀った瞬間、どこからともなく声がして闇の宝珠が光の宝珠の前に突然現れ、合体してしまった。
この時の出来事は"古の盟約"の書物に記載があるとおりである。
"古の盟約"?
聞いたことない言葉だな。
司書長官はその書物を探すべく、書庫内をウロウロした。
薄黄色く、若干汚れた薄いB5サイズの本が目に留まった。
"古の盟約"と書かれていた。
これだ!
司書長官はそれを手に取ると読み始めた。




