各々の思案2
前話に続いて、他の人物の頭の中です。
カードキーをかざす際にあんな変な動きをさせる。そんな使い方があったとはな。
確かに我が専用書庫の鍵は他の部屋より古いタイプだし、変えないように代々引き継がれていた。
魔力の流れ的にあの書庫には何かあることは分かったし、それが鍵を変えない理由なんだろうと推察できたが、前任長官からはその違和感について、正確な引継ぎは何もなかった。
ただ、何かあることだけはわかるが、それが何かがわからないという報告だけだった。
自分で魔力の流れが気になり、いろいろ調べたが、解決に至らなかったし、場所が場所だけに他人に相談できなかった。おそらく過去の長官たちもそうだったんだろう。
私の代でその謎が偶然解けることになっただけ。運が良いともいえる。
知識の探究者としては、これまで誰の目にも触れてなかったであろうものを目にすることができるのだ。
司書長官は期待に胸をときめかせた。
ーーー後にその求めていた知識に打ちのめされるとも知らずにーーー
先ほどまでの会議室での地上勢力との談笑。意見交換。平和的手段のオンパレードな会合だった。
少し前まで敵性勢力としていた連中とこうして肩を並べて無警戒に歩いている。
今回の事件の責任を取り、防衛長官職を退くつもりでいたが、長官会議で出た結論は辞めて責任を取ったつもりになるのではなく、今回の事件の経験を活かして次が無いように対策を練ること。それの完成をもって責任を果たしたと認める、というものだった。
職を退かなくてよくなったが、課題も残ったことになる。
味方となった敵が目の前にいる。彼らに戦闘の手ほどきをしてもらい、地上の戦術を習得することはもちろん大事であろう。だがもう1つ、次に同じ事が起きないようにするために必要なことは、想定される敵は誰かということだ。彼ら地上種以外の何者かを想定せねばならない。
未知の敵に対する対策を練れ!と言われているようなものだ。
簡単に想定できるのは地下深く、闇の宝珠により守られていた悪魔種をはじめとした闇属性の強い勢力である。だが彼らとて、昼が存在するのでは安心して地上で暴れることはできない。
となると突然変異で昼に耐性を持った種族とかになるのだろうか。
すでに散ったあの特異種のような・・・
他には地上勢力が再度敵に回ることも想定しなければならない。
あとは500年ののち、地上生活に適応した元地下勢力が闇の宝珠の分離に反対して浮遊大陸に攻めてくる可能性といったところか。
これから入る司書長官室の資料を見たらまた違う敵が見えてくるかもしれんな。
大司祭様が大聖堂や冒険者を巻き込んで始めた今回の騒動。
闇の宝珠の回収と浄化を成功させたときは、何とも言えない達成感があったが、今は違う。
なんてことに手を貸してしまったんだという思いが強い。
だが、今際の際の大司祭様のセリフからすると、これから行く部屋にある情報は、夜の恒常的訪れに匹敵する内容なのだろう。
その内容が私の、そして同じく苦しむパーティーメンバーの心に平穏をもたらしてくれるものであることを切に願うばかりである・・・
それぞれの事情など関係ないとばかりに、転移部屋の転移装置は光を発し、メンバー全員を転送した。