各々の思案1
司書長官室への転移が可能な部屋へ向けて移動を開始した一行。
移動中は各自の頭の中を様々なものが駆け巡っていた。
ここがかつて大司祭が過ごしていた浮遊大陸の生活空間か。壁や天井は白が多く、大聖堂の内部の色合いに似ている。
通路は広く、往来の人はいてもぶつかるような密度はない。が、何故こんなに無駄に広く高い天井を持っているのか。不思議でしょうがない。まぁ、これがここの文明であると言われれば、それまでか。
もしかしたら、大司祭が過去にここの住人だったときに、今我々が歩くこの通路を歩いたことがあったかもしれない。
ここで見聞きし、得た知識から今回の暴挙に出たようだが、地上の施設より進んだ魔法物質文明を持つこの空間に何の不満があったのだろうか。
自動で開くドア、空調の整った空間、照明は窓からの採光が無くても光る天井板のおかげで明るく、ランプも不要。
各地点を細かに転移装置がつないでおり、面倒な馬車移動も馬の世話も不要。
私からすると夢のような空間が広がっている。
地上の生活を続けるうちに正確がひねくれすぎたのだろうか。
何にせよ、もうすぐ理由は明らかにされるだろう。
そう思い、大司祭補佐はそこで思考を停止し、また変わりゆく景色を見ながら移動に集中した。
光と闇の宝珠が混ざったものを分離するための技術と、それを行使する技術員をゼロから育成するという難題。
今は亡き技術員たちは口伝で技術を継承し、外部流出を防いでいたが、これがアダになり、継承者ゼロという状況になってしまった。
幸い司書長官から長官書庫にあったという書物で完全な情報ゼロ状態は脱却したが、頭痛の種であることに違いはない。
これから訪れる書庫に更なる書物があることを期待したいものだ。
あの大罪人の元司書長官が浮遊大陸を追放されるに至った原因は、夜の出現を図ろうとしたことだという。今回と同じことを過去にやっていたということだ。
そこまでして奴を駆り立てる理由は何だろうか。
我々も知らない秘密とやらに理由があるのだろうか・・・
天球長官もまた歩きながら色々と思案していた。
王城勢力として、初の浮遊大陸進入。そんな名誉を授かると同時に書物でしか知らなかった浮遊大陸に実際に触れることができるとは、なんと光栄なことか。
私は今、伝説を目にしているのだ。
いや、正確には浮遊大陸の存在は事実であると王城の文書に記録されていた。
その内容は太古の昔に浮遊大陸に移住した種族がいるというものだ。
とはいえ、歴史書にそう記載されているものの、空を見上げても大陸なんか見えない。雲が見えるだけだ。そんな事実から浮遊大陸はいつしかおとぎ話の世界の産物になり、伝説になった。
だが、現に私は先ほど土に草が生え、石畳の通路がある大地が空中に存在するのを見た。そして、そこを歩いてきた。幻や空想の産物ではなく、実在することを身を以て確認したのだ。
冒険者や大聖堂の連中は知らないが、王城の歴史書で使用されている言語は現在地上では使われていない言語であり、先ほど見た浮遊大陸の看板の文字とも違う。これから赴く部屋で歴史書のようなものが見つかり、そこに王城の書物と同じ文字があれば、過去に浮遊大陸で使用されていた言語と地上の言語が同じであり、浮遊大陸に移住した説の裏付けをとることができる。
確率は高いのだ。浮遊大陸文字と歴史書の文字、共通点が多く、時間をかけて変化した可能性がある。
わからないのは私や冒険者諸君、浮遊大陸人と今まさにコミュニケーションしている日常言語だ。どこから湧いたんだか。
往来の浮遊大陸人の会話が聞こえたが、浮遊大陸文字に準じた言語の者と、我々と同じ言語話者がいるのも、不思議な感じだ。
てくてく歩きながら考え事してるみたいです。