側近は歴史学者
今回も地上勢力が浮遊大陸へ侵入した際、防衛管理室では監視モニターから警告音が発せられた。
監視員「地上勢力の侵入を確認。モニターに映します」
責任者である防衛長官は警告音を聞いて、監視員の席までやってきた。
防衛長官「ああ、この服装は大聖堂の関係者だな。あとは騎士と・・・冒険者か。
このまま監視を続けろ」
戦力を見るに話し合いだろう。今度は何だろうか。だが都合がいいな。
天球管理長官に地上勢力が来たことを通信で伝え、2人で"中央"の転移先で待つことにした。
ダンジョンら転移してきた建物から出た側近は、そこが地上であるかと思えるような光景を目にした。
地面は芝生で青々としており、その中にきれいな石畳の通路が出現したからだった。
側近「霧で先がよく見えんが、ここが空だとは思えない風景だな」
団長「我々がいるので大丈夫ですが、地面には注意を払ってください。
地面が霧になっているところは床が無いのと同じで、落下しますので」
側近「地上へ真っ逆さまか。恐ろしい。諸君らの後ろをついていくとしよう」
側近は素直に従ってくれた。王の側近ということで我儘を言われないか心配していたが、どうやら常識人のようだ。
先ほどと違う建物に入るも、造りは同じで天井の高さと通路の広さが側近は気になった。
側近「浮遊大陸はどこもこんなに天井が高いのか?通路も無駄に広い」
団長「そうですね。どうやらこれが彼らの建築様式のようで、ほとんど同じですよ。
よくわからないのは天井の一部が光っていて、外部の光を必要としていないということでしょうか」
側近は天井を見上げると、確かにうっすらと天井の一部が光っていて、床までを明るくする役割を果たしているようだった。
側近「あれか・・・ランプとも違うようだし。なるほどな」
通路に設置された自動ドアや転移部屋。地上にはないものに側近は心を奪われているようだった。
しばし移動を続けると、ついに"中央"に到着した。
補佐「ここが浮遊大陸の中央部。通称"中央"です。住人や多くの行政機関が配置されているようです」
側近「なるほど"central"と先ほどのプレートに書かれていたが、そういうことか」
補佐「!? 浮遊大陸文字が読めるのですか」
驚いた様子で補佐が側近に尋ねた。
側近「一応歴史学者でもあるのでね。まぁ今回はそれが理由で選抜されたようなもんだな」
補佐「それは心強いことですな」
側近「ふむ。浮遊大陸に関する情報含めて、大聖堂に伝えていない部外秘情報も私は知っている。
今回はその答え合わせができれば尚良しといったところだ」
部外秘。大聖堂にも部外秘の闇の部分があるように王城にもあったのだ。当然か。
気になるのはそれが浮遊大陸に関することだという点だ。
大聖堂は大司祭の部屋を探しても、浮遊大陸に関する機密は何も出てこなかった。
―尤も大司祭自身が浮遊大陸人であったのだが―
補佐である私ですら、浮遊大陸については何も知らなかった。そういう点で大聖堂は浮遊大陸に関する情報を何も持っていなかったと言える。
今回の宝珠と天球を巡る事件で私が知っているのは、光の宝珠が大昔から存在していること、それこそ大聖堂が建立されるよりずっと前から。という点だけである。