遺言確認の旅の開始
大司祭の遺言を実行すべく冒険者と大聖堂関係者が大聖堂の離れにある建物に集合していた。
大司祭補佐はメンバーを見渡すと、もう見知った顔ばかりであり、挨拶は軽く済ませて本題に入ることにした。
補佐「本日集合してもらったのは、先日の大司祭の遺言を実行すべく、浮遊大陸に赴くことになったからだ」
そう前置きしてから、補佐の背後にいる人物に声を掛けて皆の前に進み出るよう促した。
補佐「こちらの方は、王より側近の一人を同行させよと命令があったため、今回同行することになった者だ」
簡単に紹介された側近は、軽く会釈すると補佐の横に移動して場所を補佐に譲った。
補佐「こちらの側近の方は当然ながら、初めての浮遊大陸侵入となります。
簡単に今回の流れを話すと、まずは"中央"に行って、浮遊大陸関係者と合流し、目的の司書長官室の書庫に行くという順番になる。そこで何を見ることになるのかは不明だが、大司祭の言うことが真実であるならば大きな発見があるだろう」
団長「今回は武力衝突が無いため、護衛は証人を兼ねた冒険者と騎士3名だけとなる」
団長が戦士を見ながら言うと、戦士は背筋を伸ばして返答する。
戦士「冒険者側として参加するのは、私のパーティー全員とフェアリーチームからはセイジと暗殺職の2名が参加します」
補佐「大聖堂としては、上級司祭が私以外に2名参加する」
参加総数は十数名の団体となった。
一行は暗闇の中、大聖堂裏口から出てダンジョンへ向かった。
大通りにはランプが設置されているが、裏通りはまばらにしかない。限りあるランプを有効活用するには仕方のないことだった。
ダンジョン入口は夜ということもあり、誰もいなかった。
誰にも見られないというのは、都合がよかった。後で色々うわさが立つとめんどくさい。
補佐「では転移魔法で最下層へ移動します。冒険者さんは各自でよろしく。大聖堂側は私がお連れしよう」
そういうと補佐は大聖堂関係者を集め、転移魔法を詠唱し始めた。
戦士「私たちも向かいましょう」
冒険者チームも転移魔法を詠唱し始めた。
ダンジョン入口に光が溢れ、それが消えたときそこには誰もいなかった。
地下最下層の王の間前室に転移してきた一行。詳細を知らない王の側近に対して、補佐は状況を説明しておこうと考えた。
補佐「ここはダンジョン最下層の王の間の前室です。地上から詠唱した転移魔法はここが終点となります。これより先は徒歩で向かいます」
側近「転移不可空間ということか。了解した」
王の間と宝物庫を抜け、浮遊大陸へ至る通路に入った。
側近「ここは他とは造りが違うな。なるほど、これが浮遊大陸文明か」
側近は壁に手を当て、顔を近づけるとヨスギル製プレートの壁を観察した。
補佐「さすがは王の側近。この金属がヨスギル製と分かった御様子。そう、ここはもう浮遊大陸文明の空間なのです」
通路の先にはドアノブの無いドアがあり、ドアの横には10cm四方のプレートが配置されていた。
側近「ドアか。ノブがないな」
団長がドア横のプレートにカードキーをかざすとドアが開いた。
側近「ほう。珍妙な仕掛けだな」
側近は初めて見る浮遊大陸文明の利器に驚いていた。
部屋の中で再度カードキーをかざすと、
ブーーーーーーン
という音がして、ドアが開いた。そこに見えるのは先ほどとは違う通路だった。
補佐「浮遊大陸へようこそ」
補佐は側近にそう言うと通路へ出るよう促した。
側近「部屋自体が転移したということか。なるほどな。私が王城の人間として浮遊大陸へ足を踏み入れた初の人物となるな。
歴史学者である私としては、浮遊大陸探索は公務を忘れてしまいそうだ」
かなりうれしいようで、先ほどまでとは顔つきが変わっており、キラキラしていた。
補佐「ではこの建物から出ましょう。次なる転移部屋へ案内しますよ」